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第一章 火蓋を切って新たな時代への狼煙を上げよ
第五話 最後の晩餐?(2)
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◆◆◆
そして宴会は始まった。
城内にある大食堂は料理の湯気と兵士達の熱気に包まれた。
食堂に全員は入れなかったため、宴は外にまで及んでいた。
それぞれ好き勝手にテーブルとイスを持ち出し、それを置いた場所が宴会場となった。
家具が手に入らなかった者達は木箱をテーブル代わりにした。
何も無くとも、床が冷たいことを我慢すればどこでも勝手にやれた。
軍隊らしい規律は緩んでいた。だが、それを注意するものは誰もいなかった。
「おーい、こっちにも酒だ」
魔王を倒したという事実は、やはり兵士達の心を躍らせていた。
だが、その高揚感の大きさと比べると、宴は比較的静かなものだった。
連戦による極度の疲労が馬鹿騒ぎをおさえていた。
「私にも注いでちょうだい」
その宴の中に、シャロンは一人の女として混じっていた。
「……ふう」
注がれた酒を一気に飲み干し、同じ香りのため息を漏らす。
その豪快さに、一人の男が声をかけてきた。
「強いな」
それは大砲を輸送していた男、ルイスだった。
「期待通り、魔王を倒してくれたな。おめでとう」
言いながら、ルイスはシャロンの勢いある飲みっぷりをもう一度見せて欲しいかのように、彼女のコップになみなみと酒を注いだ。
直後にシャロンはその期待に応えた。
そしてシャロンは、あなたの飲みっぷりも見たい、という心の声を響かせながらルイスのコップに酒を注いだ。
ルイスはその期待に応えようと、勢いよくコップを傾けたのだが、
「!? ごほ、ごほっ! なんだこれは?!」
その酒はルイスが注いだものよりもはるかに強いものだった。
その反応はシャロンが期待していたものであった。
だからシャロンは笑いながら答えた。
「知らない。酒蔵に一杯あったから持ってきてみたの」
シャロンは瓶に貼り付けられているラベルに視線を移し、その名前を読もうとしたが、
「そいつは『スピリッツ』ですね」
それよりも早く、そばで二人のやり取りを見ていた兵士がその名を述べた。
彼はこの酒に詳しい、感知能力でそれを感じ取ったルイスはその兵士に尋ねた。
「なんだこれは? 地元の酒なのか?」
兵士は頷いて答えた。
「ええ、そうです。高級品ですよ」
これにルイスはいぶかしげな顔で尋ね返した。
「この馬鹿みたいに強いだけの酒が高級品なのか?」
これにも兵士は頷いて答えた。
「味はたしかに良いとは言えませんが、そいつを作るのには手間がかかるんですよ。だから高い」
その答えはルイスの好奇心をくすぐった。
「これの作り方を知っているのか?」
兵士は三度目になる頷きと共に答えた。
「単純ですよ。何度も何度も蒸留を繰り返すだけです。蒸留すればするほど酒は強くなっていきますから。その『スピリッツ』を作るには五十回以上の蒸留が必要です。だから高いんですよ」
なるほど、それだけの手間が必要であるならば高級品扱いも納得できる、ルイスはそう思った。
そして好奇心が満たされたルイスの目の前で、シャロンはそのスピリッツを再びコップにそそごうとした。
が、
「待て。そこまでにしておけ、シャロン」
ルイスはその手を止め、その理由を答えた。
「痛み止めのために飲んでいるのはわかるが、ほどほどにしておかないと『この後』に響くぞ」
『この後』、ルイスはその言葉を強くシャロンの心に響かせながら、『手紙』を送った。
「……!」
その内容に、シャロンは顔に表れない程度に動揺した後、
「……そうね、そうするわ。ありがとう、ルイス」
お礼を述べ、その場から去ろうとした。
が、
「ルイス、一つ頼んでいいかしら?」
すぐにシャロンは振り返り、ルイスに向かって口を開いた。
『手紙』を読んだ上での頼みごと、それはシャロンの心を読むまでも無く予想できたことであった。
だが、ルイスはあえてその内容を尋ね返した。
「ああ、構わないさ。なんだ?」
そしてシャロンの口から出た内容は正に予想したとおりのものであった。
「外にいるサイラスのことをお願いできる? 私が話しかけても心を読まれてしまうから」
これにルイスが「ああ、任せろ」と快諾すると、シャロンは「じゃあ、お願いね」と、再び背を向けてその場から去っていった。
その背中を見送りながらルイスは思った。
(さて、と……頼まれごとは早めに終わらせて、この城から離れたほうが良さそうだな)
そしてルイスもシャロンと同じように席を立ち、宴会場から去っていった。
しかしこの時のルイスは知らなかった。
この宴会の思い出が後に意外な形で役立つことを。
そして宴会は始まった。
城内にある大食堂は料理の湯気と兵士達の熱気に包まれた。
食堂に全員は入れなかったため、宴は外にまで及んでいた。
それぞれ好き勝手にテーブルとイスを持ち出し、それを置いた場所が宴会場となった。
家具が手に入らなかった者達は木箱をテーブル代わりにした。
何も無くとも、床が冷たいことを我慢すればどこでも勝手にやれた。
軍隊らしい規律は緩んでいた。だが、それを注意するものは誰もいなかった。
「おーい、こっちにも酒だ」
魔王を倒したという事実は、やはり兵士達の心を躍らせていた。
だが、その高揚感の大きさと比べると、宴は比較的静かなものだった。
連戦による極度の疲労が馬鹿騒ぎをおさえていた。
「私にも注いでちょうだい」
その宴の中に、シャロンは一人の女として混じっていた。
「……ふう」
注がれた酒を一気に飲み干し、同じ香りのため息を漏らす。
その豪快さに、一人の男が声をかけてきた。
「強いな」
それは大砲を輸送していた男、ルイスだった。
「期待通り、魔王を倒してくれたな。おめでとう」
言いながら、ルイスはシャロンの勢いある飲みっぷりをもう一度見せて欲しいかのように、彼女のコップになみなみと酒を注いだ。
直後にシャロンはその期待に応えた。
そしてシャロンは、あなたの飲みっぷりも見たい、という心の声を響かせながらルイスのコップに酒を注いだ。
ルイスはその期待に応えようと、勢いよくコップを傾けたのだが、
「!? ごほ、ごほっ! なんだこれは?!」
その酒はルイスが注いだものよりもはるかに強いものだった。
その反応はシャロンが期待していたものであった。
だからシャロンは笑いながら答えた。
「知らない。酒蔵に一杯あったから持ってきてみたの」
シャロンは瓶に貼り付けられているラベルに視線を移し、その名前を読もうとしたが、
「そいつは『スピリッツ』ですね」
それよりも早く、そばで二人のやり取りを見ていた兵士がその名を述べた。
彼はこの酒に詳しい、感知能力でそれを感じ取ったルイスはその兵士に尋ねた。
「なんだこれは? 地元の酒なのか?」
兵士は頷いて答えた。
「ええ、そうです。高級品ですよ」
これにルイスはいぶかしげな顔で尋ね返した。
「この馬鹿みたいに強いだけの酒が高級品なのか?」
これにも兵士は頷いて答えた。
「味はたしかに良いとは言えませんが、そいつを作るのには手間がかかるんですよ。だから高い」
その答えはルイスの好奇心をくすぐった。
「これの作り方を知っているのか?」
兵士は三度目になる頷きと共に答えた。
「単純ですよ。何度も何度も蒸留を繰り返すだけです。蒸留すればするほど酒は強くなっていきますから。その『スピリッツ』を作るには五十回以上の蒸留が必要です。だから高いんですよ」
なるほど、それだけの手間が必要であるならば高級品扱いも納得できる、ルイスはそう思った。
そして好奇心が満たされたルイスの目の前で、シャロンはそのスピリッツを再びコップにそそごうとした。
が、
「待て。そこまでにしておけ、シャロン」
ルイスはその手を止め、その理由を答えた。
「痛み止めのために飲んでいるのはわかるが、ほどほどにしておかないと『この後』に響くぞ」
『この後』、ルイスはその言葉を強くシャロンの心に響かせながら、『手紙』を送った。
「……!」
その内容に、シャロンは顔に表れない程度に動揺した後、
「……そうね、そうするわ。ありがとう、ルイス」
お礼を述べ、その場から去ろうとした。
が、
「ルイス、一つ頼んでいいかしら?」
すぐにシャロンは振り返り、ルイスに向かって口を開いた。
『手紙』を読んだ上での頼みごと、それはシャロンの心を読むまでも無く予想できたことであった。
だが、ルイスはあえてその内容を尋ね返した。
「ああ、構わないさ。なんだ?」
そしてシャロンの口から出た内容は正に予想したとおりのものであった。
「外にいるサイラスのことをお願いできる? 私が話しかけても心を読まれてしまうから」
これにルイスが「ああ、任せろ」と快諾すると、シャロンは「じゃあ、お願いね」と、再び背を向けてその場から去っていった。
その背中を見送りながらルイスは思った。
(さて、と……頼まれごとは早めに終わらせて、この城から離れたほうが良さそうだな)
そしてルイスもシャロンと同じように席を立ち、宴会場から去っていった。
しかしこの時のルイスは知らなかった。
この宴会の思い出が後に意外な形で役立つことを。
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