Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第八話 もっと力を(3)

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 アリスはそれについて答えた。

「まずこの場所だけど……そうね、夢の中と大差は無いわ。違うのは、あなたの夢では無く、私の夢の中であるということよ。だからあなたに自由が無いの」

 その説明ではシャロンは納得出来なかったのを感じ取ったアリスは、説明をやり直すことにした。

「具体的に言うと、あなたの魂の中にある意識の部分を私に繋げているのよ。私達はルイスの頭の中でおしゃべりしてるの。だから静かに、ね?」

 最後の部分でアリスは自分の唇の前で人差し指を立て、「静かに」の部分を強調した。
 そしてこの説明でシャロンが理解したのを感じ取ったアリスは話を次に進めた。

「じゃあ次は……さきほどの彼のことね」

 そう言ってアリスは目を閉じた。
 どう言えば上手く伝わるのか、それを悩ましく考えていることがシャロンにも伝わってきた。
 すこしして、アリスは再び口を開いた。

「彼は……哀れな人よ」

 それはアリスの彼に対しての正直な思いであった。
 アリスはその思いの理由を語り始めた。

「かつては家庭を大事にする良い職人だったんだけど……いまでは何を目指しているのかも、何のために腕を振るっているのかすらもわからなくなってしまっているわ」

 そう言った後、アリスは目を開いた。
 そしてシャロンと視線を合わせながら言葉を続けた。

「そう、あなたが彼に抱いた印象は正しい。彼は狂っているわ。だけどそのおかげで彼は一流の職人でありつづけられるの」

 あきらめたような口調であったが、アリスの表情はどこか悲しげであった。
 アリスはその表情のまま続けた。

「彼は理想を追うために仕事をしているの。あなたを改良するという仕事をね。でも、彼の抱いている理想はおぼろげで、はっきりとした形をもっていない。彼は何を目指しているのかすらわからずに仕事をしているのよ。彼は永遠に辿り着けないまぼろしの理想を追い続けているの」

 その説明を聞いてシャロンも同じ思いを抱いた。
 哀れだ、と。
 その同じ思いを感じ取ったアリスは、それでも彼が必要だと述べた。

「でも彼はあなたを改良し続ければその理想にいつか辿り着けると本気で信じている。彼はあなたを改良し、影から手助けしてきた縁の下の力持ちなのよ。彼は混沌の機能の一部であり、私にとっては大事な部下であり、同居人のようなものよ」

 アリスは彼に対しての思いをすべて吐き出したつもりであった。
 だからアリスは話を次に進めた。

「じゃあ次は……お待ちかねのルイスにしましょう」

 シャロンは本当におまちかねだった。
 だからシャロンの意識は鋭くなった。
 だからアリスも慎重に言葉を選んだ。

「……そうね。ルイスと私の関係を一言で表すならば、『古い友人』よ」

 古い、その言葉に含まれている時間の長さは、人間の常識からかけはなれたものであった。
 だからアリスは次のように述べた。

「そしてそれを説明するには、荒唐無稽(こうとうむけい)なお話から始めなくてはならないわ」

 普通は信じられない、アリスはそう前置きしてから語り始めた。

「私とルイスの関係、それはわたしが『知恵のリンゴ』を食べたから始まったのよ」

 その出だしは本当に荒唐無稽だった。
 だからシャロンは、

「……?」

 アリスが想像した通りの表情を返した。
 それでもアリスは話を続けた。

「むかしむかし、気の遠くなるような大昔には『神』という存在が身近にいたの」

 それはまたまた荒唐無稽に聞こえたが、直後にアリスはシャロンの意識に釘を刺すように一言を付け加えた。

「念のために言っておくけど、宗教や娯楽話に出てくるようなものとは違うわよ。ただの人間のなれの果てよ」

 人間のなれの果て、その言い回しから、アリスが言っている『神』は『もとは人間』であることがわかった。
 そしてこの話についてはシャロンはすんなりと受け入れることが出来た。
 そういう存在が知り合いにいるからだ。当然、アリスもそのことを知っている。
 だからアリスは「念のために」説明を付け加えたのだ。
 そしてアリスは当時の『神』と人間の関係について語り始めた。

「人類はその神に支配されていた。そういう時期があったのよ。そして残念なことに、良い神よりも残酷な神のほうが多かった。ルイスはそんな悪い神々に立ち向かった人間の一人なのよ」

 そこでアリスは一旦言葉を切った。
 次の言葉はあまり言いたくない内容だったからだ。
 だがそれでも言わざるを得ない、ゆえにアリスは再び口を開いた。

「そして私は支配され、『操られていた』側の一人。『知恵のリンゴ』は毒リンゴでもあったのよ」

 謎のリンゴで操られていた、その一言で当時の悪しき神と人の関係が容易に想像できた。
 だが、今は違う。そんなものはおぞましい関係は世界のどこにも見当たらない。
 それは誰かが、または何かがその関係を壊してくれたからだ。
 ルイスはその一人であり、

「でもルイスが私を助けてくれた。それ以来、私はルイスの仲間として行動するようになったの」

 アリスもその一人であった。

「だから彼がどうしてあなたに酷いことをしたのかも知っているわ」

 そして話はようやくシャロンが本当に知りたいことに戻ってきた。

「彼は魔法使いが憎いのよ。少し狂ってしまうくらいに憎くてしょうがないのよ」

 しかしその第一声はシャロンも少し知っていることであった。
 だが本当に少しだけだ。嫌いだと本人から聞いたことがある、その程度。
 彼は本心を隠していることが多いが、それがたまに滲み出ることがあった。それを聞いたらそう答えられた、その程度。
 だからアリスは言葉を続けた。

「悪しき神の支配から脱却したあと、彼も平穏な生活を送ろうとしたわ。だけど、それを魔法使いに壊されたのよ」

 それは詳しく説明されずとも身をもって知っていた。ゆえに魔王を倒した。
 だから、

「強い魔法使いがその暴力で無能力者を支配する。そんなものはあなたにとってはよくある話でしょう?」

 アリスも説明を省いた。

「だから彼は魔法使いそのものを憎んでる。だから彼はずっと無能力者の体を選んで奪っている。あなたのように強い魔法使いの体を奪うだけで生活が楽になるのに、彼はあえてそうしていないのよ。彼はそれほどまでに意地になっているの」

 アリスは「でもね、」と言葉を繋げた。

「彼だって分かっているのよ。憎むべきは悪い魔法使いなんだって。神と一緒よ。善いものもいれば悪いものもいる。力の強弱は関係無いわ。頭ではそう納得していても、どうしても許せないのよ。彼はそれほどの酷い目に遭ってしまった」

 そしてアリスは、

「ここからは怒らないで聞いてほしいのだけれど……」

 そう前置きした上で、

「私は彼がどんな酷い目にあっているのか知っている。私はそんな彼に同情したから今も手を貸しているの。彼があなたにしたことも黙って許したわ」

 怒るな、と言われてもその内容はシャロンにとっては不満しか無いものであった。
 だが、アリスはシャロンが口を挟むよりも早く、「だけど、」と言葉を続けた。

「今度はあなたに情がうつってしまったのよ」

 それはつまり、ルイスを止めてくれるということ? シャロンはそう思ったが、残念ながらそれはアリスにもどうにもならないことであった。

「いいえ。それは出来ないわ。肉体の部分の改造についてはわたしには手を出せない」

 じゃあどうするつもりなのか、シャロンに聞かれる前にアリスは答えた。

「ルイスが消したはずの記憶をあなたが思い出せたのはなぜだと思う? ルイスの仕事は完璧だった。あなたの脳内の記憶領域は全部調べられて手を入れられていた」

 その答えはシャロンにも予想がついた。
 アリスはシャロンが思った通りの答えを述べた。

「そうよ。わたしがわたしの魂の中にあなたの記憶を隠しておいたからよ。わたし自身もいじられたけど、ルイスにはまだバレていない。だから次も同じ手が通じると思うわ」

 でも、それは結局――ふと浮かび上がったシャロンの疑問に対して、アリスは答えた。

「……ええ、それも正解よ。結局、あなたに自由があるわけじゃない。次のあなたがどうなるかはわたし次第ということになる」

 しかしアリスは笑みを浮かべ、

「でも安心して。悪いようにはしないつもりだから」

 身勝手なセリフを述べたあと、一方的に会話を終えた。
 その一方的な終了は、まるで意識が突然落ちたような感覚であった。

 そしてシャロンは気付いていなかった。
 アリスは何者なのか、その疑問に対してアリスはちゃんと答えていないことに。
 わたしはルイスの知り合いであり関係者である、アリスが明かした情報はたったこれだけである。
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