Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第二章 アリスは不思議の国にて待つ

第八話 もっと力を(10)

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 サイラスの理性は即座にそれを実行に移した。
 命令を受けた死神達が外へと飛び出す。
 しかしそれはサイラスの体からだけでは無かった。
 骸と化したユリアンとレイラの体からも次々と飛び出している。
 その数は侵入した数よりも明らかに多かった。
 なぜか。
 ユリアンとレイラの脳を乗っ取ったからだ。
 魂の工場を利用し、自分達の複製を作ったのだ。
 そして数を増やした死神達は主人であるサイラスの前で整列した。
 まるで軍隊のようだ、うしろからみていたデュランはそう思った。
 それは正解だった。
 だからサイラスは指揮官として、

(突撃しろ!)

 魂に響く命令を下した。
 死神は一斉に飛び散った。
 前方にいる敵の影達に次々と襲い掛かる。
 恐怖で動けなくなっているゆえになすすべもなくやられていく。
 そもそも、死神を感知できていないものがほとんど。魂が発する波を受信できなければ回避不能に近い。
 感知できる者が全体に位置情報を共有しなければならない。
 だが、恐怖に縛られた心ではそれに気付けるはずが無かった。
 脳をやられた影達は、痛む頭をかかえながら次々とその場に崩れ落ちていった。
 そしてどうなったか。
 それは先の二人とほとんど同じであった。
 しかし違うところが一つあった。
 影達が生かされていることだ。
 やろうと思えば生命活動を止めてしまうことは出来る。
 だがあえてそうしない。
 なぜか。
 その理由は直後にデュランの目にも明らかになった。
 倒れた影達は再びゆらりと立ち上がり、歩き始めたのだ。
 しかし様子がおかしい。
 意識が無い。脳波を感じられない。
 だがある部分だけは活発に活動している。そこから死神達が飛び出している。
 そうだ。これは移動する拠点だ。我々の世界でいうところの空母の概念に近い。
 戦い疲れた死神達はこの移動する拠点に戻ってくるのだ。
 そして補給を済ませた死神達は新たな拠点を得るために出発する。
 さらにその行動には明らかな規則性があった。
 死神達はむやみやたらに襲い掛かっているわけではなかった。
 死神達は重要なやつから狙っていた。
 この脳を乗っ取れば次の攻撃が楽になる、そういう考え方だ。
 まさしくそれは兵站管理と同じであった。
 前線への補給が絶えないように数や位置を管理しながら戦線を拡大し、敵を征圧する、死神達がやっていることはまさに軍隊と同じであった。
 しかしこの軍隊は人間には無い特徴があった。
 この死神達には生存欲求がほとんど無いのだ。
 そしてそれは普通の死神とも違う部分であった。
 サイラスの死神達はまさに戦うために作られた機械のような存在であった。我々の世界でいうところの戦闘用AIに近い。
 この戦いに勝つ、その目的のためだけに死神達は進軍する。
 そしてその拠点の移動は、奪われた体がうつろな表情で歩いてくるさまは、まるで死者の行進のようであった。

「「「……っ!」」」

 だから恐怖が加速する。
 攻撃の正体すらわからない者がほとんど。
 ゆえに影達に出来るのは背を向けて逃げ出すことだけであった。
 だが、そうしない者達もいた。
 恐怖で動けないだけの者がほとんどであったが、そうでは無い者もいた。
 恐怖に耐性を持ち、さらに死神達の攻撃に抵抗できている者だ。
 そのような相手への対処法はいまのところ一つだけだった。
 指揮官であるサイラスが自らその者の前に立つ。
 そしてサイラスは剣を構えた。

「!」

 反射的に影も構える。
 しかしその身は震えていた。
 だが、その心は恐怖をはねかえそうとしていた。
 だから影の理性は叫んだ。

(守りに入ってはダメだ! 攻めなければ!)

 その心の叫びと共に影は勇気を振り絞った。
 そしてサイラスと影は同時に踏み込んだ。
 長剣と爪、二つの銀の軌跡が交錯する。
 直後にその銀色は赤色に塗りつぶされた。
 しかしそれはサイラスから生まれた色では無かった。
 噴水は一つだけであった。
 影はその身から派手に赤色を噴出しながら、その場に崩れ落ちた。
 サイラスはその赤い液体が背にかかるのを感じながら、次の目標に向かって足を出した。

「!」

 標的となった影がその身を強張らせる。
 一対一では勝てる気がしない、そう判断した影は「力を合わせなくては」と、心の声を上げた。
 影は能力者であり、その声はたしかに仲間の脳に響いたのだが、

「……っ!」

 誰の声も返ってこなかった。
 だから影は「誰か!」と心の叫びを上げた。
 しかしその叫びも虚空に吸い込まれた。
 気付けば、影はサイラスに背を向けて走り出していた。
 されどその足は遅い。ひざに力が入っていない。
 ゆえに怪我人の足に簡単に追いつかれ、

「がっ!?」

 その背に刃を受ける。
 瞬間、逃げろ、という心の叫び声が増えた。
 なんとか場に踏みとどまれていた勇気ある者達すら背を向けて走り始める。
 サイラスは離れ始めたその背を見送ることはしなかった。
 近い奴から追いかけ、その背を斬る。
 サイラスは疲れ果てるまで淡々とその作業を繰り返した。
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