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第二章 アリスは不思議の国にて待つ
第十話 神と精霊使い(11)
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◆◆◆
アルフレッドの意識はすぐに覚醒した。
先ほど変わらぬ池のほとり。
だが、今のアルフレッドは感じ取れていた。
これは夢と変わらぬもの。
自分のまぶたは閉じたまま。この映像は直前に見ていたものを利用しているだけであることを、アルフレッドは感じ取れていた。
自分の頭の中で大量の虫が活動しているのがわかる。
封印されていた能力が虫によって開放されている。
だから頭の中にもう一人いることにも気付いていた。
それはアルフレッドをここに誘い込んだ張本人。
アルフレッドの感知能力を封印した者。
その者は夢の中でアルフレッドの背後に立っていた。
アルフレッドはそれを感じ取れていた。
だからアルフレッドは振り返りながら声をかけた。
「久しぶりだね、アリス」
それはシャロンの中にいるものと同じアリスだった。
「久しぶりねアルフレッド」
挨拶の声質もまったく同じ。
アルフレッドは早速用件を尋ねた。
「それで? 今日はどういう用件で呼び出したんだ?」
アリスはさびしそうな顔で言った。
「今日はお別れの挨拶に来ました」
アルフレッドは別れの理由をすぐに察した。
「それはつまり……」
アルフレッドの予想は正解だった。
だからアリスはアルフレッドが抱いた正解をそのまま言葉にした。
「あなたが思っている通りよ。わたしの本体がついに追い詰められた」
面と向かって言いにくいことなのか、アリスは目を閉じて言葉を続けた。
「戦力差は大きく、わたしは守るだけで精一杯。さらに敵は人間を苗床にして精霊の数を増やし続けている」
そしてアリスは再び目を開いて言った。
「こうして会うことも難しくなる。だからお別れに来ました」
アリスが覚悟を決めていることは感じ取れた。
だがそれでもアルフレッドはあえて尋ねた。
「俺と別れたあと、どうするつもりなんだ? 戦うのか?」
アリスは少し考えてから答えた。
「もう逃げられないから戦うしかない。やるだけやってみるわ」
「……アリス、俺にできることは無いか?」
アリスは「ダメよ」と首を振って答えた。
「……あなたの心を読んだわ。それはダメ。わたしの本体を連れて逃げようだなんて、危なすぎる」
これにアルフレッドは食い下がった。
「逃げ足には自信があるんだが……」
それでもアリスは首を振った。
「ダメったらダメ。あなたはやつのことを甘く見ているわ」
しかしアルフレッドはあきらめなかった。
「それは確かにそうかもしれない。俺は敵のことをよく知らない。だけどアリス、それでも俺は君のために何かがしたい。君がこの森での生き方を教えてくれていなかったら、俺はどこかで死んでいただろう。だから恩返しがしたいんだ」
そう言われては、アリスも無碍(むげ)には返せなかった。
だけどアルフレッドに頼めることなんて――アリスはそう思った。
が、直後、ひとつだけ思い浮かんだ。
「……」
アリスはそれをすぐに声には出せなかった。
だが、優秀な感知能力者として覚醒しているアルフレッドはその思いをすぐに読み取り、口を開いた。
「あるんだな? 言ってくれ、アリス」
こうなると言うしか無かった。
アリスはゆっくりと口を開いた。
「……ここからはるか北の大地に、わたしが体をわけて産み出した妹がいるわ」
いや、娘と呼んだほうが正しい? アリスはそう思ったが言い直すことはしなかった。
そしてアリスはそんなことをした理由を説明した。
「それは古い友人からの頼みだった。ある王族を助けるために手を貸してほしいと。わたしはその友人に大きな恩があったから、それを返すためにそうしたの」
以上の説明で要点を掴んだアルフレッドは口を開いた。
「つまり、その人に会いに行けばいいということか。わかった。なら善は急げだ。すぐに出発しよう」
「……」
アルフレッドはやる気であったが、アリスの口は同意の言葉をつむがなかった。
なぜか。それをアリスは答えた。
「……しかしそれには問題があるわ。妹はわたしのことを知らない。故郷に未練が残らないように、記憶をいじって産み出してほしいというのが友人からの要求だったのよ」
そしてアリスはうつむきながら残念そうに口を開いた。
「わたし自身が会いに行ければ何の問題も無かったのだけれども……」
しかしそれはアルフレッドにとってはうつむく理由にはならなかった。
だからアルフレッドは提案した。
「じゃあ、やっぱり君を連れて行けばいいんだな?」
「え?」
「俺が君を連れて行く、結局それしか無いだろう?」
これにアリスは首を振った。
「何度言ってもダメよ。そんなの危なすぎる」
そしてアリスは「それに、」と言葉を続けた。
「わたしの本体はあなたには運べないわ。あなたの脳はわたしには狭すぎる」
それはたしかにその通りであった。
だが、その問題もアルフレッドは既に解決していた。
「だから分身を連れて行くんだ。きみが王族にそうしたように、俺にきみの分身を預けてくれればいい」
「……」
その言葉は至極正論であったゆえに、アリスには返す言葉が無くなってしまった。
そしてその沈黙の理由を察したアルフレッドは早速提案した。
「当然、その分身は俺の頭の中に住めるように作ってもらうとして、分身をここに連れてくることはできるかい?」
これにアリスは首を振った。
「無理よ。さっきも言ったけど、完全に囲まれてるわ」
その答えは予想できていた。
だからアルフレッドの覚悟は既に完了していた。
「やっぱり俺が受け取りに行くしか無いってことか」
その言葉にアリスは「だからそれは危ないから――」と、却下しようとしたが、アルフレッドは既に聞く耳を持っていなかった。
「じゃあ今からそっちに向かうよ。アリスは分身の準備をしておいてくれ」
「ダメよ、アルフレッド!」
その叫びには必死さがにじんでいたが、今のアルフレッドの心には響かなかった。
アルフレッドは一歩的に夢の会話を終わらせ、意識を覚醒させると同時に走り出した。
アルフレッドの意識はすぐに覚醒した。
先ほど変わらぬ池のほとり。
だが、今のアルフレッドは感じ取れていた。
これは夢と変わらぬもの。
自分のまぶたは閉じたまま。この映像は直前に見ていたものを利用しているだけであることを、アルフレッドは感じ取れていた。
自分の頭の中で大量の虫が活動しているのがわかる。
封印されていた能力が虫によって開放されている。
だから頭の中にもう一人いることにも気付いていた。
それはアルフレッドをここに誘い込んだ張本人。
アルフレッドの感知能力を封印した者。
その者は夢の中でアルフレッドの背後に立っていた。
アルフレッドはそれを感じ取れていた。
だからアルフレッドは振り返りながら声をかけた。
「久しぶりだね、アリス」
それはシャロンの中にいるものと同じアリスだった。
「久しぶりねアルフレッド」
挨拶の声質もまったく同じ。
アルフレッドは早速用件を尋ねた。
「それで? 今日はどういう用件で呼び出したんだ?」
アリスはさびしそうな顔で言った。
「今日はお別れの挨拶に来ました」
アルフレッドは別れの理由をすぐに察した。
「それはつまり……」
アルフレッドの予想は正解だった。
だからアリスはアルフレッドが抱いた正解をそのまま言葉にした。
「あなたが思っている通りよ。わたしの本体がついに追い詰められた」
面と向かって言いにくいことなのか、アリスは目を閉じて言葉を続けた。
「戦力差は大きく、わたしは守るだけで精一杯。さらに敵は人間を苗床にして精霊の数を増やし続けている」
そしてアリスは再び目を開いて言った。
「こうして会うことも難しくなる。だからお別れに来ました」
アリスが覚悟を決めていることは感じ取れた。
だがそれでもアルフレッドはあえて尋ねた。
「俺と別れたあと、どうするつもりなんだ? 戦うのか?」
アリスは少し考えてから答えた。
「もう逃げられないから戦うしかない。やるだけやってみるわ」
「……アリス、俺にできることは無いか?」
アリスは「ダメよ」と首を振って答えた。
「……あなたの心を読んだわ。それはダメ。わたしの本体を連れて逃げようだなんて、危なすぎる」
これにアルフレッドは食い下がった。
「逃げ足には自信があるんだが……」
それでもアリスは首を振った。
「ダメったらダメ。あなたはやつのことを甘く見ているわ」
しかしアルフレッドはあきらめなかった。
「それは確かにそうかもしれない。俺は敵のことをよく知らない。だけどアリス、それでも俺は君のために何かがしたい。君がこの森での生き方を教えてくれていなかったら、俺はどこかで死んでいただろう。だから恩返しがしたいんだ」
そう言われては、アリスも無碍(むげ)には返せなかった。
だけどアルフレッドに頼めることなんて――アリスはそう思った。
が、直後、ひとつだけ思い浮かんだ。
「……」
アリスはそれをすぐに声には出せなかった。
だが、優秀な感知能力者として覚醒しているアルフレッドはその思いをすぐに読み取り、口を開いた。
「あるんだな? 言ってくれ、アリス」
こうなると言うしか無かった。
アリスはゆっくりと口を開いた。
「……ここからはるか北の大地に、わたしが体をわけて産み出した妹がいるわ」
いや、娘と呼んだほうが正しい? アリスはそう思ったが言い直すことはしなかった。
そしてアリスはそんなことをした理由を説明した。
「それは古い友人からの頼みだった。ある王族を助けるために手を貸してほしいと。わたしはその友人に大きな恩があったから、それを返すためにそうしたの」
以上の説明で要点を掴んだアルフレッドは口を開いた。
「つまり、その人に会いに行けばいいということか。わかった。なら善は急げだ。すぐに出発しよう」
「……」
アルフレッドはやる気であったが、アリスの口は同意の言葉をつむがなかった。
なぜか。それをアリスは答えた。
「……しかしそれには問題があるわ。妹はわたしのことを知らない。故郷に未練が残らないように、記憶をいじって産み出してほしいというのが友人からの要求だったのよ」
そしてアリスはうつむきながら残念そうに口を開いた。
「わたし自身が会いに行ければ何の問題も無かったのだけれども……」
しかしそれはアルフレッドにとってはうつむく理由にはならなかった。
だからアルフレッドは提案した。
「じゃあ、やっぱり君を連れて行けばいいんだな?」
「え?」
「俺が君を連れて行く、結局それしか無いだろう?」
これにアリスは首を振った。
「何度言ってもダメよ。そんなの危なすぎる」
そしてアリスは「それに、」と言葉を続けた。
「わたしの本体はあなたには運べないわ。あなたの脳はわたしには狭すぎる」
それはたしかにその通りであった。
だが、その問題もアルフレッドは既に解決していた。
「だから分身を連れて行くんだ。きみが王族にそうしたように、俺にきみの分身を預けてくれればいい」
「……」
その言葉は至極正論であったゆえに、アリスには返す言葉が無くなってしまった。
そしてその沈黙の理由を察したアルフレッドは早速提案した。
「当然、その分身は俺の頭の中に住めるように作ってもらうとして、分身をここに連れてくることはできるかい?」
これにアリスは首を振った。
「無理よ。さっきも言ったけど、完全に囲まれてるわ」
その答えは予想できていた。
だからアルフレッドの覚悟は既に完了していた。
「やっぱり俺が受け取りに行くしか無いってことか」
その言葉にアリスは「だからそれは危ないから――」と、却下しようとしたが、アルフレッドは既に聞く耳を持っていなかった。
「じゃあ今からそっちに向かうよ。アリスは分身の準備をしておいてくれ」
「ダメよ、アルフレッド!」
その叫びには必死さがにじんでいたが、今のアルフレッドの心には響かなかった。
アルフレッドは一歩的に夢の会話を終わらせ、意識を覚醒させると同時に走り出した。
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