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第三章 荒れる聖域。しかしその聖なるは誰がためのものか
第十七話 地獄の最後尾(45)
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その一撃は胴を真っ二つにするような赤い線だった。
炎を纏った一撃。
直後、その赤い線はほどけるように、より細い複数の赤い線にわかれた。
そして次の瞬間、全ての線は同時に粉々に砕け、火の粉となって二人を赤く覆った。
まるで痛々しい場面を隠すかのように。
しかし目を凝らせば見えていた。
火の粉の赤とは違う、生々しい赤が混じっていた。
火の粉が消え始め、その赤が目立ち始める。
その赤は生々しさを強調するかのように少しずつ広がっているように見えた。
が、
「……っ!」
火の粉の多くが消え、そして明らかになったナンティの表情は険しいものであった。
目の前の生々しい赤は十分すぎるほどに大きい。されどナンティの表情は険しかった。
その理由は直後に赤い火の粉の霧が完全に晴れたことで明らかになった。
ナンティは胴を狙った。だが違った。
傷口は、赤色の出所は右足であった。
女は折り曲げた右足で斬撃を受け止めていたのだ。
深い、が、致命じゃない! そんな焦りと共にナンティは追撃のために踏み込んだが、
「くっ!」
その踏み込みは直後に女が繰り出した石突きによって阻まれた。
石突きとナンティの刃が火花を散らし、双方の距離が離れる。
槍にとって有利な間合い。
であったが、女が選んだのは逃げの一手のみだった。
屋台を踏み台にし、壁を蹴り、屋根上に登る。
その逃走に対し、フレディは「追わなくていい」と指示した。
あの傷はかなり深い。ちゃんと止血しないと戦えないはずだ。
そしてその逃走と治療を援護させるように部下の配置を変え始めている。この場が手薄になり始めている。
ならば今が最大の好機、そう思ったフレディは声を上げた。
「今だ、逃げるぞ! 負傷者達を援護しながら包囲を一点突破だ!」
声を上げながらフレディは遠くから広範囲を見るように女の動きを警戒し続けていた。
だから気付いた。気付いてしまった。
遠方から何者か達が駆けつけてきたのを。
その何者か達を引き連れている男が、女に挨拶のようなものをしたのを。
女の負傷を茶化した? その挨拶はそう感じ取れた。
あとは任せて休んでいろ、最後にそんな言葉を投げたように感じ取れた。
しかし問題は挨拶の内容では無かった。
問題は男達に対する女の評価のほうであった。
女は男達を信頼している、一目置いている、そう感じ取れた。
それが何を意味するのか、考えるまでも無かった。
だからフレディは叫んだ。
「急げ!」
それは、やはり焦りが色濃く滲んだ声になっていた。
だが、フレディにも分かっていた。
いくら焦って急いでも間に合わないことが。
そして間も無くそれは屋根上に姿を現した。
見知らぬ顔の男達の姿。
それに対して兵士達は声を上げた。
「敵の増援?!」
「ふざけるなよ、ちくしょう!」
その声には目の前にある現実に対しての怒りのようなものが含まれていた。
運命の神を呪うような声。
その声にフレディは共感した。
確かに、連中には容赦が無い。
ちっぽけな俺達を完膚無きまでに叩き潰そうとしているかのよう。
あまりにも過剰な増援。
それだけの余裕が敵にはあるということなのか。
だが、今はそれよりも気になることがあった。
だからフレディは中央に立つ指揮官らしき男を見ていた。
こいつも知っているような、どこかで会ったような――そんな思いを抱いた直後にその男達は場に舞い降りた。
「来るぞ!」
誰かが叫んだのを合図に、男達は動き出した。
一番に地を蹴ったのは指揮官らしき男。
影がまとわりつくように、左右後方に男の部下が追従する。
「!」
そしてフレディはようやく思い出した。
この男が誰の写しなのかを。
直後に男はそれが正解であると答えるかのように心の声を響かせた。
“剛破・狂獣烈波!”
第十八話 凶獣協奏曲 に続く
炎を纏った一撃。
直後、その赤い線はほどけるように、より細い複数の赤い線にわかれた。
そして次の瞬間、全ての線は同時に粉々に砕け、火の粉となって二人を赤く覆った。
まるで痛々しい場面を隠すかのように。
しかし目を凝らせば見えていた。
火の粉の赤とは違う、生々しい赤が混じっていた。
火の粉が消え始め、その赤が目立ち始める。
その赤は生々しさを強調するかのように少しずつ広がっているように見えた。
が、
「……っ!」
火の粉の多くが消え、そして明らかになったナンティの表情は険しいものであった。
目の前の生々しい赤は十分すぎるほどに大きい。されどナンティの表情は険しかった。
その理由は直後に赤い火の粉の霧が完全に晴れたことで明らかになった。
ナンティは胴を狙った。だが違った。
傷口は、赤色の出所は右足であった。
女は折り曲げた右足で斬撃を受け止めていたのだ。
深い、が、致命じゃない! そんな焦りと共にナンティは追撃のために踏み込んだが、
「くっ!」
その踏み込みは直後に女が繰り出した石突きによって阻まれた。
石突きとナンティの刃が火花を散らし、双方の距離が離れる。
槍にとって有利な間合い。
であったが、女が選んだのは逃げの一手のみだった。
屋台を踏み台にし、壁を蹴り、屋根上に登る。
その逃走に対し、フレディは「追わなくていい」と指示した。
あの傷はかなり深い。ちゃんと止血しないと戦えないはずだ。
そしてその逃走と治療を援護させるように部下の配置を変え始めている。この場が手薄になり始めている。
ならば今が最大の好機、そう思ったフレディは声を上げた。
「今だ、逃げるぞ! 負傷者達を援護しながら包囲を一点突破だ!」
声を上げながらフレディは遠くから広範囲を見るように女の動きを警戒し続けていた。
だから気付いた。気付いてしまった。
遠方から何者か達が駆けつけてきたのを。
その何者か達を引き連れている男が、女に挨拶のようなものをしたのを。
女の負傷を茶化した? その挨拶はそう感じ取れた。
あとは任せて休んでいろ、最後にそんな言葉を投げたように感じ取れた。
しかし問題は挨拶の内容では無かった。
問題は男達に対する女の評価のほうであった。
女は男達を信頼している、一目置いている、そう感じ取れた。
それが何を意味するのか、考えるまでも無かった。
だからフレディは叫んだ。
「急げ!」
それは、やはり焦りが色濃く滲んだ声になっていた。
だが、フレディにも分かっていた。
いくら焦って急いでも間に合わないことが。
そして間も無くそれは屋根上に姿を現した。
見知らぬ顔の男達の姿。
それに対して兵士達は声を上げた。
「敵の増援?!」
「ふざけるなよ、ちくしょう!」
その声には目の前にある現実に対しての怒りのようなものが含まれていた。
運命の神を呪うような声。
その声にフレディは共感した。
確かに、連中には容赦が無い。
ちっぽけな俺達を完膚無きまでに叩き潰そうとしているかのよう。
あまりにも過剰な増援。
それだけの余裕が敵にはあるということなのか。
だが、今はそれよりも気になることがあった。
だからフレディは中央に立つ指揮官らしき男を見ていた。
こいつも知っているような、どこかで会ったような――そんな思いを抱いた直後にその男達は場に舞い降りた。
「来るぞ!」
誰かが叫んだのを合図に、男達は動き出した。
一番に地を蹴ったのは指揮官らしき男。
影がまとわりつくように、左右後方に男の部下が追従する。
「!」
そしてフレディはようやく思い出した。
この男が誰の写しなのかを。
直後に男はそれが正解であると答えるかのように心の声を響かせた。
“剛破・狂獣烈波!”
第十八話 凶獣協奏曲 に続く
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