上 下
309 / 545
第四章 偽りの象徴。偽りの信仰。そして偽りの神

第二十話 母なる海の悪夢(7)

しおりを挟む
 その叫び声から数秒後に船はぶつかり合った。
 とがった先端が敵の船の横腹に深々と突き刺さる。
 その衝撃にひるむこと無く、フレディ達は敵の船に乗り移った。
 光る刃を振り上げ、乱戦に持ち込む。
 その乱戦に、横から割り込もうとするものがあった。
 白いサメが、今まさに海中から飛び出してフレディ達に襲い掛かろうとしていた。
 が、その奇襲は読まれていた。
 白いサメは飛び出した直後に、上空から急降下してきたサイラスの精霊に迎撃された。
 爆炎が広がり、衝撃波で船が大きく傾く。
 視界が遮られ、足場も悪い。
 だが、乱戦の音は響き続けていた。
 間も無く爆炎が晴れ、視界が回復する。
 それと同時に乱戦の音も止まった。
 そして見ると、戦いはフレディ達の勝利で終わっていた。
 だが状況は良くなるどころか、より激しくなり始めていた。
 仲間のうちの二人がそのことを直後に叫んだ。

「大型船が向かって来てるぞ!」
「こっちを狙ってる!」

 見ると、そこには数多くの砲門を備えた敵の大型船の姿があった。
 かなり距離が詰まっている。
 このままだと一方的に撃たれる。
 大穴が空いたこの船はもう使えない。突撃船には大砲が積まれていない。
 さらに、敵の大型船の前にはドラゴンがいる。
 攻撃能力はまだ不明だが、首長竜も多数周囲にいる。
 だからフレディは声を上げた。

「他の船を奪いに行くぞ!」

 その声に兵士達は同時に頷くと同時に、それぞれの持ち場に戻り始めた。

   ◆◆◆

 敵の大型船と巨大精霊の接近に合わせて、シャロンは声を上げた。

「こっちの大型船も前に出て! 小型船を援護して!」
 
 ドラゴンについての指示は出なかった。
 なぜなら、既に海中で待機しているからだ。
 直後にドラゴンは浮上を開始した。
 ドラゴンの体内に蓄えられている光魔法の粒子に海水が引きずられているゆえに、海面はドラゴンの浮上と共に盛り上がった。
 丘のようにふくらんだ海面を突き破り、波をたてながらドラゴンが現れる。
 そして登場と同時にドラゴンは仕掛けた。
 ブレスを一斉に放射。
 敵のドラゴンも同じくブレスで迎え討つ。
 同時に敵の大型船の砲門も火を噴いた。

(っ! やっぱりぶどう弾か!)

 その砲撃に、シャロンは表情を歪めた。
 砲撃の音と共に、味方のドラゴンの体には数多くの大穴が空いていた。
 散弾は広がるゆえに通常の砲撃よりも大型精霊の巨体に対して効果的だ。
 このままでは味方のドラゴンは全滅する。
 だが、大型船もできるだけ温存したい。補充無しの連戦の可能性は十分にある。
 ゆえにシャロンは声を上げた。

「副官に指揮権を譲渡! 私も前線に出るわ!」 
しおりを挟む

処理中です...