Iron Maiden Queen

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む

第二十五話 愛を讃えよ(32)

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「ナチャ!」

 反射的に喉の奥からその名が飛び出す。
 叫んだところで何も起きないし、何も変わらないことはわかっている。
 でも叫ばずにはいられなかった。
 ナチャが何をしようとしているのか、心を読むまでも無くわかったからだ。
 そしてルイスが叫ぶまでも無く、ヘルハルトはその接近に気づいていた。
 が、まるで叫び声で気づいたかのように、ヘルハルトはルイスの声の直後に振り返った。
 振り返りながら銃口を向ける。
 その動きにナチャは反応し、加速した。
 大きく広げた翼で空をあおぐ。
 巨大なヒレがついた太い尾を、魚のように揺らして風と共に泳ぐ。
 突進というよりは滑空、滑空というよりは泳ぎ。
 さらにただの泳ぎでは無い。サメが襲い掛かるがごとくの奇襲。
 この奇襲はヘルハルトの振り返りよりもわずかに速かった。
 
“っ!!”

 側面に体当たりを受ける形になったヘルハルトの心から、苛立ちと苦悶の声が小さく漏れる。
 その声を置き去りにするように、さらに加速してヘルハルトを押し運ぶ。
 ヘルハルトが踏ん張ろうとする気配を見せた瞬間、翼の角度と体の向きを変更。
 舞い上がり、ヘルハルトを空へと連れていく。
 その高度がある高さに達した瞬間、その速度は緩んだ。
 なぜか、それはヘルハルトの目にずっと映っていた。
 それは巨大光弾。
 ドラゴンの翼から、背中から糸が伸び、つながって牽引されている。
 数多くの小さなドラゴンの姿も見える。巨大光弾の牽引と誘導を手伝っている。
 ナチャが減速したのに対し、巨大光弾は加速していた。
 すなわち相討ち狙い。組み合ったままぶつける気だ。
 させるか、と、ヘルハルトは口を開いた。
 大きく大きく。アゴが外れたように見えるまで。
 銃口以外からでも魔力は放てる、そんな思いを一瞬響かせたあと、喉奥は赤く、そして銀色に眩く輝き始めた。
 その口を塞ごうとするように、巨大光弾が迫る。
 直後にヘルハルトの口は赤い光を放った。
 火花と共に爆発音が響く。
 その次の瞬間、巨大光弾は破裂した。
 直前の爆発音とは比べ物にならないほどの轟音が響き、空が白く染まる。
 ヘルハルトとナチャの姿はその白の中に呑まれて消えた。
 やった、倒した、そんな誰かの心の声が兵士達の中から響く。
 が、

「……っ!」

 ルイスの顔色はそれとは真逆であった。
 ルイスは一瞬の内に何があったのかを掴んでいた。
 ヘルハルトの口からの爆発魔法はナチャの脳を吹き飛ばしていた。
 そしてヘルハルトはナチャの巨体を盾にしたのだ。
 白く染まると同時にナチャの気配は完全に消えた。
 ナチャは死んだ、その言葉が浮かばないようにルイスは思考の一部を抑え込んだ。
 対し、ヘルハルトの気配は消えていなかった。
 気配は複数に増えていた。
 白く染まった空が青に戻ると共にその理由は明らかになった。
 ヘルハルトはバラバラに砕かれていた。
 飛行する力が残っていないらしく、吹き飛びながら重力のままに落ちていっている。
 が、ヘルハルトは落下しながらもがき始めた。
 バラバラになった体の部品が集まり始める。
 ヘルハルトはまだ死んでいない。再生しようとしている。
 だからルイスは口を開いた。

「シャロン、キーラ! 行――」

 温存していた主力を使うべき時は今、そう思ったルイスは彼女らに行ってくれと叫ぼうとした。
 が、寸でのところで止めた。
 そうじゃない、この場面は二人だけじゃない、そう考え直したルイスは全員に聞こえるように、全員の心に響くように心と口で叫んだ。

「いや、全軍突撃だ!」
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