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最終章 そして戦士達は人類の未来のための戦いに挑む
第二十五話 愛を讃えよ(38)
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ヘルハルトはシャロンとキーラの猛攻に晒され続けながらも、ギリギリのところで耐え続けていた。
数多くの仲間の犠牲によって、耐えることが出来ていた。
次々と特攻し、ヘルハルトの目の前で散って逝く。
魚群が死体をさらい、次々とヘルハルトの体に飛び込んで血肉に変わっていく。
その犠牲の積み重ねに、ヘルハルトの心から自然と声が響いた。
“すまない……みんな、すまない!”
声は勝手に湧き続けた。みなに聞こえるように大きく響いた。
“この戦い、何としても勝ちたい、いや、勝たねばならない! ここまでしてもらって負けるようであれば、『俺』は……!”
この『俺』という一人称を使った瞬間、ヘルハルトは思い出していた。
全てを失い、この森のある家族に保護された時の記憶を。
何も知らずに村で生活をしていた時の記憶を。
穏やかなその頃と同じような、似たような感情がヘルハルトの心の奥底から湧き上がっていた。
だからさらに思い出した。
このもう一つの記憶の中にいるもう一人の自分は、ずっとこれを求めていたような気がする、と。
奇妙な感覚の一致。
既視感に似ているが、しかし違う。
これだけ追い詰められているのに死への恐怖が無い。
むしろ、闘志がみなぎってきている。
それはシャロンとキーラにも感じ取れていた。
そしてヘルハルトは心だけで無く、見た目も大きく変わりつつあった。
背中からどんどん腕が生え、左右に四本ずつ、八本まで増えた。
まだほとんどの腕は機能していないが、じきに攻撃を開始するだろう。
足も増えた。というよりも下半身が変わった。
まるでクモのような多足。
腕とは違い足はもう機能し始めている。後退が速くなってきている。
胴体は屈強であり、弱々しさはもはや無い。
再生が速い。このままだとナチャが作った有利が消えてしまう。
そう思ったシャロンはキーラに向かって声を上げた。
「これ以上手こずるとまずいわ! 全力でいくわよ、キーラ!」
キーラは響き続ける爆音に負けじと、大声で答えた。
「それはつまり、時間制限付きでやるってこと?!」
シャロンはさらに負けじと、より大きく返した。
「そうよ! 限界を超えるの!」
言った直後にシャロンは始めた。キーラも従った。
体内で魔力を爆発させ、その力で心臓を加速させる。
鼓動の異常な速さに他の臓器が過剰に反応し、魔力が大量に生み出され始める。
体に魔力がみなぎり、毛穴から漏れ始めて髪が銀色にきらめく。
そして二人は銀色の衣を薄く纏ったような見た目に変わった。
シャロンはその神々しさを見せつけるように、大きく声を上げた。
「これが私達の最大全力! 止められるものなら止めてみなさい!」
この言葉に、ヘルハルトは戦士のように応えた。
“来い! 我々の絆とお前達の全力、どちらか強いか勝負だ!”
◆◆◆
(なんとか間に合ったようだな)
増援による奇襲が成功したことに、ナイアラは胸を撫でおろしていた。
(クトゥグアの存在はアルフレッドに情報を盗まれたから連中も知っているはず。だが、やはり休火山の存在までは把握していなかったようだな)
増援が来た方向には、ここ数千年活動していない休火山がある。
人間達が休火山の前に拠点を構築しなかったことから、この奇襲は通ると判断した。
(だが、本当にぎりぎりだったな)
その休火山はクトゥグアの拠点では無かった。拠点として使えるかどうかもわからなかった。だが試す価値はあった。
とりあえず手持ちの兵をすべて神の木の前に並べておき、火山が使えたらそこで作った兵を順次送り出す、そういう計画にしたのだ。
人間達の進行は我々の予想よりも速かったが、なんとか間に合わせることができた。
だから今は安堵するのが振舞う態度としては正しい。
のだが、クトゥグアは違った。
クトゥグアは違うところに興奮していた。
クトゥグアはその興奮のままに心を響かせた。
(いいぞ! 順調だ! そのまま続けろ!)
そしてクトゥグアは自身の興奮を共感させようとするかのように、ナイアラに向かって叫んだ。
(見たまえナイアラ! これが私の求めていたものだ!)
何に注目しろと言っているのか、それをクトゥグアは聞かれる前に答えた。
(恐怖や狂気で支配して軍の統制をとることは簡単だ! だが私は別の感情が持つ力に注目した!)
それは何か、聞かれてもいないのにクトゥグアは勝手に答えた。
(『愛』だよ!)
それのどこに優位性があるのか、それもクトゥグアは勝手に語り出した。
(自発的な自己犠牲から生じる高い結束力! 強い感情による素晴らしい連携! これが愛の力だよ!)
ナイアラは否定しなかった。口を挟もうともしなかった。
だからクトゥグアは勝手に語り続けた。
(生身であれば自己犠牲は戦力の減少に繋がってしまうが、精霊ならばその欠点は簡単に克服できる! 犠牲と再生を高速で繰り返すことができる!)
これについては、ナイアラは(それは確かにその通りだ)と、小声で思った。
クトゥグアはその小声を聞き漏らさなかった。
だからクトゥグアは高らかに叫んだ。
(祝福したまえナイアラ! 私の戦術は一つの極点へと到達しつつある! 私はこの戦いで愛の力を証明するだろう!)
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