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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十四話 武技乱舞(3)
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◆◆◆
カイルが陣を出た頃にようやく、その男の接近がヨハンの耳に入った。
「ヨハン様、敵の増援です!」
兵士の声に、ヨハンは足を止めずに尋ね返した。
「どこからだ! 数は!」
「一人です! 既に交戦状態に入っています!」
またしても一人。
しかし今度は怒声を返すことは無かった。
代わりにヨハンは視線を動かした。
その交戦音が耳に入ったからだ。
そして、ヨハンの視線上にいるバージルもそれに気が付いたようであった。
刹那遅れてバージルも同じ方向へ視線を向けた。
何かが凄まじい勢いで近づいてきている。
その何かはすぐに正体を現した。
バージルの眼前にいた兵士をなぎ倒し、姿を見せたのはリック。
リックはバージルの方を見ていなかった。
その視線の先にあるのは傷ついた母の姿。
これにリックは声を上げた。
「……貴様らぁっ! ここから生きて帰れると思うなぁっ!!」
殲滅宣言と同時にリックの足が前に出る。
しかしその駆け出しには鋭さが無かった。アンナ率いる騎馬隊の相手をした時と比べると見る影も無いほどに。
リックの足は既にかなり消耗していた。馬では間に合わないと踏んだリックは自分の足で山を二つ越えて来たのだ。
それを察したクレアは声を上げた。
「リック!」
制止の意味を込めて息子の名を叫ぶ。
しかしリックに止まる気配は無い。
それを見た兵士達が光弾を放つ。
宣言で注目を集めたからかその数は多い。
対するリックが回避行動を取る。
「!」
その動きに、クレアは目を見開いた。
まるで水が流れるかのような動き。
奥義は使っていないらしく、速くは無い。その足運びと体捌きは緩やかで静か。
しかし無駄が無い。見たことも想像したことも無い動きだ。
するすると、いとも簡単げに兵士との間合いを詰める。
そして、正面にいる兵士の体がリックの間合いに入った瞬間、
「破っ!」
気勢と共にリックが一撃。
眼前にいた兵士の体が真上に跳ね上がる。
リックが放ったのは低姿勢からの突き上げ右掌底打ち。
速い。クレア以外にははっきりと見えないほどに。明らかに奥義を使った動きだ。
そして直後、リックの影が再び鋭く動いた。
二つの打撃音が響き渡り、左右にいた兵士の体が派手に吹き飛ぶ。
やったことは単純。左に正拳突きを放った後、振り向きながら回し蹴りを放っただけ。
だが速い。素人目にはリックの体がぶれたようにしか見えず、二つの打撃音は重なりかけている。これも奥義を使った動きだ。
次の目標目掛けてリックが地を蹴る。
ほぼ同時にバージルも再び攻撃を開始。
しかし二人のつま先は全く違う方向へ向いていた。
バージルの狙いは変わっていない。ヨハンを目指している。
対し、リックはクレアを守るように動いている。クレアの近くにいる兵士を狙っている。
これを見たクレアはバージルを追う様に地を蹴った。
こうすれば三人で共闘する形になるからだ。
バージルが突撃し、クレアがその背を守り、リックが母を庇う。
三位一体である。が、クレアの意識は少し違う方向に向いていた。
クレアは息子の戦い方に意識を傾けていた。
リックの周囲には絶え間なく光弾が飛び交っている。
それらをリックは全て回避している。しかし驚くべきはそこでは無い。回避するだけなら自分にも出来る。
見るべきは動き。
息子の一挙一動を注視する。
しかし分からない。どうすればあんな動きが出来るのか。
起点が全く無い。風が吹いて自然に傾いたかのような、そんな回避動作。
その様子から力を抜いていることが分かる。
だが出鱈目に脱力しているわけでは無い。芯はある。体が大きく傾いても不安定さを感じない。力を入れるべきところにだけ入れているというような感じだ。理想的な脱力に見える。
以前の息子は、戦いに出る前の息子はこんな動きを見せたことは無かった。
この短期間でこうも変われるものなのだろうか? 疑いたくなるが、事実は目の前にある。一体、息子は戦場でどんな経験をしてきたのだろうか。
しかし、攻撃に転じる時は違う。自分がよく見知った動きに戻る。攻と防で動きが全く別物だ。
それもそのはず、リックは切り替えながら戦っていた。リックは夢想の境地の使用を防御のみに限定していた。
その理由は、夢想の境地だけで母を守ることが出来るのかどうか分からなかったからだ。
夢想の境地は無意識の領域で敵の攻撃を察知し反撃するものだ。しかし、その発動が味方への攻撃に対しても起きるのかどうかが、今のリックには分からなかった。
その考えがただの杞憂であることを、リックはこの戦いで知ることになる。
カイルが陣を出た頃にようやく、その男の接近がヨハンの耳に入った。
「ヨハン様、敵の増援です!」
兵士の声に、ヨハンは足を止めずに尋ね返した。
「どこからだ! 数は!」
「一人です! 既に交戦状態に入っています!」
またしても一人。
しかし今度は怒声を返すことは無かった。
代わりにヨハンは視線を動かした。
その交戦音が耳に入ったからだ。
そして、ヨハンの視線上にいるバージルもそれに気が付いたようであった。
刹那遅れてバージルも同じ方向へ視線を向けた。
何かが凄まじい勢いで近づいてきている。
その何かはすぐに正体を現した。
バージルの眼前にいた兵士をなぎ倒し、姿を見せたのはリック。
リックはバージルの方を見ていなかった。
その視線の先にあるのは傷ついた母の姿。
これにリックは声を上げた。
「……貴様らぁっ! ここから生きて帰れると思うなぁっ!!」
殲滅宣言と同時にリックの足が前に出る。
しかしその駆け出しには鋭さが無かった。アンナ率いる騎馬隊の相手をした時と比べると見る影も無いほどに。
リックの足は既にかなり消耗していた。馬では間に合わないと踏んだリックは自分の足で山を二つ越えて来たのだ。
それを察したクレアは声を上げた。
「リック!」
制止の意味を込めて息子の名を叫ぶ。
しかしリックに止まる気配は無い。
それを見た兵士達が光弾を放つ。
宣言で注目を集めたからかその数は多い。
対するリックが回避行動を取る。
「!」
その動きに、クレアは目を見開いた。
まるで水が流れるかのような動き。
奥義は使っていないらしく、速くは無い。その足運びと体捌きは緩やかで静か。
しかし無駄が無い。見たことも想像したことも無い動きだ。
するすると、いとも簡単げに兵士との間合いを詰める。
そして、正面にいる兵士の体がリックの間合いに入った瞬間、
「破っ!」
気勢と共にリックが一撃。
眼前にいた兵士の体が真上に跳ね上がる。
リックが放ったのは低姿勢からの突き上げ右掌底打ち。
速い。クレア以外にははっきりと見えないほどに。明らかに奥義を使った動きだ。
そして直後、リックの影が再び鋭く動いた。
二つの打撃音が響き渡り、左右にいた兵士の体が派手に吹き飛ぶ。
やったことは単純。左に正拳突きを放った後、振り向きながら回し蹴りを放っただけ。
だが速い。素人目にはリックの体がぶれたようにしか見えず、二つの打撃音は重なりかけている。これも奥義を使った動きだ。
次の目標目掛けてリックが地を蹴る。
ほぼ同時にバージルも再び攻撃を開始。
しかし二人のつま先は全く違う方向へ向いていた。
バージルの狙いは変わっていない。ヨハンを目指している。
対し、リックはクレアを守るように動いている。クレアの近くにいる兵士を狙っている。
これを見たクレアはバージルを追う様に地を蹴った。
こうすれば三人で共闘する形になるからだ。
バージルが突撃し、クレアがその背を守り、リックが母を庇う。
三位一体である。が、クレアの意識は少し違う方向に向いていた。
クレアは息子の戦い方に意識を傾けていた。
リックの周囲には絶え間なく光弾が飛び交っている。
それらをリックは全て回避している。しかし驚くべきはそこでは無い。回避するだけなら自分にも出来る。
見るべきは動き。
息子の一挙一動を注視する。
しかし分からない。どうすればあんな動きが出来るのか。
起点が全く無い。風が吹いて自然に傾いたかのような、そんな回避動作。
その様子から力を抜いていることが分かる。
だが出鱈目に脱力しているわけでは無い。芯はある。体が大きく傾いても不安定さを感じない。力を入れるべきところにだけ入れているというような感じだ。理想的な脱力に見える。
以前の息子は、戦いに出る前の息子はこんな動きを見せたことは無かった。
この短期間でこうも変われるものなのだろうか? 疑いたくなるが、事実は目の前にある。一体、息子は戦場でどんな経験をしてきたのだろうか。
しかし、攻撃に転じる時は違う。自分がよく見知った動きに戻る。攻と防で動きが全く別物だ。
それもそのはず、リックは切り替えながら戦っていた。リックは夢想の境地の使用を防御のみに限定していた。
その理由は、夢想の境地だけで母を守ることが出来るのかどうか分からなかったからだ。
夢想の境地は無意識の領域で敵の攻撃を察知し反撃するものだ。しかし、その発動が味方への攻撃に対しても起きるのかどうかが、今のリックには分からなかった。
その考えがただの杞憂であることを、リックはこの戦いで知ることになる。
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