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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す
第三十四話 武技乱舞(4)
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そして、クレアは息子に守られながら自身の体に魔力が戻るのを感じ取っていた。
(これならば――)
そろそろ奥義が使えるだろう、クレアはそう思った。
が、その「そろそろ」と言う言葉は誤りであるとすぐに気付いた。
魔力が急速回復し始めたのを感じ取ったのだ。
内臓の働きが完全に戻ったのだろう。
そして、その「だろう」という曖昧な感覚は瞬く間に消え去り、確かなものだけが残った。
「……」
近くにいる敵を見据えながら、体内に流れる魔力を練る。
このまま二人に守られながら前進するほうが堅実である。それは分かっている。
しかしこのクレア、そのような精神は生来持ち合わせていない。
それに、
(この二人の戦いぶりを目の前にして昂ぶらぬ武人などいない!)
などと、クレアは猛りに心を若返らせながら、鋭く地を蹴った。
一本足とは思えぬ踏み込み速度。
迫るクレアの姿に、兵士が目に驚きの色をにじませる。
表情が完成する頃には既に目の前。
兵士が防御魔法を展開し始める。
残念ながらもう手遅れ。
「っっぁ!」
直後、兵士の顔が激痛に歪み、その口が大きく開いた。
しかし大きな悲鳴は漏れない。
肺を貫かれたからだ。その胸は真っ赤に染まっている。
クレアは同じ色に染まった左貫手を脇の下に戻しながら、次の目標へ視線を合わせた。
これにリックが声を上げる。
「母上!?」
そんなに派手に動いて大丈夫なのか、という意味を込めた呼び声。
対するクレアはいらぬ心配だと言わんばかりに、力強い声を返した。
「私に合わせなさい! リック!」
言葉が耳に入ったのとほぼ同時に、リックは母へ向かって地を蹴っていた。
クレアの前方に五人の大盾兵が壁を成す。
それを見たクレアは地を蹴ってさらに加速。
その勢いを乗せつつ、
「せえやっ!」
踏み込み掌底打ち。
直撃を受けた中央の大盾兵が吹き飛び、それに押されて左右の四人がよろめく。
好機。右の大盾兵に追撃を、そう考えたクレアが地を蹴るための低姿勢を取る。
その瞬間、
「!」
クレアの視界に影が差した。
頭上に何者かがいる。
しかし不安は無い。それが誰かはわかっている。
その者、リックは屈んだクレアの頭上を飛び越え、
「でえぁ!」
前方にいた二人の大盾兵をなぎ払うように、右足を横に一閃した。
「「っっ!」」
声にならない悲鳴を上げながら、二枚の壁が吹き飛ぶ。
残るは両端の二人。
クレアが膝に込めた力を解放し、右に跳ぶ。
左の方を頼むと、声を発する必要は無かった。
同時にリックが左に跳んでいたからだ。
二人が地を蹴った音は完全に重なっている。
踏み込みながらクレアは左手を、リックは右手を脇の下に構えた。
形は双方とも開手。
二人の軸足が地に着く。これも同時。
流れるような動作で脇の下に込めた力を解放する。
「「破っ!」」」
ぴったりと重なった気勢と共に放たれた二つの掌底打ちは、二人の大盾兵を派手に吹き飛ばした。
大盾兵の体が地の上を滑る。
地を削るその音を聞いてようやく、リックは先の連携の異常性を認識した。
なぜ自分は母が右に飛び出すことが分かったのだろう。
その直前もそうだ。母が屈むのを事前に感じ取れた。
(もしや、)
防御のみに限定する必要は無いのではないか?
(……試してみるか)
リックがそう決意した瞬間、クレアがバージルの背に向かって駆け出した。
(これならば――)
そろそろ奥義が使えるだろう、クレアはそう思った。
が、その「そろそろ」と言う言葉は誤りであるとすぐに気付いた。
魔力が急速回復し始めたのを感じ取ったのだ。
内臓の働きが完全に戻ったのだろう。
そして、その「だろう」という曖昧な感覚は瞬く間に消え去り、確かなものだけが残った。
「……」
近くにいる敵を見据えながら、体内に流れる魔力を練る。
このまま二人に守られながら前進するほうが堅実である。それは分かっている。
しかしこのクレア、そのような精神は生来持ち合わせていない。
それに、
(この二人の戦いぶりを目の前にして昂ぶらぬ武人などいない!)
などと、クレアは猛りに心を若返らせながら、鋭く地を蹴った。
一本足とは思えぬ踏み込み速度。
迫るクレアの姿に、兵士が目に驚きの色をにじませる。
表情が完成する頃には既に目の前。
兵士が防御魔法を展開し始める。
残念ながらもう手遅れ。
「っっぁ!」
直後、兵士の顔が激痛に歪み、その口が大きく開いた。
しかし大きな悲鳴は漏れない。
肺を貫かれたからだ。その胸は真っ赤に染まっている。
クレアは同じ色に染まった左貫手を脇の下に戻しながら、次の目標へ視線を合わせた。
これにリックが声を上げる。
「母上!?」
そんなに派手に動いて大丈夫なのか、という意味を込めた呼び声。
対するクレアはいらぬ心配だと言わんばかりに、力強い声を返した。
「私に合わせなさい! リック!」
言葉が耳に入ったのとほぼ同時に、リックは母へ向かって地を蹴っていた。
クレアの前方に五人の大盾兵が壁を成す。
それを見たクレアは地を蹴ってさらに加速。
その勢いを乗せつつ、
「せえやっ!」
踏み込み掌底打ち。
直撃を受けた中央の大盾兵が吹き飛び、それに押されて左右の四人がよろめく。
好機。右の大盾兵に追撃を、そう考えたクレアが地を蹴るための低姿勢を取る。
その瞬間、
「!」
クレアの視界に影が差した。
頭上に何者かがいる。
しかし不安は無い。それが誰かはわかっている。
その者、リックは屈んだクレアの頭上を飛び越え、
「でえぁ!」
前方にいた二人の大盾兵をなぎ払うように、右足を横に一閃した。
「「っっ!」」
声にならない悲鳴を上げながら、二枚の壁が吹き飛ぶ。
残るは両端の二人。
クレアが膝に込めた力を解放し、右に跳ぶ。
左の方を頼むと、声を発する必要は無かった。
同時にリックが左に跳んでいたからだ。
二人が地を蹴った音は完全に重なっている。
踏み込みながらクレアは左手を、リックは右手を脇の下に構えた。
形は双方とも開手。
二人の軸足が地に着く。これも同時。
流れるような動作で脇の下に込めた力を解放する。
「「破っ!」」」
ぴったりと重なった気勢と共に放たれた二つの掌底打ちは、二人の大盾兵を派手に吹き飛ばした。
大盾兵の体が地の上を滑る。
地を削るその音を聞いてようやく、リックは先の連携の異常性を認識した。
なぜ自分は母が右に飛び出すことが分かったのだろう。
その直前もそうだ。母が屈むのを事前に感じ取れた。
(もしや、)
防御のみに限定する必要は無いのではないか?
(……試してみるか)
リックがそう決意した瞬間、クレアがバージルの背に向かって駆け出した。
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