Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第三十四話 武技乱舞(13)

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   ◆◆◆

 ディーノは槍斧を振っていた。

「……」

 無心であった。
 ディーノは淡々と槍斧を振り続けていた。
 しかしその速度は尋常ならざるものであった。
 槍斧を振るたびに、ディーノの中に走る光の線が眩く輝く。
 そして同時に激痛が走る。
 奥義による痛みだけでは無い。ディーノの傷は完治していない。
 それでもディーノは槍斧を振り続けた。
 が、しばらくして、その痛みは無視出来ないほどになった。

「……っ!」

 槍斧を振り切った姿勢でディーノの体が硬直する。
 そしてディーノの中に芽生える新たな感情。
 それは疑問。
 これは少し違う、という感覚。
 これは自分が追い求めているものでは無い、そんな気がするのだ。
 この技は長い戦いに適していない。
 だが、自分はかつて似たような感覚を抱いたまま長期戦を行った覚えがあるのだ。
 最初にそれをはっきりと感じたのは、眩い強固な防御魔法を展開する二人組みと戦った時だ。
 今の感覚は、この技の感覚は、光の壁に向かって思い切り槍斧を振り下ろした時と、長槍の男を両断した時の感覚に似ている。
 しかしいま自分が求めているのはそれでは無い。それ以外の時の感覚だ。
 霧の中を当ても無くさまようように、記憶をまさぐる。

(ええと……)

 しばらくして、ディーノはついにそれを見つけた。

(そうだ、あれだ! あの時だ!)

 それは光の壁に向かって思い切り振り下ろす前の感覚。クラウスのおっさんの奇襲を成功させるために、女の意識をこちらに釘付けにするために、光の壁に何度も槍斧を叩き付けていた時の感覚。
 見つけた光明を忘れぬうちに、槍斧を構える。

「でえや!」

 そして一閃。
 しかし失敗。得られたのは痛みのみ。

「おらぁ!」

 もう一度。
 しかし失敗。得られたのはさらに大きな痛みのみ。
 耐え難い痛みを抱えたまま再び槍斧を構える。
 これが失敗したら今日はもうあきらめよう、そんなことを考えながら無言で一閃。

「……っ!?」

 瞬間、ついにディーノはそれを見出した。
 自身の中にある痛みとは違う感覚。
 その感覚は感動に転化した。
 美しいと思ったからだ。
 自分の中に走った小さいが数え切れないほどの多くの煌き。



 まるで体の中に天の川が流れているようだ。

(そうだ……これだ! これなんだよ! 俺はこいつのおかげで今まで生き残ってこられたんだよ!)

 この感覚を体に覚えさせなくてはならない、これをいつでもどこでも自在に使えるようにならねばならない、そう思ったディーノは再び槍斧を構えた。

 この日、ディーノは数え切れないほど槍斧を振った。痛みも忘れて。

「暴風」の異名が現実のものとなるその日は近い。
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