Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

文字の大きさ
194 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十七話 炎の槍(10)

しおりを挟む
「「……」」

 カイルとリーザ、双方の視線が交錯する。
 一呼吸分ほどのにらみ合いの後、カイルが動いた。
 するりと、地面の上を滑るようにカイルの像が前に流れる。

「!?」

 これにリーザは少し驚いた表情で後ずさった。
 それは先にクラウスが見せたものと同じ動きであった。
 上半身がまったく揺るがないすり足での歩行。
 距離感を失いそうになるほどの静かな前進。
 リーザと同じくその動きに驚いたのか、または突然の乱入者にまだ戸惑っているのか、カイルの後ろに追従する兵士の姿は無い。
 ゆえに、場は自然とリーザとカイルの一騎討ちのような形になった。
 そして気が付いてみれば双方の距離は既に半分ほどに詰まっている。
 カイルはまだ前進を止めない。
 これにリーザは焦ったかのように慌てて炎を放った。
 リーザの炎とカイルの防御魔法がぶつかりあう。
 結果は先と同じ。炎は光の粒子になって霧散してしまっている。
 しかしリーザは炎の放出を止めようとはしなかった。
 リーザは魔力のぶつけ合い、持久力での勝負を仕掛けようとしていた。
 が、カイルの方はそんな勝負に付き合うつもりなど一切無かった。
 直後、

「っ!?」

 右膝に走った激痛から、リーザは姿勢を崩した。
 真横からの攻撃だ。
 だから流れ弾かとリーザは思った。
 しかし直後、

「げほっ!?」

 今度はリーザの左わき腹に光弾がねじこまれた。
 肋骨が一本へし折れた感覚と共に、リーザの体が「くの字」の形に折れ曲がる。
 息苦しさと激痛が背中へと突き抜ける。
 まるで膝が崩れて上半身が下がるのを狙っていたかのような光弾。
 こみ上げてくる胃液をこらえながらリーザはなんとか倒れることなく踏みとどまり、これが流れ弾や第三者の援護射撃ではないことに気がついた。
 なぜなら、被弾した部分が冷たくなっているからだ。
 これは間違いなく目の前の男が放った弾。しかしどうやって。
 震える右膝に活を入れ、体勢を立て直そうとする。
 が、リーザが戦闘態勢を作るよりも早く、カイルが動いた。
 突き出されたカイルの右手から光弾が放たれる。
 複数の同時発射。五指を用いて一発の弾を四発に握り分けた散弾だ。
 広がりながら迫る散弾には圧迫感がある。が、

(この程度!)

 所詮は散弾。数は多くともひとつひとつは小さいため威力が無い。そう考えたリーザは防御魔法ではなく、炎でこれを迎え撃った。
 リーザの左手からほとばしった炎は散弾を飲み込み、そのままカイルの方へと伸びていく。
 カイルは既に防御魔法を展開して炎を待っている。
 このまま炎をぶつけてもう一度持久戦に――リーザがそう考えた瞬間、

(?!)

 視界の右隅にあるものが映った。
 それは二つの光弾。
 完全に射線を外した光弾。普段なら気にも留めない。
 なのに意識を奪われる。この二つが「何か」危険なことを引き起こしそうな気がする。
 そう直感で思ったリーザが視線をそちらに動かし始めた瞬間、それは起こった。

「!」

 二つの光弾が衝突。
 光弾の一つがリーザの右側頭部へと射線を変える。
 これをリーザは咄嗟に右腕で防御。

「ぐっ!」

 防御魔法ではない生身での、しかも矢が刺さった腕での防御。
 矢傷から生まれた傷みなのか、それとも軋みを上げる骨から生まれたものなのかわからないほどの激痛が右腕から走る。
 だが横からの攻撃の正体は見えた。跳弾だ。
 歯を食いしばりながら再び崩れた体勢を戻す。
 そこへ再び迫る散弾。
 両手で展開した防御魔法でこれを受ける。
 リーザの手に衝撃が伝わる。
 しかし軽い。これはきっとただのめくらまし。
 間を置かずにリーザは両腕を広げ、左右に防御魔法を展開した。

「っ!」

 左手に重い衝撃が伝わる。
 やはり横を狙ってきた。散弾に紛れているせいでまったく見えなかったが、防御魔法を広く展開すればなんとかなる。
 リーザがそう思った瞬間、

「!?」

 その考えは甘いことを、体に教えられた。
 痛みの発生源は背中。
 複数回の跳ね返りを利用して光弾を背後に回りこませたのだ。
 だがこの光弾の威力は低い。跳ね返らせる回数が増えるごとに威力が下がるからだ。光弾に冷却魔法を混ぜると反発係数が増すのだが、それでも弱い。
 後頭部に直撃させれば戦闘不能がありえる。しかしいかんせん精度が悪い。さすがのカイルでも複数回の跳弾では針の穴を通すような精密さは出せない。
 だから広い背中を狙った。倒せないにしても姿勢を崩せるし、なにより背後への警戒心を煽ることが出来る。

 リーザはそんなカイルの狙いをまったくわかっていない。
 ゆえに、まんまとカイルの思惑にはまることになる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

新約・精霊眼の少女

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。  力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。  孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。  可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。  頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。  これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。 ----  本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?! 痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。 一体私が何をしたというのよーっ! 驚愕の異世界転生、始まり始まり。

炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編

きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。 その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。 少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。 平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。 白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか? 本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。 それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、 世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

処理中です...