Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十八話 軍神降臨(11)

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 クラウスは健在。目の前で剣を構えている。
 それはまあかまわない。
 おかしいのは過程。
 初撃でクラウスが右に跳んだから、そっちに偏差射撃をして、動きが止まったところに三発目を叩き込んだ。
 そう判断して撃った。
 なのに、私の目は、記憶にある映像は違うと言っている。
 初撃でクラウスは右に跳んでいない。
 クラウスは動いていない。
 私が見当違いのところに撃っている。
 私が放った初撃は左にそれた。
 それを相手が右に跳んだと勘違いした?
 いやいや、それはおかしい。背景はまったく動いていないのだから。

(……でも)

 それなのに、私はクラウスが右に跳んだと判断した。
 三発目もそうだ。私が外している。クラウスは動いていない!

(なんで、いや、一体何が――)

 リーザは戸惑いの眼差しをクラウスに向けながら、口を押さえた。
 またひどい吐き気がきた。
 しかしもう吐くものなんてない。出たとしても胃液だけ。

「……ぅ、ぅえ」

 のどの奥までそれがせりあがってくる。
 気持ち悪いというよりも痛い。胃液にのどと食道が焼かれている。
 しかしそれ以上に苦しい。頭痛が、目眩がする。

(何が――)

 私の身に起きているのか?
 あなたが何かしているのか?
 そう問いかけるような眼差しをクラウスの方に向ける。

「……」

 クラウスは何も答えない。
 剣を正面に構えたまま、動かない。
 クラウスは見ていた。その答えを。
 クラウスは剣に導かれていた。その答えへ。
 クラウスは新たな世界の門を開いていた。
 剣を通して見る世界を、クラウスは心の中で言葉に表した。

(……本当に、まるで水の中のようだ)



 そしてこの世界は、水は常に波で揺れている。
 波はひとつでは無い。混じっている。
 魔力によって作り出された波、雷の力によって作り出された波、太陽から降り注ぐ光が生み出す波、全てが混じっている。
 複雑に絡み合っている。しかしどれがどういう波なのか判別出来る。どの波にも違いがあるゆえに、解析出来る。
 違いは波長。振動する速さだ。
 これら波長の違う波を、人は様々な箇所で受信している。
 一番分かりやすいものは耳と目。
 しかし耳と目だけでは受け取れる範囲に限界がある。
 では、それ以外の波はどこで受け取っているのか。
 それは皮膚。
 可聴域の波は聴覚として認識し、光の波長は視覚で認識し、それ以外の波は皮膚からの刺激として脳に送られている。
 そしてこの皮膚からの伝達がまさしく芸術だ。
 例えるなら、まるで音楽。
 楽器は骨、神経、そして肉。
 それらが特定の波に反応し、震え、同じ波を作る。共振する。
 そうして生まれた新しい波が、外から入り込んだ波と一緒に、一斉に脳に流れ込んでくる。
 人という存在そのものが一つの楽団。
 指揮者はこの目の前に広がる世界。
 指揮者がその手を揺らすたびに、体の中のどこかの楽器が鳴り響く。
 が、全ての波を拾いきれているわけではない。
 そこへ助っ人が現れた。新しい楽団が加わったのだ。
 それが剣。私は今、この剣を通して新たな波を拾っている。
 いや、教えられていると表現したほうが正しい。
 光輝く剣、その中では数え切れないほどの小さな光の球がぶつかりあい、そしてまざりあい、激しく動き回っている。それらが楽器として機能する。
 剣が新しい波を拾うたびに、私は驚かされる。
 剣はとても微弱で、そして微細な波も拾ってくれる。それを増幅して、私の手に伝えてくれる。
 今はリーザが何を考えているのか手に取るようにわかる。心の奥底、深層意識で生まれる微弱な波も拾っている。
 知らなかった。だから愚かだった。こんな大事な波を無視していたなんて。今まで、私はこの光の剣を通してこれらの波を拾っていたはずだ。なのに私は、私の脳はどうもしなかった。
 しかし今は違う。これまで気にもしなかった意味の無い波が、情報という意味を持ち始めている。剣が教えてくれた。剣が私を目覚めさせてくれた。
 だが、なぜアラン様はこの波に気付かなかったのか。
 その理由はすぐに分かった。
 アラン様の光の剣ではこれを拾えなかったのだろう。
 光魔法は人によって質が違う。私とリーザを比べればわかる。微妙に異なる。人によって違う楽器を持っているのだ。
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