210 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十八話 軍神降臨(10)
しおりを挟む
◆◆◆
“クラウス!”
その声に、クラウスは目を覚ました。
「っ……うっ」
今のはアラン様の声だったような、そんな事を考えながら痛む体を無理矢理起こす。
「……?」
そして目に入ったのは、その場に膝をついてひざまずき、うつむいているリーザの姿。
「……げほっ! げほっ!」
リーザは吐いていた。
垂れている髪に汚物がはねていることに気付かないほどに、苦しんでいる。
それを見たクラウスの心に最初に浮かんだのは安堵感。
自分が気を失っていた間に追撃されなかった理由が分かった。
そして次に心の中に浮かんだのは疑惑と理解。
なぜ? と思ったのとほぼ同時に答えが分かった。
今のリーザは酔っている。
彼女の動きを制御している神経が混乱を起こしているのだ。
視覚や聴覚から得られる情報と、自分の動きの感覚が一致していないからだ。
しかしなぜそんな事が彼女に身に起きているのか。
(……多分、私のせいなのだろうな)
リーザとの線は繋がったままだ。
無意識のうちに、私はこの線を使ってリーザに何かしたのだろう。
「……」
師は「線」では無いといった。
では本当の姿はなんなのか。
それどころか、まだ使い方がはっきりとわかっていない。
他人と精神を共有することが出来るようだが……
(いや、この説明は何かが違う……というより言葉が不足している?)
それだけではリーザが酔っている理由がよく分からない。
「……くっ」
考えながら、体を軋ませながら立ち上がる。
クラウスの動きに気付いたのか、リーザも立ち上がり始めた。
その動きはふらついている。
クラウスの方が体勢を整えるのが速い。
はずであったが、
「っ!?」
突如、右ひざに走った痛みに、クラウスは身を硬直させた。
(……膝が割れている?)
見ると、右ひざはひどく腫れていた。
力を込めようとしても、ガクガクと揺れるばかりで、力が入らない。
すねも青黒い。折れてはいないが、ヒビが入っているようだ。
右足指は何本か折れている感覚。
先の回避で右足を後ろに残すように跳んだせいだろう。それで右足は爆風の影響を強く受けてしまったのだ。
目の前でリーザが攻撃態勢を整える。
爆発魔法が来る、と思ったのと同時に台本が開く。
この足で避けられるのか?
だが選択肢は無い。クラウスは比較的無事な左足を使って右へ跳んだ。
それは簡単に目で追えるほどの回避速度であったが、
「ぐっ!」
なんとか回避することが出来た。
爆風に煽られたクラウスの体が地の上を滑る。
五体が無事ですんだのはリーザが外してくれたおかげだ。
台本が示した射線より「左」にそれていた。
次に備えてすぐに体を起こす。
立ち上がったのとほぼ同時にリーザが次弾を発射。
台本に従い、クラウスは左に跳んだ。
「っぁぐ!」
クラウスの口から再び悲鳴が漏れる。
衝撃波がクラウスの体を軋ませ、吹き飛ばす。
「がはっ!」
背中が地面に叩きつけられたことで押し出された肺の空気も悲鳴に変わった。
「……う、ぅあ」
よろよろと立ち上がる。
しかし五体はいまだ健在。ヒビは増えたような気がするが。
(まただ)
また、台本と違っていた。
射線がずれている。
今度は「右」にそれていた。
(なんで――)
考えながら気付く。
耳鳴りがひどい。
その耳鳴りが消えつつある。
しかし聴覚が回復している感じはしない。
それどころか、何も聞こえなくなってきている。
「……?」
リーザは既に次の攻撃態勢に入っている。
しかしその動作がゆっくりだ。
そして色が無い。全てが白黒だ。
まさか、これもアラン様の能力なのか。
アラン様はこんなに静かで、そしてゆっくりとした世界で戦っていたのか。
しかもアラン様には台本がある。
道理で強いわけだ。
(……マズいな)
しかしこの能力を持ってしても、恐怖をぬぐえない。
次の攻撃は連射だ。
三発、余力次第で四発の攻撃が来る。
初撃でこちらの動きを見てから、偏差射撃の二発目でこちらの足を止め、三発目で狙ってくる。
(……剣に)
夢で言われたあの言葉が沸きあがる。
(剣に……身をゆだねる)
刀身に体重を乗せろという意味ではあるまい。
あの夢は、この言葉は私の能力と関係があるはずだ。
他人と精神を共有することが出来る私のこの能力と――
(! ……共有する?)
ふと気付く。
まさか出来るのか。
剣と繋がることが、出来るというのか!?
思わず刀身に目を向ける。
呆けたような顔で刀身に映った自分の顔を見つめる。
(? ……何?)
それを見たリーザも発射寸前のところで動きを止めた。
しかしそれは一瞬。
相手が妙な動きをしているがどうでもいい。かまうものかと、爆発魔法を発射。
初撃で相手の回避方向を見て、二発目で偏差射撃。三発目で狙う。
そして戦場に響く三度の爆発音。
結果は――
(え? ……あ、……え?)
その結果はリーザにはよくわからなかった。
“クラウス!”
その声に、クラウスは目を覚ました。
「っ……うっ」
今のはアラン様の声だったような、そんな事を考えながら痛む体を無理矢理起こす。
「……?」
そして目に入ったのは、その場に膝をついてひざまずき、うつむいているリーザの姿。
「……げほっ! げほっ!」
リーザは吐いていた。
垂れている髪に汚物がはねていることに気付かないほどに、苦しんでいる。
それを見たクラウスの心に最初に浮かんだのは安堵感。
自分が気を失っていた間に追撃されなかった理由が分かった。
そして次に心の中に浮かんだのは疑惑と理解。
なぜ? と思ったのとほぼ同時に答えが分かった。
今のリーザは酔っている。
彼女の動きを制御している神経が混乱を起こしているのだ。
視覚や聴覚から得られる情報と、自分の動きの感覚が一致していないからだ。
しかしなぜそんな事が彼女に身に起きているのか。
(……多分、私のせいなのだろうな)
リーザとの線は繋がったままだ。
無意識のうちに、私はこの線を使ってリーザに何かしたのだろう。
「……」
師は「線」では無いといった。
では本当の姿はなんなのか。
それどころか、まだ使い方がはっきりとわかっていない。
他人と精神を共有することが出来るようだが……
(いや、この説明は何かが違う……というより言葉が不足している?)
それだけではリーザが酔っている理由がよく分からない。
「……くっ」
考えながら、体を軋ませながら立ち上がる。
クラウスの動きに気付いたのか、リーザも立ち上がり始めた。
その動きはふらついている。
クラウスの方が体勢を整えるのが速い。
はずであったが、
「っ!?」
突如、右ひざに走った痛みに、クラウスは身を硬直させた。
(……膝が割れている?)
見ると、右ひざはひどく腫れていた。
力を込めようとしても、ガクガクと揺れるばかりで、力が入らない。
すねも青黒い。折れてはいないが、ヒビが入っているようだ。
右足指は何本か折れている感覚。
先の回避で右足を後ろに残すように跳んだせいだろう。それで右足は爆風の影響を強く受けてしまったのだ。
目の前でリーザが攻撃態勢を整える。
爆発魔法が来る、と思ったのと同時に台本が開く。
この足で避けられるのか?
だが選択肢は無い。クラウスは比較的無事な左足を使って右へ跳んだ。
それは簡単に目で追えるほどの回避速度であったが、
「ぐっ!」
なんとか回避することが出来た。
爆風に煽られたクラウスの体が地の上を滑る。
五体が無事ですんだのはリーザが外してくれたおかげだ。
台本が示した射線より「左」にそれていた。
次に備えてすぐに体を起こす。
立ち上がったのとほぼ同時にリーザが次弾を発射。
台本に従い、クラウスは左に跳んだ。
「っぁぐ!」
クラウスの口から再び悲鳴が漏れる。
衝撃波がクラウスの体を軋ませ、吹き飛ばす。
「がはっ!」
背中が地面に叩きつけられたことで押し出された肺の空気も悲鳴に変わった。
「……う、ぅあ」
よろよろと立ち上がる。
しかし五体はいまだ健在。ヒビは増えたような気がするが。
(まただ)
また、台本と違っていた。
射線がずれている。
今度は「右」にそれていた。
(なんで――)
考えながら気付く。
耳鳴りがひどい。
その耳鳴りが消えつつある。
しかし聴覚が回復している感じはしない。
それどころか、何も聞こえなくなってきている。
「……?」
リーザは既に次の攻撃態勢に入っている。
しかしその動作がゆっくりだ。
そして色が無い。全てが白黒だ。
まさか、これもアラン様の能力なのか。
アラン様はこんなに静かで、そしてゆっくりとした世界で戦っていたのか。
しかもアラン様には台本がある。
道理で強いわけだ。
(……マズいな)
しかしこの能力を持ってしても、恐怖をぬぐえない。
次の攻撃は連射だ。
三発、余力次第で四発の攻撃が来る。
初撃でこちらの動きを見てから、偏差射撃の二発目でこちらの足を止め、三発目で狙ってくる。
(……剣に)
夢で言われたあの言葉が沸きあがる。
(剣に……身をゆだねる)
刀身に体重を乗せろという意味ではあるまい。
あの夢は、この言葉は私の能力と関係があるはずだ。
他人と精神を共有することが出来る私のこの能力と――
(! ……共有する?)
ふと気付く。
まさか出来るのか。
剣と繋がることが、出来るというのか!?
思わず刀身に目を向ける。
呆けたような顔で刀身に映った自分の顔を見つめる。
(? ……何?)
それを見たリーザも発射寸前のところで動きを止めた。
しかしそれは一瞬。
相手が妙な動きをしているがどうでもいい。かまうものかと、爆発魔法を発射。
初撃で相手の回避方向を見て、二発目で偏差射撃。三発目で狙う。
そして戦場に響く三度の爆発音。
結果は――
(え? ……あ、……え?)
その結果はリーザにはよくわからなかった。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
新約・精霊眼の少女
みつまめ つぼみ
ファンタジー
孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。
力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。
孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。
可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。
頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。
これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。
----
本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編
きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。
その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。
少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。
平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。
白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか?
本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。
それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、
世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる