Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十八話 軍神降臨(15)

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 防御魔法を通して熱が手に伝わる。
 その感覚にクラウスは目を細めたが、それは一瞬のことであった。

(思ったよりも……)

 熱くない。細い枝葉の熱量は大したものでは無い。
 これならば、

(やれる! 私の剣は炎を相手に戦える!)

 間合いさえ間違えなければ致命傷を避けることは容易い。直撃に至る、熱量の多い太い枝だけを切り落とせばいいのだから!
 剣に魔力を込めなおしながら、リーザを睨みつける。
 リーザの顔に驚きや恐怖の色は無い。
 一撃では押し返せないだろうと踏んでいたからだ。
 リーザはクラウスを睨み返しながら、右へ振るった右腕を左へ返した。
 クラウスを後ろから追い越していった炎が今度は前から迫ってくる。
 左足で地を蹴りなおす。
 後ろにでは無い。前だ。
 後ろに切り返してもどうせ振り切れない。ならば加速して突っ込んだほうがいい。
 左足の爪先が地面から離れたと同時に一閃。
 直後、赤い枝の先端が剣に触れた。
 枝が刀身に絡みつき、そのまま持ち主を飲み込む。
 かのように思えたが、

「!」

 瞬間、リーザは見た。
 刀身が銀色の光を放った直後、炎が弾け、火の粉が舞い散ったのを。
 そしてクラウスはその赤い葉を身に纏いながら、炎を突破した。さながら赤い茂みの中から飛び出してきたかのように。

(剣で炎を消し飛ばした?!)

 リーザにはそのように見えた。
 どうやって? とは思わなかった。考えても答えが出ないと分かっていたからだ。今は目の前で起きた事実だけでいい。
 だから、リーザは「どうやってクラウスを押し返すか」だけを考えた。
 彼女の中に爆発魔法という選択肢は無い。
 なぜなら彼女の脳裏にある映像がこびりついているからだ。
 それはクラウスに爆発魔法を真っ二つにされた時の記憶。
 炎魔法が光の殻の中で膨張を開始する前に、圧力が増す前に叩き割られたのだ。
 その後どうなったのかは、多分、一生忘れることが出来ないだろう。
 それをリーザは警戒している。この距離では危険だと。
 そしてそれは正しかった。
 クラウスはそれを狙っている。
 クラウスは最後の一回を温存している。あと一回だけ使えるであろう、右足での加速を。
 爆発魔法を叩き割ると同時に最大の突進をするつもりなのだ。
 ゆえに、ここでリーザが選んだ選択は、

(ならば、これで!)

 リーザはいざという時のために空けておいた左手にも炎の魔力を込めた。
 左に振りぬいた右手を、脇の下で赤みを放ち始めた左手と合流させる。 
 両手を左脇の下に置いた、爆発魔法の予備動作を思わせる構え。
 それが誘いであることを、放たれるのが爆発魔法では無いことを台本から知ったクラウスは、地を蹴りなおした。
 リーザの周囲を回るクラウスの動きが少し加速する。
 近づいてこない、クラウスのその動きにリーザは歯軋りをしながら、炎を放った。
 型は先と同じくなぎ払い。
 そのしなる赤はもはや木というよりも生き物、まるで大蛇。
 その大蛇は伸びるほどに膨らんでいった。クラウスの目の前に迫る頃には彼の全身を覆うくらいになるであろうほどに。
 これをクラウスは光る三日月で迎え撃ったが、

(捌ききれない!)

 その枝の数は一撃でどうにかなるものでは無かった。
 ならばもう一撃と、返す刃で再び三日月を放つが、

(再生が早い?!)

 甘かった。相手が両手で来るならばこちらは二撃で相殺する、そんな風に考えていた。
 明らかに枝の伸びが速い。三倍近い速度になっている。
 放った二撃目も期待通りの数の枝を切り落としてくれたが、これでは足りない。
 数本の太い枝が伸び迫る。
 これをクラウスは防御魔法で受けたが、

「!」

 瞬間、体に走った痛みにクラウスは表情を歪めた。
 焼けている、そう思った直後、足元がよろめく。
 熱風に押されたわけでは無い。勝手に動いたのだ。リーザから距離を取ろうと、炎から離れようという、そんな逃げの意識が足に表れたのだ。
 退いては駄目だと、己に活を入れながら足を踏みとどまらせる。
 痛みが増し、じりじりと焼ける感覚が強くなる。
 しかし直後、魔力切れによる息継ぎか、リーザの炎は途切れた。

「げほっ!」

 思わず咳き込む。
 喉と肺が少し焼けた。熱を吸い込んでしまったようだ。

(くそ、もう次が来るのか!)

 休む間も無く、前方から次が迫る。
 リーザはもうクラウスの位置を確認して撃っていない。とにかく広範囲に、そして素早く両腕を振り回しているだけだ。
 曲がりくねる炎のその様、まさに波打ちせまる赤い大蛇のよう。
 膨らむその赤い頭が、まるで口を開けて飲み込もうとしているかのように、クラウスに迫る。
 対し、クラウスはまだ構えを整えていない。
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