215 / 586
第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十八話 軍神降臨(15)
しおりを挟む
防御魔法を通して熱が手に伝わる。
その感覚にクラウスは目を細めたが、それは一瞬のことであった。
(思ったよりも……)
熱くない。細い枝葉の熱量は大したものでは無い。
これならば、
(やれる! 私の剣は炎を相手に戦える!)
間合いさえ間違えなければ致命傷を避けることは容易い。直撃に至る、熱量の多い太い枝だけを切り落とせばいいのだから!
剣に魔力を込めなおしながら、リーザを睨みつける。
リーザの顔に驚きや恐怖の色は無い。
一撃では押し返せないだろうと踏んでいたからだ。
リーザはクラウスを睨み返しながら、右へ振るった右腕を左へ返した。
クラウスを後ろから追い越していった炎が今度は前から迫ってくる。
左足で地を蹴りなおす。
後ろにでは無い。前だ。
後ろに切り返してもどうせ振り切れない。ならば加速して突っ込んだほうがいい。
左足の爪先が地面から離れたと同時に一閃。
直後、赤い枝の先端が剣に触れた。
枝が刀身に絡みつき、そのまま持ち主を飲み込む。
かのように思えたが、
「!」
瞬間、リーザは見た。
刀身が銀色の光を放った直後、炎が弾け、火の粉が舞い散ったのを。
そしてクラウスはその赤い葉を身に纏いながら、炎を突破した。さながら赤い茂みの中から飛び出してきたかのように。
(剣で炎を消し飛ばした?!)
リーザにはそのように見えた。
どうやって? とは思わなかった。考えても答えが出ないと分かっていたからだ。今は目の前で起きた事実だけでいい。
だから、リーザは「どうやってクラウスを押し返すか」だけを考えた。
彼女の中に爆発魔法という選択肢は無い。
なぜなら彼女の脳裏にある映像がこびりついているからだ。
それはクラウスに爆発魔法を真っ二つにされた時の記憶。
炎魔法が光の殻の中で膨張を開始する前に、圧力が増す前に叩き割られたのだ。
その後どうなったのかは、多分、一生忘れることが出来ないだろう。
それをリーザは警戒している。この距離では危険だと。
そしてそれは正しかった。
クラウスはそれを狙っている。
クラウスは最後の一回を温存している。あと一回だけ使えるであろう、右足での加速を。
爆発魔法を叩き割ると同時に最大の突進をするつもりなのだ。
ゆえに、ここでリーザが選んだ選択は、
(ならば、これで!)
リーザはいざという時のために空けておいた左手にも炎の魔力を込めた。
左に振りぬいた右手を、脇の下で赤みを放ち始めた左手と合流させる。
両手を左脇の下に置いた、爆発魔法の予備動作を思わせる構え。
それが誘いであることを、放たれるのが爆発魔法では無いことを台本から知ったクラウスは、地を蹴りなおした。
リーザの周囲を回るクラウスの動きが少し加速する。
近づいてこない、クラウスのその動きにリーザは歯軋りをしながら、炎を放った。
型は先と同じくなぎ払い。
そのしなる赤はもはや木というよりも生き物、まるで大蛇。
その大蛇は伸びるほどに膨らんでいった。クラウスの目の前に迫る頃には彼の全身を覆うくらいになるであろうほどに。
これをクラウスは光る三日月で迎え撃ったが、
(捌ききれない!)
その枝の数は一撃でどうにかなるものでは無かった。
ならばもう一撃と、返す刃で再び三日月を放つが、
(再生が早い?!)
甘かった。相手が両手で来るならばこちらは二撃で相殺する、そんな風に考えていた。
明らかに枝の伸びが速い。三倍近い速度になっている。
放った二撃目も期待通りの数の枝を切り落としてくれたが、これでは足りない。
数本の太い枝が伸び迫る。
これをクラウスは防御魔法で受けたが、
「!」
瞬間、体に走った痛みにクラウスは表情を歪めた。
焼けている、そう思った直後、足元がよろめく。
熱風に押されたわけでは無い。勝手に動いたのだ。リーザから距離を取ろうと、炎から離れようという、そんな逃げの意識が足に表れたのだ。
退いては駄目だと、己に活を入れながら足を踏みとどまらせる。
痛みが増し、じりじりと焼ける感覚が強くなる。
しかし直後、魔力切れによる息継ぎか、リーザの炎は途切れた。
「げほっ!」
思わず咳き込む。
喉と肺が少し焼けた。熱を吸い込んでしまったようだ。
(くそ、もう次が来るのか!)
休む間も無く、前方から次が迫る。
リーザはもうクラウスの位置を確認して撃っていない。とにかく広範囲に、そして素早く両腕を振り回しているだけだ。
曲がりくねる炎のその様、まさに波打ちせまる赤い大蛇のよう。
膨らむその赤い頭が、まるで口を開けて飲み込もうとしているかのように、クラウスに迫る。
対し、クラウスはまだ構えを整えていない。
その感覚にクラウスは目を細めたが、それは一瞬のことであった。
(思ったよりも……)
熱くない。細い枝葉の熱量は大したものでは無い。
これならば、
(やれる! 私の剣は炎を相手に戦える!)
間合いさえ間違えなければ致命傷を避けることは容易い。直撃に至る、熱量の多い太い枝だけを切り落とせばいいのだから!
剣に魔力を込めなおしながら、リーザを睨みつける。
リーザの顔に驚きや恐怖の色は無い。
一撃では押し返せないだろうと踏んでいたからだ。
リーザはクラウスを睨み返しながら、右へ振るった右腕を左へ返した。
クラウスを後ろから追い越していった炎が今度は前から迫ってくる。
左足で地を蹴りなおす。
後ろにでは無い。前だ。
後ろに切り返してもどうせ振り切れない。ならば加速して突っ込んだほうがいい。
左足の爪先が地面から離れたと同時に一閃。
直後、赤い枝の先端が剣に触れた。
枝が刀身に絡みつき、そのまま持ち主を飲み込む。
かのように思えたが、
「!」
瞬間、リーザは見た。
刀身が銀色の光を放った直後、炎が弾け、火の粉が舞い散ったのを。
そしてクラウスはその赤い葉を身に纏いながら、炎を突破した。さながら赤い茂みの中から飛び出してきたかのように。
(剣で炎を消し飛ばした?!)
リーザにはそのように見えた。
どうやって? とは思わなかった。考えても答えが出ないと分かっていたからだ。今は目の前で起きた事実だけでいい。
だから、リーザは「どうやってクラウスを押し返すか」だけを考えた。
彼女の中に爆発魔法という選択肢は無い。
なぜなら彼女の脳裏にある映像がこびりついているからだ。
それはクラウスに爆発魔法を真っ二つにされた時の記憶。
炎魔法が光の殻の中で膨張を開始する前に、圧力が増す前に叩き割られたのだ。
その後どうなったのかは、多分、一生忘れることが出来ないだろう。
それをリーザは警戒している。この距離では危険だと。
そしてそれは正しかった。
クラウスはそれを狙っている。
クラウスは最後の一回を温存している。あと一回だけ使えるであろう、右足での加速を。
爆発魔法を叩き割ると同時に最大の突進をするつもりなのだ。
ゆえに、ここでリーザが選んだ選択は、
(ならば、これで!)
リーザはいざという時のために空けておいた左手にも炎の魔力を込めた。
左に振りぬいた右手を、脇の下で赤みを放ち始めた左手と合流させる。
両手を左脇の下に置いた、爆発魔法の予備動作を思わせる構え。
それが誘いであることを、放たれるのが爆発魔法では無いことを台本から知ったクラウスは、地を蹴りなおした。
リーザの周囲を回るクラウスの動きが少し加速する。
近づいてこない、クラウスのその動きにリーザは歯軋りをしながら、炎を放った。
型は先と同じくなぎ払い。
そのしなる赤はもはや木というよりも生き物、まるで大蛇。
その大蛇は伸びるほどに膨らんでいった。クラウスの目の前に迫る頃には彼の全身を覆うくらいになるであろうほどに。
これをクラウスは光る三日月で迎え撃ったが、
(捌ききれない!)
その枝の数は一撃でどうにかなるものでは無かった。
ならばもう一撃と、返す刃で再び三日月を放つが、
(再生が早い?!)
甘かった。相手が両手で来るならばこちらは二撃で相殺する、そんな風に考えていた。
明らかに枝の伸びが速い。三倍近い速度になっている。
放った二撃目も期待通りの数の枝を切り落としてくれたが、これでは足りない。
数本の太い枝が伸び迫る。
これをクラウスは防御魔法で受けたが、
「!」
瞬間、体に走った痛みにクラウスは表情を歪めた。
焼けている、そう思った直後、足元がよろめく。
熱風に押されたわけでは無い。勝手に動いたのだ。リーザから距離を取ろうと、炎から離れようという、そんな逃げの意識が足に表れたのだ。
退いては駄目だと、己に活を入れながら足を踏みとどまらせる。
痛みが増し、じりじりと焼ける感覚が強くなる。
しかし直後、魔力切れによる息継ぎか、リーザの炎は途切れた。
「げほっ!」
思わず咳き込む。
喉と肺が少し焼けた。熱を吸い込んでしまったようだ。
(くそ、もう次が来るのか!)
休む間も無く、前方から次が迫る。
リーザはもうクラウスの位置を確認して撃っていない。とにかく広範囲に、そして素早く両腕を振り回しているだけだ。
曲がりくねる炎のその様、まさに波打ちせまる赤い大蛇のよう。
膨らむその赤い頭が、まるで口を開けて飲み込もうとしているかのように、クラウスに迫る。
対し、クラウスはまだ構えを整えていない。
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
新約・精霊眼の少女
みつまめ つぼみ
ファンタジー
孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。
力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。
孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。
可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。
頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。
これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。
----
本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編
きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。
その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。
少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。
平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。
白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか?
本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。
それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、
世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。
【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる