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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく
第三十九話 二刀一心 三位一体(5)
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リーザを包んでいたゆるいまどろみのような感覚が別のものに押し流される。
それは緊張感。
すぐに次が来るぞ、というアランの声が響く。
その響きに身をゆだねるように、リーザは次弾の発射体勢に入っていた。
ラルフとリーザ、二人の手が同時に輝く。
ぶつかり合う、光る嵐と赤い槍。
そして描かれる線の芸術。
それに心奪われることなく、リーザは次の準備に入った。
撃ち続けろ、そう響いたからだ。
その響きに身を任せるまま、爆発魔法を放つ。
再びぶつかり合う光る嵐と赤い槍。
舞い上がった土砂と砂埃が場を包み込む。
視界はほとんど無い。
しかし攻撃は止まらない。
ラルフはもうこちらを視認して撃っていない。
その必要が無いからだ。ラルフもまた、アラン達と同じように相手の生存を感知しているからだ。
場に轟音が連鎖する。
耳が機能しなくなるほどの轟音の中で、二人の男が、刀が踊り続ける。
砂煙のカーテンと閃光が二人の影を美しく彩っている。
リーザはその幾度も描かれる芸術を目に焼き付けていたが、
「「!」」
直後、リーザとクラウスの顔は驚きと焦りの色に染まった。
アランの膝が「がくり」と崩れたのだ。
倒れはしなかった。アランは即座に姿勢を持ち直した。
しかしよく見ると、アランの膝は笑っている。
忘れていた。アランは重傷者だ。こんな激しい攻防をいつまでも続けられる状態では無い。アランの心の声が力強すぎたがゆえに気付けなかった。
限界が見えたのだ。アランの体がアランの心の指示通りに動かなくなってきている証拠が見えたのだ。
「アラン様!」
クラウスが思わず口を開く。
「……」
アランは「大丈夫だ」と答えられなかった。
既に感じ取られている。嘘をついても意味が無い。
クラウスが察した通りだ。自分の体はいつか限界を迎える。
そんなアランの返事を感じ取ったクラウスは、
(後退するぞ!)
心の中からリーザに向かって叫んだ。
クラウスとリーザの足が後ずさり、それに引きずられるようにアランの脚がついていく。
それから一呼吸分ほど遅れて、ラルフが、そして兵士達が足を前に出した。
(……っ)
これにリーザが顔を少し曇らせた。
あの男、ラルフにはこちらを逃がすつもりは無いようだ。兵士達は今のところラルフについていっているだけのようだが、ケビンとかいう男の抑えがいつまでも通じるとは限らない。
(……いや、これは少し違う?)
考えながら、爆発魔法を放ちながら、リーザは自分の考えを訂正した。
逃がすつもりは無い、という部分が弱い。これではラルフの思いを正確に表せていない。
ラルフはアランの存在を許せないのだ。リリィの心を手に入れるには、独り占めするには、アランの存在が邪魔だ。
しかも、「リリィは自分のことも好きであるはずだ」などと思い込んでいる。
ラルフは都合の良いことしか考えていない。そしてそれは自己洗脳の域に達している。恋人を殺してもリリィは分かってくれる、などという普通ありえない事を考えている。
「……」
アランとおなじようにラルフの狂気を感じ取ったリーザ。
一瞬言葉を失ったが、その感想をリーザはぽつりと呟いた。
「……イカれてるわね」
言いながら、リーザは視線のようなものを感じた。
それはアランから放たれている。
顔はこちらに向けられていない。そんな余裕は無い。前を向いて剣を振り続けている。
アランはリーザの心の中を見たがっていた。
アランは知りたがっていた。なぜ、自分に攻撃意識を向けなかったのかを。
今、アランはリーザの心を深く探ろうとしていない。ゆえに、情報の流れはアランからの一方通行に近い状態だ。戦闘に関することしか読み取られていない。クラウスも同じ。アランの意思に従っている。
アランは自分の全てをさらけ出している。だからアランとラルフ、そしてリリィの関係を知ることが出来た。
リーザはこういう状況、精神的に不公平な関係はあまり好きでは無かった。しかし、
「……」
それでも、リーザは心を開けなかった。
しかし直後、アランはとんでもないことを言い出した。
一人だけ逃げて構わない、と言うのだ。
あの時、武神の号令を発動した直後、全力で攻撃されていたらどうなっていたか分からないから、と。理由はしらないが手加減してくれて助かったから、と。
このアランの弁にリーザは反論した。
それは違う。おかしい。そもそも助けられたのは私のほうだ。あなた達二人が守ってくれなかったら、教えてくれなかったら、私はラルフが放った最初の一撃で終わっていた可能性が高い。それに、私があなたを攻撃しなかった理由は――
「……っ」
言いかけて、心を開きかけて、リーザは唇を噛んだ。
まだ迷っている。が、覚悟が出来た。
しかしその覚悟を伝えるには心を開かねばならないだろう、そう分かっていながらも、リーザは心を閉ざしたまま口を開いた。
「……逃げるのはあなた達のほうよ。ここは私が食い止めるわ」
それは緊張感。
すぐに次が来るぞ、というアランの声が響く。
その響きに身をゆだねるように、リーザは次弾の発射体勢に入っていた。
ラルフとリーザ、二人の手が同時に輝く。
ぶつかり合う、光る嵐と赤い槍。
そして描かれる線の芸術。
それに心奪われることなく、リーザは次の準備に入った。
撃ち続けろ、そう響いたからだ。
その響きに身を任せるまま、爆発魔法を放つ。
再びぶつかり合う光る嵐と赤い槍。
舞い上がった土砂と砂埃が場を包み込む。
視界はほとんど無い。
しかし攻撃は止まらない。
ラルフはもうこちらを視認して撃っていない。
その必要が無いからだ。ラルフもまた、アラン達と同じように相手の生存を感知しているからだ。
場に轟音が連鎖する。
耳が機能しなくなるほどの轟音の中で、二人の男が、刀が踊り続ける。
砂煙のカーテンと閃光が二人の影を美しく彩っている。
リーザはその幾度も描かれる芸術を目に焼き付けていたが、
「「!」」
直後、リーザとクラウスの顔は驚きと焦りの色に染まった。
アランの膝が「がくり」と崩れたのだ。
倒れはしなかった。アランは即座に姿勢を持ち直した。
しかしよく見ると、アランの膝は笑っている。
忘れていた。アランは重傷者だ。こんな激しい攻防をいつまでも続けられる状態では無い。アランの心の声が力強すぎたがゆえに気付けなかった。
限界が見えたのだ。アランの体がアランの心の指示通りに動かなくなってきている証拠が見えたのだ。
「アラン様!」
クラウスが思わず口を開く。
「……」
アランは「大丈夫だ」と答えられなかった。
既に感じ取られている。嘘をついても意味が無い。
クラウスが察した通りだ。自分の体はいつか限界を迎える。
そんなアランの返事を感じ取ったクラウスは、
(後退するぞ!)
心の中からリーザに向かって叫んだ。
クラウスとリーザの足が後ずさり、それに引きずられるようにアランの脚がついていく。
それから一呼吸分ほど遅れて、ラルフが、そして兵士達が足を前に出した。
(……っ)
これにリーザが顔を少し曇らせた。
あの男、ラルフにはこちらを逃がすつもりは無いようだ。兵士達は今のところラルフについていっているだけのようだが、ケビンとかいう男の抑えがいつまでも通じるとは限らない。
(……いや、これは少し違う?)
考えながら、爆発魔法を放ちながら、リーザは自分の考えを訂正した。
逃がすつもりは無い、という部分が弱い。これではラルフの思いを正確に表せていない。
ラルフはアランの存在を許せないのだ。リリィの心を手に入れるには、独り占めするには、アランの存在が邪魔だ。
しかも、「リリィは自分のことも好きであるはずだ」などと思い込んでいる。
ラルフは都合の良いことしか考えていない。そしてそれは自己洗脳の域に達している。恋人を殺してもリリィは分かってくれる、などという普通ありえない事を考えている。
「……」
アランとおなじようにラルフの狂気を感じ取ったリーザ。
一瞬言葉を失ったが、その感想をリーザはぽつりと呟いた。
「……イカれてるわね」
言いながら、リーザは視線のようなものを感じた。
それはアランから放たれている。
顔はこちらに向けられていない。そんな余裕は無い。前を向いて剣を振り続けている。
アランはリーザの心の中を見たがっていた。
アランは知りたがっていた。なぜ、自分に攻撃意識を向けなかったのかを。
今、アランはリーザの心を深く探ろうとしていない。ゆえに、情報の流れはアランからの一方通行に近い状態だ。戦闘に関することしか読み取られていない。クラウスも同じ。アランの意思に従っている。
アランは自分の全てをさらけ出している。だからアランとラルフ、そしてリリィの関係を知ることが出来た。
リーザはこういう状況、精神的に不公平な関係はあまり好きでは無かった。しかし、
「……」
それでも、リーザは心を開けなかった。
しかし直後、アランはとんでもないことを言い出した。
一人だけ逃げて構わない、と言うのだ。
あの時、武神の号令を発動した直後、全力で攻撃されていたらどうなっていたか分からないから、と。理由はしらないが手加減してくれて助かったから、と。
このアランの弁にリーザは反論した。
それは違う。おかしい。そもそも助けられたのは私のほうだ。あなた達二人が守ってくれなかったら、教えてくれなかったら、私はラルフが放った最初の一撃で終わっていた可能性が高い。それに、私があなたを攻撃しなかった理由は――
「……っ」
言いかけて、心を開きかけて、リーザは唇を噛んだ。
まだ迷っている。が、覚悟が出来た。
しかしその覚悟を伝えるには心を開かねばならないだろう、そう分かっていながらも、リーザは心を閉ざしたまま口を開いた。
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