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第七章 アランが父に代わって歴史の表舞台に立つ
第四十七話 炎の紋章を背に(2)
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◆◆◆
翌日、カルロの灰と骨は骨壷に納められ、簡単な葬儀が行われた。
民への周知を兼ねた本格的な葬儀は、アラン達の治療と城の修復がある程度終わった後でとなった。
崩れた城を背景に、傷だらけの将がカルロという一大魔道士の死を告げれば、民の不安が悪戯に大きくなりかねない、と判断してのことであった。
が、周知されるまでも無く知る者達がいた。
その中で最も早かったのはやはり、襲撃を手はずした者であった。
「……ふう」
襲撃者の主である男は、大きなため息と共にその報告を噛み締めた。
その吐息には二つの安堵が混じっていた。
一つは当然、カルロの死に対してのもの。
最低限の仕事は出来た、という思いから生まれた安堵。
そしてもう一つは、シャロンが死んだことに対してのものであった。
その思いはカルロの死よりも大きいものであった。
都合よく厄介払いが出来た、幸運だった、そんな思いに男の心は埋め尽くされていた。
もしかしたら、これまでの不安は全てただの杞憂であり、実はシャロンは最後まで忠実で全力で任務にあたっており、そしてカルロと相討ちという結果に至ったのかもしれない。
そんな考えが一瞬脳裏に浮かんだが、
「……ふっ」
どちらでも、どうでもいい、そんな思いと共に、男は脳裏に浮かんだその思考を笑い飛ばした。
そして男は冷めた飲み物を口に含みながら思考を先に進ませた。
次はどうするか。
カルロが死んだという事実はさらに利用出来る可能性が高い。
アンナは父の死をしばらく伏せるだろう。建て直しと関連する行事が終わるまでは派手に動かない可能性が高い。
しかし間違いなく内側から守りを固めていくだろう。サイラス達がそうしているように。
サイラスはこちらが仕込んだ毒を順調に排除している。不当な解雇はまだ穏やかなほうで、ボロを出さない者に対しては暗殺という強硬手段を取っている。
アンナがそんな凶悪な手を選ぶとは考えにくい。が、可能性が無いというわけでは無い。アンナを慕う者が気を利かせてその手を汚す、ということは十分に考えられる。
つまり、もう一度仕掛けるのであれば、出来るだけ早いほうが良いことは間違い無い。
(だが――)
代償無しに使える手札はほぼ残っていない。
既にこちらの存在は相手に明らかになっている。相手も馬鹿では無い。これからさらに何か問題が起きれば、我々の介入だと判断し、対処するだろう。
すなわち、仕込んでいる毒はあと一回しか使えない、使い捨てになってしまう可能性が高いということ。
しかし、
(それでも、)
何もしないというのは、相手が守りを固めるのを黙って見続けるというのは、明らかな愚手に思える。
(ならば、)
やるしかない、そう思った男は早速、
「おい、ちょっと来てくれ」
ドアの向こうに控えている部下に向かって声を上げた。
男は大きな間違いを犯していた。
男はアンナが炎の一族の当主となって取り仕切ると考えていた。アランの感知よりも、アンナの炎のほうがあの一族においては重要視されていると考えていた。
男は知らなかった。甘く見ていた。アランがどのようにしてシャロンという試練を乗り越え、現在どのような立場にあるのかを。
翌日、カルロの灰と骨は骨壷に納められ、簡単な葬儀が行われた。
民への周知を兼ねた本格的な葬儀は、アラン達の治療と城の修復がある程度終わった後でとなった。
崩れた城を背景に、傷だらけの将がカルロという一大魔道士の死を告げれば、民の不安が悪戯に大きくなりかねない、と判断してのことであった。
が、周知されるまでも無く知る者達がいた。
その中で最も早かったのはやはり、襲撃を手はずした者であった。
「……ふう」
襲撃者の主である男は、大きなため息と共にその報告を噛み締めた。
その吐息には二つの安堵が混じっていた。
一つは当然、カルロの死に対してのもの。
最低限の仕事は出来た、という思いから生まれた安堵。
そしてもう一つは、シャロンが死んだことに対してのものであった。
その思いはカルロの死よりも大きいものであった。
都合よく厄介払いが出来た、幸運だった、そんな思いに男の心は埋め尽くされていた。
もしかしたら、これまでの不安は全てただの杞憂であり、実はシャロンは最後まで忠実で全力で任務にあたっており、そしてカルロと相討ちという結果に至ったのかもしれない。
そんな考えが一瞬脳裏に浮かんだが、
「……ふっ」
どちらでも、どうでもいい、そんな思いと共に、男は脳裏に浮かんだその思考を笑い飛ばした。
そして男は冷めた飲み物を口に含みながら思考を先に進ませた。
次はどうするか。
カルロが死んだという事実はさらに利用出来る可能性が高い。
アンナは父の死をしばらく伏せるだろう。建て直しと関連する行事が終わるまでは派手に動かない可能性が高い。
しかし間違いなく内側から守りを固めていくだろう。サイラス達がそうしているように。
サイラスはこちらが仕込んだ毒を順調に排除している。不当な解雇はまだ穏やかなほうで、ボロを出さない者に対しては暗殺という強硬手段を取っている。
アンナがそんな凶悪な手を選ぶとは考えにくい。が、可能性が無いというわけでは無い。アンナを慕う者が気を利かせてその手を汚す、ということは十分に考えられる。
つまり、もう一度仕掛けるのであれば、出来るだけ早いほうが良いことは間違い無い。
(だが――)
代償無しに使える手札はほぼ残っていない。
既にこちらの存在は相手に明らかになっている。相手も馬鹿では無い。これからさらに何か問題が起きれば、我々の介入だと判断し、対処するだろう。
すなわち、仕込んでいる毒はあと一回しか使えない、使い捨てになってしまう可能性が高いということ。
しかし、
(それでも、)
何もしないというのは、相手が守りを固めるのを黙って見続けるというのは、明らかな愚手に思える。
(ならば、)
やるしかない、そう思った男は早速、
「おい、ちょっと来てくれ」
ドアの向こうに控えている部下に向かって声を上げた。
男は大きな間違いを犯していた。
男はアンナが炎の一族の当主となって取り仕切ると考えていた。アランの感知よりも、アンナの炎のほうがあの一族においては重要視されていると考えていた。
男は知らなかった。甘く見ていた。アランがどのようにしてシャロンという試練を乗り越え、現在どのような立場にあるのかを。
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