Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章

第五十八話 おとぎ話の結末(16)

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「「「う雄雄雄ッ!」」」

 俺ごとやれ、先人達と同じ思いを響かせながらオレグに体当たりを仕掛ける。
 その思いを後押しするかのように光弾が飛び交う。
 その中にはアランが、いや、カイルが放った跳弾もあった。
 それら全てに対し、オレグは、

「むんっ!」

 鬱陶しいぞ、その思いを響かせながら豪腕を振るった。

「がっ!」「ぐぁっ!」

 重い打撃音と共に、突撃した兵士達が次々と突き飛ばされる。
 しかしその悲鳴に断末魔のものは少なかった。
 原因はオレグの手の形にあった。
 握り拳では無く、手を開いた掌底打ち。突き飛ばすことを重視した形。
 動く死体に組み付かれることを避けるために選んだ形であった。
 そしてそれは悪く無い手であった。

「ぐぅあっ!」

 吹き飛ばした人間、それそのものを飛び道具として兵士達にぶつける。
 列が崩れ、道が開く。
 それを見たオレグの手の形はさらに変化し、応じて戦い方も変えた。
 突き飛ばすだけでは無く、時に掴んで振り回し、そして投げる。

「うわああぁっ?!」

 そして崩れ始めた列に光弾を連射して道を作る。
 逃げ遅れた者や、纏わりついてきた者を投げ返しながらアランに向かって突進する。

「くそぉっ!」

 オレグの勢いを止められない、その事実に誰かが声を漏らす。
 弱い自分への悔しさが滲んだ声。
 そしてその気持ちは皆同じであった。
 だから誰かが心の中で叫んだ。
 もっと、と。
 その叫びに誰かが応えた。
 もっと力を合わせなければ、と。
 その叫びに誰かが続いた。
 一人の命で止められないのであれば十人、それでも駄目ならば――
 その続きは言葉にならなかった。
 だが異を唱える者は誰もいなかった。
 ゆえに、兵士達はその思いを気勢に変えて吐き出そうとした。
 が、その瞬間、

(――などとお前達は考えているのだろう?)
「「「!?」」」

 突如心に響いたオレグの声に、全員の思考が止まった。
 オレグは盗み聞いていたのだ。
 しかしオレグは兵士達をあざけり、笑っているわけでは無かった。
 あくまでも、相手の戦術の変化を監視していただけだ。
 これは一種の挑発。
 相手の引き出しを、まだ使っていない戦術を早めに出させるための煽り。
 ゆえに、オレグは心の声の続きを口から吐いた。

「弱き者はいくらでも力を束ねるが良い」

 喋りながら向かってきた兵士を掌底打ちで突き飛ばす。

「お前達の心が折れるまで何度でも迎え討とう」

 喋りながら横から襲い掛かってきた兵士を蹴り払う。

「しかしこれ以上何も無いのであれば――」

 喋りながら光弾を避け、叩き払い、

「我の勝ちだ」

 目の前に捉えたアランに向かってオレグは踏み込んだ。
 その踏み込みでオレグは言葉の意味を見せた。
 これまでのどの踏み込みよりも速い。
 その答えはオレグの膝から発せられていた。
 とんでもない激痛。
 それはオレグに出せる正真正銘の最大全速であった。
 特に特殊な技術は使われていない。アラン達がやっていることと同じこと。
 激痛と引き換えに、体を犠牲にして力を出しているだけ。
 これまでは少し痛いだけだった。その加減をやめて全力を出した、それだけのこと。
 そして本気のオレグと今のアラン、その戦いの天秤がどちらに大きく傾いているのかは、

「がはっ?!」

 直後に響いたアランの悲鳴で明らかになった。
 その声には他に二つの音が混じっていた。
 刀を弾かれた金属音と、展開し始めた防御魔法を砕かれた音だ。
 片手で払い、もう片方の拳で突いた、オレグがやったことはそれだけのこと。
 しかしあまりに速すぎたため、全ての音が重なっていた。
 その奇妙な音と共に吹き飛び、後ろにいた兵士達の列に激突するアラン。
 崩れる列と共に倒れた時には既にオレグは目の前。追撃の体勢。
 立ち上がる余裕は無い。ゆえに真横にいた二人の兵士が覆いかぶさるようにアランをかばう。
 が、

「むん!」
「「「うあぁっ!?」」」

 直後に放たれたオレグの全力の蹴りは、かばった二人の兵士ごとなぎ払った。
 勢いを殺さぬように、地面の上を一転して受身を取るアラン。
 しかしその時にはやはり既に目の前。
 反撃するどころか、構えを整える余裕すら無い。

「っ!」

 そしてまた吹き飛ぶアラン。
 リックの技が無ければもう死んでいる。

「ぐぁっ!」

 しかしこんな粘りはいつまでもは続かない。

「ぐぅえ!」

 何度も吹き飛ばされながら、死の足音が近づいてくるのを感じながら思考を巡らせる。
 何か手は無いのかと、心の中で再び叫ぶ。

「あうっ!」

 しかし答えは無い。
 死の気配が濃くなると共に、アランの叫びは懇願に変わった。
 負けたくない、こんなところで終わりたくない、と。
 だから、誰でもいい、何でもいい、頼む、と。
 すると直後、

“アラン――”

 女の声が響いた。
 あの戦いで、シャロンとの激戦の中で聞いた声。
 そういえば、この人は誰だ?
 分かるのは、ただ懐かしい、それだけ。
 アランはそれを心の中で問うた。
 しかしその女性は答えず、ただ伝えるべきことだけを述べた。

“あなたは一人で戦ってきたのでは無いはず。それは今も、そしてこれからもきっと変わらない”

 その言葉の真意を女はアランが尋ね返すよりも早く答えた。

“だから力を借りて束ねるのです。相手がそうしろと教えてくれたではないですか”
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