564 / 586
最終章
第五十八話 おとぎ話の結末(16)
しおりを挟む「「「う雄雄雄ッ!」」」
俺ごとやれ、先人達と同じ思いを響かせながらオレグに体当たりを仕掛ける。
その思いを後押しするかのように光弾が飛び交う。
その中にはアランが、いや、カイルが放った跳弾もあった。
それら全てに対し、オレグは、
「むんっ!」
鬱陶しいぞ、その思いを響かせながら豪腕を振るった。
「がっ!」「ぐぁっ!」
重い打撃音と共に、突撃した兵士達が次々と突き飛ばされる。
しかしその悲鳴に断末魔のものは少なかった。
原因はオレグの手の形にあった。
握り拳では無く、手を開いた掌底打ち。突き飛ばすことを重視した形。
動く死体に組み付かれることを避けるために選んだ形であった。
そしてそれは悪く無い手であった。
「ぐぅあっ!」
吹き飛ばした人間、それそのものを飛び道具として兵士達にぶつける。
列が崩れ、道が開く。
それを見たオレグの手の形はさらに変化し、応じて戦い方も変えた。
突き飛ばすだけでは無く、時に掴んで振り回し、そして投げる。
「うわああぁっ?!」
そして崩れ始めた列に光弾を連射して道を作る。
逃げ遅れた者や、纏わりついてきた者を投げ返しながらアランに向かって突進する。
「くそぉっ!」
オレグの勢いを止められない、その事実に誰かが声を漏らす。
弱い自分への悔しさが滲んだ声。
そしてその気持ちは皆同じであった。
だから誰かが心の中で叫んだ。
もっと、と。
その叫びに誰かが応えた。
もっと力を合わせなければ、と。
その叫びに誰かが続いた。
一人の命で止められないのであれば十人、それでも駄目ならば――
その続きは言葉にならなかった。
だが異を唱える者は誰もいなかった。
ゆえに、兵士達はその思いを気勢に変えて吐き出そうとした。
が、その瞬間、
(――などとお前達は考えているのだろう?)
「「「!?」」」
突如心に響いたオレグの声に、全員の思考が止まった。
オレグは盗み聞いていたのだ。
しかしオレグは兵士達をあざけり、笑っているわけでは無かった。
あくまでも、相手の戦術の変化を監視していただけだ。
これは一種の挑発。
相手の引き出しを、まだ使っていない戦術を早めに出させるための煽り。
ゆえに、オレグは心の声の続きを口から吐いた。
「弱き者はいくらでも力を束ねるが良い」
喋りながら向かってきた兵士を掌底打ちで突き飛ばす。
「お前達の心が折れるまで何度でも迎え討とう」
喋りながら横から襲い掛かってきた兵士を蹴り払う。
「しかしこれ以上何も無いのであれば――」
喋りながら光弾を避け、叩き払い、
「我の勝ちだ」
目の前に捉えたアランに向かってオレグは踏み込んだ。
その踏み込みでオレグは言葉の意味を見せた。
これまでのどの踏み込みよりも速い。
その答えはオレグの膝から発せられていた。
とんでもない激痛。
それはオレグに出せる正真正銘の最大全速であった。
特に特殊な技術は使われていない。アラン達がやっていることと同じこと。
激痛と引き換えに、体を犠牲にして力を出しているだけ。
これまでは少し痛いだけだった。その加減をやめて全力を出した、それだけのこと。
そして本気のオレグと今のアラン、その戦いの天秤がどちらに大きく傾いているのかは、
「がはっ?!」
直後に響いたアランの悲鳴で明らかになった。
その声には他に二つの音が混じっていた。
刀を弾かれた金属音と、展開し始めた防御魔法を砕かれた音だ。
片手で払い、もう片方の拳で突いた、オレグがやったことはそれだけのこと。
しかしあまりに速すぎたため、全ての音が重なっていた。
その奇妙な音と共に吹き飛び、後ろにいた兵士達の列に激突するアラン。
崩れる列と共に倒れた時には既にオレグは目の前。追撃の体勢。
立ち上がる余裕は無い。ゆえに真横にいた二人の兵士が覆いかぶさるようにアランをかばう。
が、
「むん!」
「「「うあぁっ!?」」」
直後に放たれたオレグの全力の蹴りは、かばった二人の兵士ごとなぎ払った。
勢いを殺さぬように、地面の上を一転して受身を取るアラン。
しかしその時にはやはり既に目の前。
反撃するどころか、構えを整える余裕すら無い。
「っ!」
そしてまた吹き飛ぶアラン。
リックの技が無ければもう死んでいる。
「ぐぁっ!」
しかしこんな粘りはいつまでもは続かない。
「ぐぅえ!」
何度も吹き飛ばされながら、死の足音が近づいてくるのを感じながら思考を巡らせる。
何か手は無いのかと、心の中で再び叫ぶ。
「あうっ!」
しかし答えは無い。
死の気配が濃くなると共に、アランの叫びは懇願に変わった。
負けたくない、こんなところで終わりたくない、と。
だから、誰でもいい、何でもいい、頼む、と。
すると直後、
“アラン――”
女の声が響いた。
あの戦いで、シャロンとの激戦の中で聞いた声。
そういえば、この人は誰だ?
分かるのは、ただ懐かしい、それだけ。
アランはそれを心の中で問うた。
しかしその女性は答えず、ただ伝えるべきことだけを述べた。
“あなたは一人で戦ってきたのでは無いはず。それは今も、そしてこれからもきっと変わらない”
その言葉の真意を女はアランが尋ね返すよりも早く答えた。
“だから力を借りて束ねるのです。相手がそうしろと教えてくれたではないですか”
0
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
新約・精霊眼の少女
みつまめ つぼみ
ファンタジー
孤児院で育った14歳の少女ヒルデガルトは、豊穣の神の思惑で『精霊眼』を授けられてしまう。
力を与えられた彼女の人生は、それを転機に運命の歯車が回り始める。
孤児から貴族へ転身し、貴族として強く生きる彼女を『神の試練』が待ち受ける。
可憐で凛々しい少女ヒルデガルトが、自分の運命を乗り越え『可愛いお嫁さん』という夢を叶える為に奮闘する。
頼もしい仲間たちと共に、彼女は国家を救うために動き出す。
これは、運命に導かれながらも自分の道を切り開いていく少女の物語。
----
本作は「精霊眼の少女」を再構成しリライトした作品です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
レイブン領の面倒姫
庭にハニワ
ファンタジー
兄の学院卒業にかこつけて、初めて王都に行きました。
初対面の人に、いきなり婚約破棄されました。
私はまだ婚約などしていないのですが、ね。
あなた方、いったい何なんですか?
初投稿です。
ヨロシクお願い致します~。
伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる