Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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最終章

第五十八話 おとぎ話の結末(15)

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 そしてその賞賛は新たな感情を生み始め、

「雄ォッ!」

 その感情はオレグを動かした。

「ぬ雄雄オオォッ!」

 踏み込み、そして連打。
 その嵐のような攻撃を刀で迎え撃つアラン。
 刃の部分をぶつければ一方的に切り裂けるという有利を最大限に活かしてしのぐ。
 よってオレグの狙いはどうしても武器弾きに絞られる。
 そのために繰り出す手の軌道が曲線になる。曲げざるを得ない。
 対するアランの動作は直線、突きのみ。
 オレグよりも動作量が小さい。ゆえに粘れる。
 お互いの得物は触れ合わない。斬られる前にオレグが手を引く。
 その攻防は正にかつてのリックとの戦いのよう。
 豪腕による拳圧と刃が空気を裂く音が重なり、繋がる。
 されどあくまでも「粘れる」というだけ。
 筋力差はやはり圧倒的。
 ゆえに、もしも弾かれでもしたら――

「っ!」

 再びの金属音と共にその危惧は現実のものとなった。
 火花と共にアランの刃が右に流れる。
 高速演算と腕に貼りつかせていた虫達の力を借りて刃を切り返そうとする。
 瞬間、

(足を止めて打ち合っては駄目よ!)

 脳内にクレアの声が響いたと同時に、アランは後方に地を蹴っていた。
 離れるように流れ始めたアランの影に食らいつくように、オレグが地を蹴る。
 そのまま併走するように流れながら数度空気を裂き合った後、二つの影は金属音と共に交錯。
 アランは逃げ続け、それをオレグが追い続ける。
 金属音と共に二つの影が何度も交錯する。

「「「……っ!」」」

 その応酬に兵士達はみな同じような顔を浮かべていた。
 原因はもどかしさと不甲斐無さ。
 援護したいのに出来ない、そんな自分たちに向けられた感情。
 展開が、二人の動きが速すぎる。
 二人に道を開けているだけの有様。
 怪物はアラン様を盾にするように立ち回っている。背後に照準を合わせてもすぐに移動される。
 双方ともにとんでも無い反応速度。人間同士の戦いには見えない。

「――っ」

 されど不甲斐無い、光る右手を突き出したままのある兵士が奥歯を噛み締めた瞬間、

「!」

 その表情は一転した。
 アランから手紙が届いたからだ。
 これなら出来る、アラン様の助けになれる、そう思った。
 だが同時に、その程度のことでいいのか? そう思った。
 直後、

「!」

 兵士とは真逆の色を、焦りが混じった驚きをオレグはその顔に浮かべた。
 アランが大きく、そして鋭く後退したと同時に、その手に赤い弾を作り出したからだ。
 しかもそれは赤い槍だった。
 あの女のものと比べるといささか小規模なもの。
 されど、今の位置関係で撃てば確実に仲間が犠牲になる。
 しかし迷いは感じられない。
 こいつは魔王のようにも振舞えるのか? この男の性格を読み間違えた?!

「っ!」

 オレグはその焦りと共に後方に地を蹴った。
 が、次の瞬間、

「!?」

 オレグは目まぐるしくその表情を変えた。
 アランが投げた弾の軌道が「上」なのだ。
 しかもやや高い。
 なぜだ、浮かんだ疑惑の答えは既に感じ取れていた。
 アランがまた二人になっているのだ。
 今度の相方も先ほど倒したものだ。
 同時に狙いも読めた。
 即座に地を蹴り直す。出来る限り離れられるように。
 その直後、オレグが読み取った通りのことが起きた。
 別の方向から一つの光弾が、手紙を受け取った兵士が放った弾が飛来する。
 そして二つはぶつかり合い、その衝撃で爆弾は向きを、槍の矛先を変えた。
 次の瞬間、赤い弾は弾け、同じ色の槍を真下に伸ばした。
 槍先が地面に突き刺さり、その身が溶けて広がって火柱と爆炎に変わる。

「ぬぅぅっ!?」

 熱波と共に舞い散り、そして体に食い込んだ石の散弾に、オレグが苦悶の声を漏らす。
 しかしその声は、

「「「今だ!」」」

 ほぼ同時に響いた兵士達の声によって掻き消された。
 爆風に足を止めたオレグに向かって一斉に光弾を発射する。
 光弾の群れが一点に収束するように集まり、次々と炸裂する。
 そして生まれる新たな爆風。
 されど、その淡く輝く煙幕の中にオレグの影は既に無い。
 着弾の寸前にオレグは地を蹴っていた。
 そしてその移動は回避であり、同時に突進でもあった。

「っ!」

 踏み込みの勢いを乗せて放たれた豪腕の一撃に、兵士の一人が声無き悲鳴を上げる。
 そしてオレグはそのまま隊列の中に切り込んだ。
 開けた場所にいれば同じ攻撃をやられてしまうからだ。
 そしてそのことを、オレグの狙いを読むまでも無く兵士達は理解していた。
 潮が引くように、迫るオレグから離れようとする。
 しかしその潮を追うオレグの足の方が速い。
 そのことを兵士達は理解していた。
 ゆえに、

「「雄雄ぉっ!」」

 狙われた者達は逆にオレグに突っ込んだ。
 そして突撃しながら心で叫んだ。俺達ごとやれ、と。
 その最後の気概に兵士達が応える。
 大量の光弾が飛び交い、炸裂音と共に生じた閃光の中に赤が滲む。
 しかし感の良い者には聞こえていた。
 炸裂音の中に重い打撃音が混じっていたことを。突撃した兵士達の生が終わったことを。
 ゆえに、兵士達は頭上を通り過ぎていった赤い弾に願いを込めた。
 仇を討ってくれ、と。あの怪物を倒してくれ、と。
 直後、同じ願いが込められた光弾がその赤い弾にぶつかり、その照準を変えた。
 閃光を吹き飛ばすかのように、赤い槍が地面に突き刺さる。
 そして広がる爆炎をオレグは跳んで回避しようとしたが、

「!」

 出来なかった。
 目の前にいた兵士に組み付かれたからだ。
 その兵士の心臓は既に砕かれている。
 だが彼の魂は、彼が抱いた最期の望みを忠実に実行していた。
 そして両者は爆炎の中に消え、

「ぐおおぉっ!?」

 轟音の中にオレグの苦悶の声が混じった。
 この戦いで初めて響いたオレグの大きな悲鳴。
 その声に兵士達の心に明るい色が滲み始める。
 だが、次の瞬間、

「いや、まだだ!」

 と、ある兵士の警告が響いた。
 感の良い兵士には分かっていた。まだ終わっていないことが。
 そしてそれは直後に全員の目に明らかになった。
 煙幕が晴れ、その姿が露(あらわ)になる。
 そこには、組み付いてきた兵士を盾にしているオレグの姿があった。
 至近距離で受けたためか、盾にされた兵士の亡骸は人の形を残していない。
 ゆえにオレグの体も無事では無く、傷だらけであった。
 が、オレグの戦意は萎縮するどころか、さらに熱くなっていた。
 しかしそれは兵士達も同じであった。

「「「かかれっ!」」」

 これは間違い無く勝ち筋の一つ、我等の命で勝利を引き寄せられるならば安いもの、そんな思いが突撃の声と共に響いた。
 オレグに狙われているかどうかは、次の標的になる可能性が高いかどうかはもはや関係無い。近い者から順に突進する。
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