Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第三章 アランが己の中にある神秘を自覚し、体得する

第十九話 新たなる精鋭(1)

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   ◆◆◆

  新たなる精鋭

   ◆◆◆

 二ヵ月後――

 ラルフは再び神学校の外に出ていた。
 久しぶりの外出であったが、ラルフは前回の事をいまだに引き摺っており、暗いままであった。
 そして、ラルフの隣にはヨハンの姿があった。それがラルフの心をますます重くしていた。
 そして、二人が今いる場所、それは精鋭魔道士を選出する試験会場であった。
 ラルフが精鋭魔道士の試験に挑戦するわけでは無い。ラルフはただの観客であり、社会見学という名目でこの地にやって来ていた。
 ラルフと並んで特別席に座ったヨハンは、試験会場を一望しながら口を開いた。

「広いだろう」

 色気も味も無い感想であったが、ラルフも同じことを考えていた。
 屋外に設置されているこの試験場はとても広かった。雑草一本生えておらず丁寧に整地されてはいたが、どこか殺風景であった。
 しかしその広さは十分すぎるほどであった。ここまで広くする必要があるのかと問いたくなるくらいであった。
 一般の観客席には一緒にこの地を訪れた神学校の生徒達が好き勝手に座っていたが、それでも座席数の三分の一も埋まっていなかった。

「ラルフ、近い将来、お前もこの場所で皆からの賞賛を一身に浴びる時が来るのだ。しっかりと見ておくようにな」

 試験場では着々と準備が進められていた。ヨハンは遠くを見るように水平にした手を額に当てながら口を開いた。

「今回の挑戦者達は……前回の落第者ばかりか。ぱっとせん奴らばかりだな……興味を引くのは……新顔のあの二人くらいか」

 ヨハンが興味を引く二人、それが挑戦者達のうちのどの二人を指しているのかラルフには分からなかったが、この時のラルフは別のものに気を惹かれていた。
 それは試験場の中央に設置されている太い柱であった。恐らくこの柱に魔法を打ち込んで威力を見るのだろう。
 ラルフが柱を見ていることに気づいたヨハンは、声を掛けた。

「ラルフ、お前ならばあんな柱くらい簡単に壊せるであろう?」
「……中心に当たれば確実に砕ける、と思います」
「まあ、そうだろうな。ラルフなら出来て当たり前よな」

 ラルフの答えに、ヨハンは満足したような笑みを浮かべた。
 それから暫くして、柱から少し離れたところに、対峙するように一人の男が立った。
 彼がこの試験の最初の挑戦者なのだろう。そして彼から少し離れたところには礼装に身を包んだ試験管らしき者達がいた。

「やっと始まるようだな。まったく、待ちくたびれたぞ」

 ヨハンがそう言ったのと同時に、場に荘厳な音楽が響き渡った。
 音楽が鳴り止んだ後、会場は厳粛な雰囲気に包まれ、無駄口を叩くものは誰一人としていなくなった。
 息苦しさすら覚えるその静寂の中、挑戦者は柱に向かってゆっくりとその手をかざした――

   ◆◆◆

 試験の結果はすぐに決まり、挑戦者達に通達された。
 これに貴族達は沸きあがった。その熱気は参加者でない者も狂わせていた。
 精鋭として認められること、それは高い社会的地位と栄光を約束されるということであった。その影響は親族だけでなく遠い縁者にまで及ぶのである。
 そして今回の試験で精鋭として認められた者の数は二名であった。
 その二人は周りの貴族達からの羨望と嫉妬の眼差しを一身に受けながら、故郷にいる家族の元へと報告に向かった。

   ◆◆◆

 精鋭として認められた者の一人、バージルは老いた父の前で跪きながらその旨を報告した。



「よくやった我が息子よ。いや、さすがと言うべきか。お前ほどの力があれば当然の結果であろう」

 父は息子に賞賛の言葉を送った後、表情を曇らせつつ再び口を開いた。

「だが、私は心配だ」

 何が――バージルがそう尋ねる前に父は口を開いた。

「バージル、お前はカミラとダグラスの仇討ちをしようと考えているのであろう?」

 これにバージルは小さな礼を返しながら口を開いた。

「父上のおっしゃるとおりです。私は姉上と兄上の命を奪ったディーノとやらに挑むつもりで御座います」

 このとき父は何を言ってもバージルを止めることはできないと分かっていた。しかしそれでも口を開かずにはいられなかった。

「バージル、お前の力は認めている。だが、お前の魔力はカミラやダグラスほどでは……」

 父のこの言葉にバージルは即答した。

「確かに、私の魔力は姉上と兄上には及びませぬ。ですが名族である我等が、魔力を持たぬ者に無様に敗れた精鋭魔道士の面汚しなどと、周囲からあらぬ誹りを受けていることに私は我慢がならないのです」

 力強い口調がバージルの意思の固さを表していた。

「決して侮りは致しませぬ。ただの弱者に姉上と兄上が敗れるなどありえませぬから。そのディーノとやらは、魔法は使えずとも強者なのでしょう。だから私はこの三年間、ひたすらに体と技を鍛えたのです」

 バージルは勢いよく立ち上がり、言葉を続けた。

「必ずや、ディーノの首を取って戻ってまいります。父上、その日までどうかご辛抱下さい」

 バージルは深くお辞儀をして父に決意を示した後、部屋から立ち去っていった。

 父はバージルの背中を見送った後、彼が出て行ったドアを見つめつつ独り言を呟いた。

「……他人からの悪口などどうでもいいのだ。それで我が一族の血に宿る魔力が揺るぐわけでもない。私はただお前が心配なのだ。末っ子であるお前の身に何かあったら、私は……この家の未来は……」

 これこそバージルに聞かせるべき言葉であった。しかし父の中にはバージルの力に賭けてみたい、という気持ちもあった。
 しかしこれはあくまでただの独り言。願わくはバージルに伝わってほしいという思いが込められた祈りのようなものであった。

   ◆◆◆

 父の部屋を後にしたバージルは訓練場に足を運んだ。
 バージルは訓練場に設置された石の柱と対峙していた。
 その柱はバージルの胴周りほどの太さであった。
 バージルは静かに深呼吸した後、ゆっくりと「肩に担ぐように」武器を構えた。
 バージルのその手にある得物、それは紛れもなく「槍斧」であった。
 バージルは鋭く息を吸い込みその身に力を込めた。その力強さは、肩と背の筋肉が大きく隆起するのが遠目からでもわかるほどであった。

「せえやっ!」

 気迫と共に一閃。バージルが放った槍斧は、柱を真横に叩き割った。
 そしてさらに、バージルは柱に向かって踏み込みつつ、槍斧を握っていない空いた片手を突き出した。

「破(は)っ!」

 バージルが気勢を上げたのと同時に、その突き出した手が激しく輝いた。
 その手から生み出されたもの、それは「光の壁」であった。
 訓練場に重い衝突音が鳴り響く。バージルの「光の壁」は柱の残った部分を完全に粉砕した。

 バージル、彼もまた兄姉であるダグラスやカミラと同じ「光の壁」の使い手であった。
 彼の魔力は兄姉には及ばない。だが彼はそれを鍛えた体と技で補っていた。
 兄であるダグラスゆずりの大きな体を有する彼は、槍斧を扱うのに十分な体力を備えていた。槍斧は決してディーノだけの特別では無いのだ。

 バージルを突き動かしているのはディーノの存在である。表面上は復讐を理由にしているが、彼の心の奥底にはディーノに対する武人としての敬意があった。バージルが槍斧を使うようになったのもそこから生じた「憧れ」が原因である。
 しかしバージル本人はそのことに気づいていない。気づいても認めようとはしないだろう。

 そして奇しくも、そんな不器用で不憫な感情を抱えた人間がもう一人いるのであった。
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