Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第四章 神秘はさらに輝きを増し、呪いとなってアランを戦いの場に連れ戻す

第二十六話 ディアナからサラへ(1)

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   ◆◆◆

  ディアナからサラへ

   ◆◆◆

 三ヵ月後――

 新年を迎えたばかりであったが、クリスの城では忙しく縁談の準備が行われていた。
 城主クリスは広間にあるソファーに腰掛け、忙しなく動き回る従者達を眺めていた。
 その表情は決して良いものでは無かった。その原因を知る臣下ハンスは、クリスに声を掛けた。

「レオン将軍の調査で望む結果が得られなかったのは、真に残念でなりませんな」
「……それは仕方が無い。結果はどうあれ、我々の為に尽力してくれたことを感謝すべきだろう」

 クリスは「それに――」と言って言葉を続けた。

「まだ結婚すると決まったわけでは無い。向こうに何か無礼があれば、それを理由に縁談を反故にできるかもしれん」

 そう言ってクリスは笑った。
 恐らく相手はそんな下手なことはするような輩ではあるまい、ハンスはそう思ったが、それは口に出さず、

「そうかもしれませぬな」

 とだけ答え、クリスと同じように笑った。
 
   ◆◆◆

 その頃、クリスに縁談を持ち込んだ男、リチャードは妻と娘ディアナと共に馬車に乗り、クリスの城を目指していた。
 一行はちょっとした軍隊のようであった。リチャード達が乗る馬車の周りには多くの屈強な兵士達が並んでいた。
 リチャードはそんな馬車の窓から外をうかがいながら口を開いた。

「クリスの城へと続く谷間の道が見えてきたな。その手前にある関所に着いたら、そこで少し休憩しよう」

 彼の隣に座る妻は、その顔に喜びの表情を浮かべながら口を開いた。

「早く外に出て少し動きたいわ。ずっと座りっぱなしなせいで、お尻が痛くなってきちゃった」

 リチャードは妻の言葉に軽い笑い声を返した後、対面に座る娘ディアナに声を掛けた。

「谷間の道に入ったらもう休める場所は無いからな。関所に着いたらちゃんと便所に行っておくんだぞ」

 そう言ってリチャードは笑ったが、娘ディアナは頷きを返しただけであった。

「まったく、下品な言い方ね。もう少し上品に言いなさいよ」

 妻はそう言ってリチャードの笑みに釘を刺した後、娘ディアナの隣に座る召使いサラに声を掛けた。

「サラ、関所に着いたらディアナをお手洗いに連れていってあげて。それと、身だしなみに問題は無いかもう一度見てちょうだい」

 これに召使いサラは「かしこまりました」と答えながら深い礼を返した。
 妻の言葉を聞いたリチャードは少しあきれながら口を開いた。

「おいおい、またか? 身だしなみの確認は城に着く直前でいいだろう。何も道中でそこまで気を張らなくても……」

 妻はやや大げさに首を振りながら答えた。

「駄目よ。娘を見るのはクリス様だけじゃないわ。道行く人々全員に良い印象を与えるつもりでなきゃ駄目」

 妻は語尾の「駄目」という部分に少し溜めを効かせ、自分は譲るつもりは無いということを主張した。
 これにリチャードは少しうんざりしたような表情を浮かべながら、小さく鼻で笑った。
 その直後、馬車の中の空気が凍りついた。妻がリチャードの態度に怒ったからでは無い。外から兵士の悲鳴が聞こえたからだ。
 リチャードは何事かと窓から外の様子をうかがった。
 そこには矢にやられた兵士の死体と、戦闘体勢を取って声を上げる兵士の姿があった。

「賊の襲撃だ! 馬車を守れ!」

 兵士のその声が合図になったかのように、新手の賊が周囲の茂みなどから次々と姿を現した。
 兵士達と賊は激しくぶつかりあい、場はあっという間に乱戦となった。

「前方の賊を蹴散らして馬車を走らせろ! リチャード様達を関所まで避難させるのだ!」

 リチャードの側近はそう声を上げながら、賊に向かって突撃していった。

   ◆◆◆

 レオン将軍の臣下マルクスは、その様子を少し離れたところから見守っていた。
 マルクスは眉をひそめながらぽつりと言葉を漏らした。

「分が悪いな。リチャードはかなり強い兵士を雇っているようだな」

 これに傍にいた一人の兵士が口を開いた。

「前方は間も無く突破されてしまうでしょう。マルクス様、如何いたしますか?」

 マルクスは配下の兵士達を見回しながら口を開いた。

「仕方が無い。我々も出るぞ。ただし、我々がここにいた証拠を残すことはあってはならん。たとえ死体でもだ」

 マルクスの言葉に兵士達は頷きつつ力強い眼差しを返し、その士気の高さを示した。
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