Chivalry - 異国のサムライ達 -

稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)

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第五章 アランの力は留まる事を知らず、全てを巻き込み、魅了していく

第三十八話 軍神降臨(1)

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   ◆◆◆

   軍神降臨

   ◆◆◆

 その瞬間から街の様相は一変した。
 直前までは戦いの声が街を包んでいた。
 怒声も悲鳴も唄のように全て重なって、街を響かせていた。
 しかし今は違う。悲鳴と奇声ばかりだ。
 奇妙で、とてもとても残酷な唄が街に響いている。
 それを奏でるは一人の女。
 指揮者である彼女が腕を振るうたび、新たな音が生まれる。
 彼女が腕を振るうたび、赤い雨が降る。
 彼女が腕を振るうたび、家屋が崩れ落ちる。
 女は笑っている。
 血まみれになった顔面に、恐ろしい表情を張り付かせている。
 なぜそんな表情を作っているのか。
 彼女を支配しているのは興奮。
 異常なまでの脳内麻薬の分泌が、彼女を狂わせているのだ。
 兵士達の悲鳴が甘美に感じるほどに。
 だから奏でる。甘美な音を聴くために。響かせるために。
 恍惚たる空間。ゆえに至福の時。
 これがいつまでも続いて欲しいと、恐ろしいことにリーザは本気でそう思っていた。
 が、直後、

「後退しろっ! とにかく距離を取れっ!」

 雑音がリーザの耳に入った。
 見ると、そこには兵士達に激を飛ばすケビンの姿。
 兵士達は我先にと逃げ始めている。
 が、ケビンはその背中に声を叩きつけた。

「負傷者を回収しながらだ! 引き摺ってでも連れて行け!」

 兵士達の背中がびくりと跳ね上がり、踵が返る。
 その集団の中に、明らかに遅れている者達がいた。
 大盾兵達だ。
 ずるずると、盾を引き摺りながら走るその者達に向かって声が上がる。

「盾は捨てよ! あの魔法に対しては意味が無い!」

 声の主はクラウス。
 その声に思い出したかのように兵達が盾を捨て始める。
 その様子に、リーザは目を細くした。
 この地獄の中で彼らは秩序を失っていない。
 それがリーザには気に食わなかった。
 リーザの右手に赤球が生まれる。
 それを見たケビンは即座に声を上げた。

「回避!」

 どうやって、とは言えなかった。ケビンにもわからないからだ。

 リーザの手から赤球が放たれる。
 やはりこちらを狙ってきた、その言葉がケビンの脳内に言葉として浮かび上がったと同時に、赤球は弾けた。
 眩く赤い槍が花開くように生まれる。
 それがケビンには赤く光ったように見えた。
 しかしケビンに認識出来たことはそれだけだった。
 気付けば、ケビンは他の兵士達と共に吹き飛んでいた。
 咄嗟に防御魔法を展開したはず。なのに、いつの間にか両手は万歳の形で上げられている。
 もう一つ奇妙なのは、「音が遅れてきたような」気がすることだ。
 つまり、この攻撃は音よりも速いということなのだろうか。

(……ふ、)

 自分の中に浮かんだ仮説の馬鹿馬鹿しさに笑みがこぼれそうになった瞬間、ケビンの背中に衝撃が走った。
 どうやら地面に到着したようだ。

「ぐ、うぅ……」

 悲鳴を上げる全身に鞭を入れながら、上半身を起こそうとする。
 が、

「! つぅっ!」

 支えにした右腕から発せられたあまりの激痛に、ケビンの背中は再び地に落ちた。
 見ると、右腕は完全に折れていた。

「くそっ……!」

 悪態を吐きながら左手で上半身を起こす。
 途中、右足も折れているのが目に入った。
 これは完全に戦闘不能だなと、ケビンの理性は判断したが、まだやるべきことが残っていることもわかっていた。
 周囲を見回す。
 想像していたよりは残酷な光景が少ない。悲鳴もだ。
 被害を免れた兵士達は後退を続けている。
 しかし数が合わない。免れた連中と、そこら辺に散乱している死体の合計が少ないように見える。
 その理由はすぐに分かった。
 自分のすぐ傍に瓦礫の山がある。恐らく、先の攻撃で倒壊した家屋だろう。
 きっと、これに多くの者達が飲み込まれたのだ。

「よっ、……っと」

 まるで老人のような掛け声を出しながら、剣を杖にして立ち上がる。
 リーザの様子をうかがう。どうやら壊滅した我が隊への興味はもう無くなったようだ。
 剣をシャベル代わりにして瓦礫を除去していく。

「くそ……!」

 悪態が再び口からこぼれ出す。
 上手くいかない。片手片足なのだから当たり前だが。
 しかしこの作業が遅れれば遅れるほど、埋もれている兵士達の命が消えていくことになる。

「誰か……!」

 思わず助けを呼ぶ。
 しかし誰も来てくれる気配が無い。
 直後、ケビンの脳裏に一人の男の顔がよぎった。
 それはクラウス。
 そうだ。律儀なあの男ならば、クラウスならばこの状況でも手を貸してくれると期待して声を上げた。
 だが、その男は姿を見せない。

(まさか……)

 ケビンの視線が自然と下に落ちた。
 もしや、クラウス殿もこの下に、と思ったからだ。
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