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第六章 アランの力は遂に一つの頂点に
第四十話 稲光る舞台(1)
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稲光る舞台
◆◆◆
様々な事があったあの戦いから一週間後の朝、
「……」
リーザは静かに目を覚ました。
場所は分からない。知らない天井だ。ベッドの上ということだけは分かる。
ここはどこ? あの後どうなった? それを確認するため、上半身を起こそうとした瞬間、
「ここは私が用意した部屋だ。戦いの後、傷だらけだったお前をここに運ばせたのだ」
と、男の声が耳に入った。
痛みをこらえながら体を起こしつつ、声がした方へ振り向くと、そこには本を片手に椅子に座っているサイラスの姿があった。
サイラスは本を机の上に置きながら口を開いた。
「そろそろ目覚める頃だと思ってな」
サイラスは嘘をついた。「思った」のではなく、「察した」。
リーザにはそれが分かった。いつの間にか心が繋がれていたからだ。
その事実から、リーザはサイラスもアランのような能力を持っていることを理解した。そしてそれが強力であることも。心の奥底まで見透かされているようだ。この男ならば剣に頼らずとも、本能の考えを読めるのではないだろうか。
そして逆に、こちらもサイラスが考えていることが分かる。わざとそうしているのだろう。嘘を隠すつもりは無いようだ。もっと言えば、隠し事無く腹を割って話したいということか。
そこまでリーザが理解したと同時に、サイラスが再び口を開いた。
「目覚めはどうだ? どんな気分だ?」
サイラスがいう「目覚め」とは、「生まれ変わり」のことであった。
サイラスはリーザの理性と本能が作り直されたことを知っていた。感じ取っていた。
そしてどうやらサイラスはそのことについて話を聞きたいようであった。
「……」
しかしこの問いにリーザは困った。
自分でもまだよくわからないからだ。
それに記憶が曖昧だ。はっきりと思い出せない。
何故だろうとリーザが考え込むと、それは以前の自分の記憶がまだ馴染んでいないからだろう、と思った。
なぜだかそれが正解のように感じられ、そしてその言葉が本能から伝えられたものであることを理解するのにさほど時間は要さなかった。
そしてリーザはそれを言葉で説明しようとしたが、
「そうか、それならばまた後で話を聞かせてもらうことにしよう」
今のサイラスに口での説明は不要であったらしく、そう言い残して部屋から出ていった。
◆◆◆
「……くっ、はっはっは」
リーザの部屋を出てからしばらくして、サイラスは突然噴出した。
リーザを上手く騙すことが出来たからだ。
実は、サイラスに腹を割って話し合うつもりなど微塵も無かった。
しかしリーザは騙された。そう思った。感じた。
どうしてそんなことが出来たのか。
サイラスは笑いを抑えながら、その答えをつぶやいた。
「……『思い込む』、ということがこれほど便利とはな」
サイラスは腹を割って話していると自身を思い込ませていた。一時的な軽い自己洗脳である。
実際は腹など割られていない。隠し事だらけだ。
腹を割って話す、その感覚だけをリーザに放ったのだ。
嘘の感覚を発しないことも重要だ。詐欺師の技の一種である。
サイラスはたった一週間で感知能力者に対して隠し事をするのに必要な基本技術を身に着けていた。
何故か。
良い師がいたからだ。
◆◆◆
その後、サイラスは人気の少ない広場に足を伸ばした。
そこには二人の男がサイラスを待っていた。
二人を待たせた形であるが、サイラスは悪びれた様子無く声をかけた。
「じゃあ今日も頼むぞ、フレディ、ケビン」
師とはフレディのことであった。
サイラスはフレディが感知能力の素質を有していることをすぐに見抜き、共感を使って同じ道に引き込んだ。
そして予想通り、フレディの感知能力は中々強力であった。
フレディも同じく、自覚無しにその能力を使っていたのだろう。だから隠密行動に長けていたのだ。
さらに、フレディは騙し技、詐術に長けていた。
それらは感知能力者に対しても有効であった。ケビンを練習相手にして試したからだ。
共感を使えば習得にはそれほど時間はかからなかった。感覚的な技術の習得に共感は便利な代物であった。
サイラスはこれとは別に、兵士達との訓練も行っている。
しかしその中にラルフは含まれていない。
サイラスは警戒していた。ラルフに余計なことが吹き込まれないかどうかを。妙な知恵をつけてしまわないかどうかを。ラルフには便利な駒のままでいてほしいからだ。
ゆえに、サイラスはリーザに興味を持っていた。
あの時、彼女の身に何が起こったのかは分からなかったが、考えが全く読めなくなったとケビンから聞いたからだ。
その技術に、神秘にサイラスは惹かれていた。
今の詐術は完璧とは言い難い。優秀な能力者相手だと見破られる可能性がある。
そして完璧な詐術を身に付ければ、よりラルフを扱いやすくなる。
(リーザには協力してもらわねばならないな……)
どんな手を使ってでも、という言葉がサイラスの奥底に漂っていた。
サイラスは気付いていない。
既に自分の足が泥沼にはまっていることを。
サイラスが進もうとしているのは束縛と支配の道。
詐術や脅迫を使わねば歩めぬ不安定で危うい道。
サイラスは後に思い知らされることになる。
隠し事が無い者の強さを。「威風堂々」という言葉の重みを身を持って知ることになるのだ。
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