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27.俺、傍観する
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「いやだって、シンシア姉さんがいつそのことに気付くのか、何人かで賭けをしてたんだねぃ。予想外の横やりは入ったけど、これで賭けは終了なんだねぃ」
「はぁ? 何言ってんの? そんな趣味悪いこと誰が」
「胴元は殿下なんだねぃ」
「はぁ?」
あー……まさかの殿下が胴元なんじゃ、シンシアも強くは言えないよな。これはご愁傷様と言うべきか。
「シンシア姉さんは忘れてるのかもしれないけど、ミケーレの魔晶石を誰がどれだけ利用してるかっていうのは、主席経由でちゃんと報告が上がってるんだねぃ。使いすぎてるシンシア姉さんのことも、ちゃんと殿下と主席は把握してたんだねぃ」
「うそ……やば」
そんなに重要なことなのかは分からないが、青ざめたシンシアの様子を見る限り、なかなかまずい事態らしい。俺には関係ないけど。
『シャーの言う通りだぜ、シンシア!』
二人の会話に飛び込んだのはネズミ氏……だけど、ミモさんの肩に乗っかってるから、ミモさんってことでいいのかな。まさかの主席の登場に、シンシアの顔に汗がだらだらと流れているのが見える。
「嘘、主席、なんで……」
『何でも何もないんだぜ! 無属性の魔晶石に頼り切ってんのをいつになったらバカなことなのかって気付くのかと思えば、ド素人のミケっちに指摘されるたぁな!』
ド素人と言われてしまったが、まぁ、実際その通りなので仕方がない。だが、このままだとシンシアが説教されるのを眺めるだけの居心地の悪い状況に置かれてしまう。それは避けたいな、と思っていたら、同じように考えていたらしい、シャラウィと目が合った。
うん、これは離脱しよう。
目だけで通じ合った俺たちは、シンシアからもらった分だけの魔晶石を作ると、ネズミ氏から罵詈雑言を浴びているシンシアの前にそっと置き、そそくさと逃げ出した。
シャラウィは自分の研究に戻り、俺は掃除の続き……じゃなくて、そろそろ食事の下拵えをしておこう。
「待て」
厨房へ向かう俺の首根っこを掴んだのは、ジジさんだった。当たり前だが、相変わらずこちら側に向けられた角の鋭さに、俺はひゅっと身体を縮こめる。まさか、シンシアと一緒に説教を受けろとかそういう理不尽案件なのか。
「厨房に第一のヤツらが来てる。今は行くな」
「え、あ、あぁ」
そういえば、この第二研究所以外の人――魔族に見られるなっていう話だったっけ。
「あれ、でも、どうして第一の人が厨房に?」
「……厨房を預かるなら知っといた方がいいか」
ジジさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、俺に裏事情を教えてくれた。
――――第一研究所は第一王子の管轄、第二研究所は第二王子の管轄となっている。ここ第二研究所はアウグスト殿下がイチから人材を集めた結果、才能重視ということで平民出身が多い。その一方で第一研究所はいわゆる貴族出身の研究者が多く、その権威を振りかざしてやりたい放題しているらしい。止めろよ、第一王子。
それがどう厨房に関係してくるかと言うと、あちらのお抱えのシェフが、こちらの厨房の氷室を勝手に予備食材庫扱いしているらしく、勝手に食材を持って行ったり、不要な食材を――特に鮮度の落ちたものを置いていくのだとか。
「それ、抗議しないのか?」
「抗議したところで、そんな証拠はないって突っぱねられるんだよ。強く言えば、貴族の権威とやらで圧力かけて来やがるから、こっちとしては放置してたんだ」
「……なんてはた迷惑な」
「それは同感だな」
ということは、せっかく在庫管理して計画を立ててたのがおじゃんになる可能性が大きいってことか。本当に面倒なことだ。俺一人が理不尽な目に遭うのは散々経験しているが、食料を荒らされると、第二研究所のメンバーが影響を受けるんだよな。それは本当に勘弁願いたい。
思わず暗くなった俺の背中を、ジジさんがバン、と強く叩いた。思わず咽せる俺に、ジジさんが「悪いな」と全然悪いと思っていなさそうな声音で謝る。
「みんな知ってることだ。そのせいで食事の質が多少落ちたって誰も文句は言わねぇよ。むしろお前が厨房に立ってるってだけで感謝してるヤツが多いんだ」
「だけど……」
「殿下もご存じなんだ。一応、何か考えがあるらしいんだがな。納得いかなきゃ、直に聞いてみろ」
「……あぁ、そうしてみるよ」
あの殿下のことだから、俺なんかじゃ考えもつかない深謀遠慮ってやつがあるに違いない。いや、面倒だから放置してる、とか言われたらちょっと泣く。
「はぁ? 何言ってんの? そんな趣味悪いこと誰が」
「胴元は殿下なんだねぃ」
「はぁ?」
あー……まさかの殿下が胴元なんじゃ、シンシアも強くは言えないよな。これはご愁傷様と言うべきか。
「シンシア姉さんは忘れてるのかもしれないけど、ミケーレの魔晶石を誰がどれだけ利用してるかっていうのは、主席経由でちゃんと報告が上がってるんだねぃ。使いすぎてるシンシア姉さんのことも、ちゃんと殿下と主席は把握してたんだねぃ」
「うそ……やば」
そんなに重要なことなのかは分からないが、青ざめたシンシアの様子を見る限り、なかなかまずい事態らしい。俺には関係ないけど。
『シャーの言う通りだぜ、シンシア!』
二人の会話に飛び込んだのはネズミ氏……だけど、ミモさんの肩に乗っかってるから、ミモさんってことでいいのかな。まさかの主席の登場に、シンシアの顔に汗がだらだらと流れているのが見える。
「嘘、主席、なんで……」
『何でも何もないんだぜ! 無属性の魔晶石に頼り切ってんのをいつになったらバカなことなのかって気付くのかと思えば、ド素人のミケっちに指摘されるたぁな!』
ド素人と言われてしまったが、まぁ、実際その通りなので仕方がない。だが、このままだとシンシアが説教されるのを眺めるだけの居心地の悪い状況に置かれてしまう。それは避けたいな、と思っていたら、同じように考えていたらしい、シャラウィと目が合った。
うん、これは離脱しよう。
目だけで通じ合った俺たちは、シンシアからもらった分だけの魔晶石を作ると、ネズミ氏から罵詈雑言を浴びているシンシアの前にそっと置き、そそくさと逃げ出した。
シャラウィは自分の研究に戻り、俺は掃除の続き……じゃなくて、そろそろ食事の下拵えをしておこう。
「待て」
厨房へ向かう俺の首根っこを掴んだのは、ジジさんだった。当たり前だが、相変わらずこちら側に向けられた角の鋭さに、俺はひゅっと身体を縮こめる。まさか、シンシアと一緒に説教を受けろとかそういう理不尽案件なのか。
「厨房に第一のヤツらが来てる。今は行くな」
「え、あ、あぁ」
そういえば、この第二研究所以外の人――魔族に見られるなっていう話だったっけ。
「あれ、でも、どうして第一の人が厨房に?」
「……厨房を預かるなら知っといた方がいいか」
ジジさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべると、俺に裏事情を教えてくれた。
――――第一研究所は第一王子の管轄、第二研究所は第二王子の管轄となっている。ここ第二研究所はアウグスト殿下がイチから人材を集めた結果、才能重視ということで平民出身が多い。その一方で第一研究所はいわゆる貴族出身の研究者が多く、その権威を振りかざしてやりたい放題しているらしい。止めろよ、第一王子。
それがどう厨房に関係してくるかと言うと、あちらのお抱えのシェフが、こちらの厨房の氷室を勝手に予備食材庫扱いしているらしく、勝手に食材を持って行ったり、不要な食材を――特に鮮度の落ちたものを置いていくのだとか。
「それ、抗議しないのか?」
「抗議したところで、そんな証拠はないって突っぱねられるんだよ。強く言えば、貴族の権威とやらで圧力かけて来やがるから、こっちとしては放置してたんだ」
「……なんてはた迷惑な」
「それは同感だな」
ということは、せっかく在庫管理して計画を立ててたのがおじゃんになる可能性が大きいってことか。本当に面倒なことだ。俺一人が理不尽な目に遭うのは散々経験しているが、食料を荒らされると、第二研究所のメンバーが影響を受けるんだよな。それは本当に勘弁願いたい。
思わず暗くなった俺の背中を、ジジさんがバン、と強く叩いた。思わず咽せる俺に、ジジさんが「悪いな」と全然悪いと思っていなさそうな声音で謝る。
「みんな知ってることだ。そのせいで食事の質が多少落ちたって誰も文句は言わねぇよ。むしろお前が厨房に立ってるってだけで感謝してるヤツが多いんだ」
「だけど……」
「殿下もご存じなんだ。一応、何か考えがあるらしいんだがな。納得いかなきゃ、直に聞いてみろ」
「……あぁ、そうしてみるよ」
あの殿下のことだから、俺なんかじゃ考えもつかない深謀遠慮ってやつがあるに違いない。いや、面倒だから放置してる、とか言われたらちょっと泣く。
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