人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

長野 雪

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28.俺、反撃を計画する

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「成程、今日も来たのか」

 仮眠室での同衾中の寝物語に、昼に来た第一研究所のコックのことを尋ねてみると、特に驚いたようすもない殿下の声。……というか、寝物語って言うのやめよう。俺が気持ち悪くて困る。やっぱり寝物語っていうのは、小さな子供に対するものか、一定以上親しくなった女性に使いたい。

「今日もっていうことは、やっぱりご存じなんですね」
「無論。まぁ、あちらも驚いたのではないかな。随分と整理されたようだし」
「そりゃ整理しますよ。無造作っていうか無差別っていうか、使いにくかったですもん、氷室」

 毎日日替わりで氷室を料理当番に荒らされていたんだから、そりゃ整理もついてないだろう。それなのに、第一のコックは予備食材庫扱いしてたってんだから、ある意味すげぇ。
 俺なりに食材のカテゴリ別に並べ直したので、さぞやお目当ての食材は見つけやすかっただろう。おかげで明日のメニューが変更だ。肉たっぷりのスープを作ろうと思ったのに、根菜たっぷり肉ちょっぴりのスープにせざるを得なくなった。

「お前はどうだ? すぐに支障が出るほどに持って行かれたのなら、それなりの対処をするが」
「大丈夫ですけど、見事に肉と葉物野菜を持って行かれたので、何ていうか、腹が立ちました」
「お前もお前なりに計画を立てていたであろうな」

 あ、これ、勘違いされてるかな。正直、自分で組んだ仕事の段取りを狂わされるなんて、前のお邸では日常茶飯事だった。今更、立つ腹もない。っていうか、腹を立てるのさえ億劫だ。

「そこじゃないです。それなりのお給料を貰って、第一研究所の厨房を預かってるのに、予算内で計画を立てて遣り繰りもできないのか、っていうか、えぇと、プロ意識がないのかっていうことの方が、なんだか腹が立って」

 そうなんだ。お金を貰って、この予算で食事を作れって言われてるのに、他所ヨソの食材に手を出しているなんて、それって仕事が雑過ぎるだろう?

「……お前は面白いな」
「そんなことを言うの、殿下だけですよ」

 俺は少しだけ頬を膨らませた。

「やっぱり、止めさせることはできないんですか」
「オレが言っても、しばらく止めるだけで、またすぐに荒しに来るだけであろうよ。以前もそうであった」

 殿下の言葉に、俺はすっと目を細めた。ああいう輩は、厳罰を与えるとか、徹底的に恥をかかないと直らないんだよな。

「第一のコックの心証が悪くなると、何かマズいことはありますか?」
「ないな。どうせ何かあったとしても泣きつく先はないだろう。第二の食材庫に手を付けていることさえ、うやむやにして逃げているだけだしな」

 あぁ、確固たる証拠が必要なのか。いや、証言でもいいのか? 第二研究所の研究員に平民が多くて証言を軽んじられるなら、本人に喋らせればいい。
 俺は頭の中で計画を組み立てていく。

「罠を仕掛けようと思うんですが、どうでしょう」
「ほう? 詳しく話してもらおうか。計画次第では協力は惜しまんぞ? 目障りな盗人鼠は視界に入らない方が良いに決まっているからな」

 俺の背中側にいる殿下の表情は見えなかったが、その声音にぞくりと震えがはしった。たぶん、すごく嗜虐的な笑みを浮かべているんじゃなかろうか。絶対に振り向かないぞ。怖くて寝られなくなるからな。
 俺は、計画の概要と、必要となる食材について殿下に説明する。内容は十分なものであったようで、殿下はゴーサインをくれた。
――――食材が揃い次第、反撃してやろうじゃないか。

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