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32.俺、パパを得る
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「なるほど、それが火の精霊か」
「なんか、俺以外が触るとちゃんと熱いらしいんですよね」
仮眠室で寝る前に、アウグスト殿下に紹介する。いや、だって、一緒に寝て、こいつが殿下を燃やしちゃったらマズいじゃん。いや、ママの責任とか言うな。俺がママなんて断じて認めてない。
『ママ?』
俺の手のひらの上で、こてん、と首を傾けて不思議そうにする火の精霊は、周囲が面白がって肯定したせいで、俺のことを「ママ」と呼ぶようになってしまっていた。ちくしょう。他人事だからって変なこと教えやがって。
「エン、この方は絶対に傷つけないように気をつけてくれるか?」
俺の懇願に、エン――炎を表す言葉から直球で名付けた――は何故かぴょんぴょんと飛び跳ねる仕草で返事をする。どうも拙い言葉遣いのせいか、知能が幼児並みに思えるんだが、誰にでも見える&人型を取れる時点でそこそこ高位という話だった。頭でっかちの三頭身なので、全くそうは見えない。
『パパ! パパ!』
「は!?」
エンが指差した先には、アウグスト殿下のきょとん顔がある。そう。事もあろうに、エンは殿下を指差して「パパ」とのたまったのだ。
「待て、エン。どうしてそうなる!」
『ママ、パパ、エン、ウマレタ!』
「すまん、さっぱり言いたいことが分からない」
俺の理解力が足りないのか、それともエンが余りに言葉足らずなのか。原因がどちらにあるかは置いといて、言わんとすることを理解してくれなかったと、エンがぷくっと頬を膨らませた。
「これはもしかして――」
「殿下?」
なんと、殿下は今の言葉で分かったのか! 俺はいつにも増して尊敬の眼差しで殿下の言葉を待つ。
「いや、あくまで仮説の段階でしかない。検証のためには……ふむ、確かお前に誰がどのぐらい魔力を与えたかは記録してあったな?」
「はぁ……、無属性の魔晶石を公平に分配するためにって、ミモさんの指示で全部記録を付けてるはずです。あ、不可抗力で俺が吸っちゃったらしい分は、さすがに分かりませんよ?」
研究員間で一触即発の状態のときを筆頭に、本人が無意識に垂れ流している分を俺が吸ってしまったらしい魔力なんかは、記録には残っていない。まぁ、あんな状態だと、誰の魔力がどのぐらい空気中に漂っていたかなんて調べる方法もないんだろうから仕方ない。
「ならば、検証は可能だな」
「? 結局、どういうことなんでしょうか?」
手のひらのエンをあやしながら、俺は殿下に尋ねる。気さくな殿下は、その仮説を惜しみなく披露してくれた。
「本来、魔力には属性が帯びるのが当たり前だ。お前はそれを無属性にしてしまうらしいが、では、その属性がどこへ行ったのか不思議ではなかったか?」
「あー、確か、誰かがそんなことを言っていたような気が……」
エンツォだったか、ジジさんだったか、そこらへんがそんなようなことを口にしてたはずだ。あれ、ミモさんだっけ? いや、ミモさんだったら、ぞわぞわした感覚とセットで耳に入るはずだから、しっかり覚えてるはずだ。
「お前が属性の濾過装置の役割をしていると仮定すれば、自ずと見えてくる話よ」
「ろか……?」
俺の残念な脳内辞書には「ろか」という言葉がそもそもない。無教養とか言わないでくれ、日々押しつけられる仕事をこなすのに必要ない単語なんて、知っているはずがないだろう。
「濾過というのは……そうだな、料理をする際に、ザルを使うことがあるだろう?」
「そうですね、茹でた麺を湯切りしたり、野菜を洗ったりするときに使っています」
「ザルを通り抜けたものが無属性の魔晶石、ザルに残ったものが属性と考えよ」
つまり、麺の茹で汁が魔晶石で、麺が属性ってことか?
「同じ作業を繰り返せば、ザルはどうなる?」
「あふれますね」
「溢れた結果がその精霊――エンだ」
殿下に指差されたエンは、何を思ったのかやたらとはしゃいでいる。何を考えているのかさっぱり分からない。
「なんか、俺以外が触るとちゃんと熱いらしいんですよね」
仮眠室で寝る前に、アウグスト殿下に紹介する。いや、だって、一緒に寝て、こいつが殿下を燃やしちゃったらマズいじゃん。いや、ママの責任とか言うな。俺がママなんて断じて認めてない。
『ママ?』
俺の手のひらの上で、こてん、と首を傾けて不思議そうにする火の精霊は、周囲が面白がって肯定したせいで、俺のことを「ママ」と呼ぶようになってしまっていた。ちくしょう。他人事だからって変なこと教えやがって。
「エン、この方は絶対に傷つけないように気をつけてくれるか?」
俺の懇願に、エン――炎を表す言葉から直球で名付けた――は何故かぴょんぴょんと飛び跳ねる仕草で返事をする。どうも拙い言葉遣いのせいか、知能が幼児並みに思えるんだが、誰にでも見える&人型を取れる時点でそこそこ高位という話だった。頭でっかちの三頭身なので、全くそうは見えない。
『パパ! パパ!』
「は!?」
エンが指差した先には、アウグスト殿下のきょとん顔がある。そう。事もあろうに、エンは殿下を指差して「パパ」とのたまったのだ。
「待て、エン。どうしてそうなる!」
『ママ、パパ、エン、ウマレタ!』
「すまん、さっぱり言いたいことが分からない」
俺の理解力が足りないのか、それともエンが余りに言葉足らずなのか。原因がどちらにあるかは置いといて、言わんとすることを理解してくれなかったと、エンがぷくっと頬を膨らませた。
「これはもしかして――」
「殿下?」
なんと、殿下は今の言葉で分かったのか! 俺はいつにも増して尊敬の眼差しで殿下の言葉を待つ。
「いや、あくまで仮説の段階でしかない。検証のためには……ふむ、確かお前に誰がどのぐらい魔力を与えたかは記録してあったな?」
「はぁ……、無属性の魔晶石を公平に分配するためにって、ミモさんの指示で全部記録を付けてるはずです。あ、不可抗力で俺が吸っちゃったらしい分は、さすがに分かりませんよ?」
研究員間で一触即発の状態のときを筆頭に、本人が無意識に垂れ流している分を俺が吸ってしまったらしい魔力なんかは、記録には残っていない。まぁ、あんな状態だと、誰の魔力がどのぐらい空気中に漂っていたかなんて調べる方法もないんだろうから仕方ない。
「ならば、検証は可能だな」
「? 結局、どういうことなんでしょうか?」
手のひらのエンをあやしながら、俺は殿下に尋ねる。気さくな殿下は、その仮説を惜しみなく披露してくれた。
「本来、魔力には属性が帯びるのが当たり前だ。お前はそれを無属性にしてしまうらしいが、では、その属性がどこへ行ったのか不思議ではなかったか?」
「あー、確か、誰かがそんなことを言っていたような気が……」
エンツォだったか、ジジさんだったか、そこらへんがそんなようなことを口にしてたはずだ。あれ、ミモさんだっけ? いや、ミモさんだったら、ぞわぞわした感覚とセットで耳に入るはずだから、しっかり覚えてるはずだ。
「お前が属性の濾過装置の役割をしていると仮定すれば、自ずと見えてくる話よ」
「ろか……?」
俺の残念な脳内辞書には「ろか」という言葉がそもそもない。無教養とか言わないでくれ、日々押しつけられる仕事をこなすのに必要ない単語なんて、知っているはずがないだろう。
「濾過というのは……そうだな、料理をする際に、ザルを使うことがあるだろう?」
「そうですね、茹でた麺を湯切りしたり、野菜を洗ったりするときに使っています」
「ザルを通り抜けたものが無属性の魔晶石、ザルに残ったものが属性と考えよ」
つまり、麺の茹で汁が魔晶石で、麺が属性ってことか?
「同じ作業を繰り返せば、ザルはどうなる?」
「あふれますね」
「溢れた結果がその精霊――エンだ」
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