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33.俺、仮説を聞く

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「えーと、注がれた魔力が俺の中で属性と魔力に分かれて、魔力は無属性の魔晶石になって、属性がこうなったと?」
「そうだ。理解力は悪くないな。よいことだ」

 いやいや、頭を撫でられても嬉しい年齢じゃないぞ。いや、嬉しくないかと言われれば、殿下に褒められたことは嬉しいけどさ。

「殿下からもらった魔力は火属性が強いから、火属性の精霊になって俺から飛び出したっていうことですか?」
「うむうむ、賢い賢い」

 意地でも「生まれた」という言葉を使わないようにして確認すると、またさらに頭を撫でられた。俺、殿下から見るとちっちゃい子供なのかな?

『パパ! エン! ナデテ!』
「おぉ、そうかそうか。撫でて欲しいか」

 俺の手のひらで両手を広げてアピールするエンを、アウグスト殿下は寛大にも撫でている。いや、寛大にって言うよりは、面白がっている感じだな。どちらにしても、殿下にも危害が加わらないみたいなので、そこに関しては一安心だ。

「オレの立てた仮説については、あとでミモに検証させることにしよう。また火の精霊が生まれるかもしれんし、別の属性の精霊かもしれぬがな」
「……」
「なんだ。不景気な顔だな」
「いや、エンが出てくるとき、結構苦しかったんで」
「ふむ……」

 殿下はまじまじと俺の顔を見つめた。顔立ちの整った殿下に見つめられると、なんだか気恥ずかしくて困る。

「産みの苦しみというのは、そういうものではないのか?」
「産んでないです! 吐き出してるだけですから!」

 俺の言葉に、大口を開けて笑った殿下は、「なるほど、引っかかっているのはそこか」とバシバシと膝を叩いた。

「普通、男なのに『ママ』って呼ばれても微妙だと思います」
「道理だな」

 そこは同意を示してくれる殿下だが、その目は諦めろと言っている。まぁ、エンに定着してしまったのは、たぶんもう戻せないのは研究員たちに聞いた。精霊と契約するときは、最初が肝心なんだっていう経験談とともに。
 だから、それを知っていながら、どうして俺の「ママ」呼びを推奨したのかなぁ……!


§  §  §


『ママ! ここ?』
「あぁ、頼むよ」

 結論、エンはとっても良い子でした、まる。
 エンが出て来たときは、どうなることかと不安になったもんだが、殿下に失礼はしないし、調理場で食材を指定通りに炙ってくれるし、ゴミも燃やしてくれるし、暗い場所で明かりになってくれるし、結構いいこと尽くめで嬉しい。
 今も鶏の手羽肉を炙っていい感じの焦げ目を作ってくれている。もちろん、オーブンだけでちゃんと火は通っているんだが、こういう焦げ目による食感って、侮れないんだよ。食べるときに皮がパリッってしてた方が美味しく感じるだろ? そういうことだ。
 主席研究員であるところのミモさんによると、殿下が披露した仮説は信憑性が高いってことで、次に俺から出て来るのは――くどいようだが、決して『生まれる』んじゃない――同じ火の精霊か、水の精霊じゃないかという予測が立てられた。火はアウグスト殿下の、水は……シンシアが水属性が強いらしい。まぁ、注意を受けるまで結構作ってたし、今もちょくちょく作らされてるからな。それは納得だ。
 ミモさん――正確には代弁役のネズミ氏――が教えてくれたんだが、精霊というのは、相手が好意的で、かつ、こちらの提示した名前を受け入れた時点で、契約が結ばれた状態になるらしい。精霊と契約を結ぶのは、個人の資質に左右されて難しいものなんだそうだが、そもそも俺の中にこごった属性から生じる時点で、俺を親と認識するらしく、エンとの契約はスムーズに進んだ。
 ただ、今後も同じようにいくとは限らないため、身体に変調があれば、すぐに教えるように言われた。ミモさんが俺のことを心配してくれるんだ、と思ったけど、精霊が生じる瞬間をよく見たいだけなんだと、後でエンツォに教えてもらった。本当に俺の存在って軽いよな。
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