空は青く、想いは遠く

長野 雪

文字の大きさ
8 / 27

08.大福派の想い人

しおりを挟む
「丹田でしょ?」
「ほぇあ!?」

 私は真正面から見つめ合っていたアグリッパさんのデッサンに、妙な太い線をぐいっと引っ張ってしまった。

「いま、梓ちゃん、なんて?」
「違うの? 丹田にコクられたんじゃないの?」
「いや、違わないけれどもさ」

 問題は、なんでそれを知ってるかってこと!

「丹田があたしに愚痴ってきたことがあったから、知ってただけ」
「愚痴?」
「どうしてあたしとユズがずっと一緒なのかって」
「一緒って、普通だよね?」
「普通だと思うよ? ただ、丹田からすれば、一緒にい過ぎてユズに話しかける隙がないってことなんでしょ?」
「そういえば、そんなことを言っていたかもしんない……?」

 貴重な機会だとかなんとか、言ってたような?

「そんなふうに愚痴られたから、羨ましいでしょって自慢しておいたわ」

 ひらひら手を振る梓ちゃん、男前です。って、そうじゃない!

「羨ましいって、そうじゃないよね? 丹田くんが――――」
「大丈夫よ。ユズのストーカー相手のことは一切話してないし、せいぜいユズがチョコより大福派ってことしかリークしてないから」
「七ツ役くんが大福派だからね! 私も大福派になったんだ。……じゃなくて、つまり、相談受けてたってこと? いつ?」

 そうだよ。私と梓ちゃんがずっと一緒にいて、私と話す機会がないって言うなら、梓ちゃんとだって話す機会なくない?

「丹田と使う電車が一緒だから。たまにあっちからコンタクト取ってきただけ」
「あ、そっか。帰りは逆方向だもんね」

 駅までは一緒に帰れるけど、梓ちゃんとはそこでお別れなんだ。寂しいなぁと思っていたけど、そんな私の知らないところでそんなことがあったなんて!

「なんで事前に教えてくれなかった、とか言わないわよね?」
「言わないよ。だって、こんなのフライングで当人に教えるなんて人の所業じゃないじゃん」
「ん、分かればよし」

 頷いた梓ちゃんは、改めてアグリッパ胸像に向き直る。
 あれ、もしかして、黙ってたことで、私が臍を曲げるとでも思ってたのかな? そんなに心は狭くないよ?

「で、ちゃんとフってあげた?」
「……フろうとしたら、一週間考えてから答えてって言われた」

 そのときのことを思い出して、ついぶすくれた声を出すと、梓ちゃんは何故か吹き出した。

「どれだけフられたくないのか分かる必死なセリフね」
「必死? 全然そんな感じじゃなかったよ!?」
「馬鹿ね。あの丹田がそんな取り乱すところを見せるわけないじゃない」
「あの丹田が……って、梓ちゃん、丹田くんのこと詳しいの?」
同中おなちゅうだもん。ある程度はね。よくおどけてるけど、あんまし本心は出さないでしょ。難儀よね」
「難儀? いや、それ普通にすごい技能だよね? 私には真似できない」
「ユズの方がすごいじゃない。あんなに何でもないフリで監視なんてできないでしょ、普通」
「監視? 監視なんてしてないよ?」

 私の反論に、なぜか梓ちゃんは大きくため息をついた。

「今日の昼休みの会話、覚えてないの?」
「ん? なんかあったっけ?」

 いつも通りに梓ちゃんと二人でご飯食べたとき、なんか変なこと言ったっけ?

「隣のクラスから、七ツ役くんを探しに来た人がいたじゃない」
「あぁ、地学天文部の人だね」
「それで、七ツ役くん、教室にいなかったでしょ」
「うん、来るちょっと前に丹田くんと二人で連れションに行ってたよね」
「……うん、どうしてユズがそれを知ってたのかしらね」
「? 普通に二人で教室の後ろのドアから出ていったから?」
「窓側の前の方の席で座ってたユズが、どうしてそれを見てたのかなって、……尋ねる方がアホらしくなってきたわ。いい。もう忘れて」
「え~……、梓ちゃ~ん、何だか分からないけど見捨てないで~」

 好きな人の動向が気になるのは普通だよね? どうしてそんな呆れた目をしてるの?

「ま、とにかく、丹田も本気だと思うし、ユズはユズなりにちゃんと考えて答えを出せばいいと思うわ」
「……考えても、やっぱり七ツ役くんしかありえないよ」
「それなら、それでいいじゃない。ちゃんと禍根の残らないようにキッパリサッパリスッパリとフってあげるのよ」
「それがなんか、丹田くんを傷つけそうで困ってるんだってば」
「なら、丹田と付き合う?」
「だから、七ツ役くんが……」
「それならフるの」
「う……うん」

 私は梓ちゃんの迫力に気圧されて頷いた。
 梓ちゃんの言うことも分かるんだ。だって、七ツ役くんを諦める気がないなら、私が丹田くんと付き合えるはずもないもん。
 でもね、誰かの誘いを振るのって、告白するのと同じくらいエネルギー使うと思うんだよ! 精神的エネルギーが消費されるんだよ!

「変なこと考えてるでしょ。でも、丹田のためにもフってあげなさい。同情する方が失礼だと思う」
「そう、だよね」

 向こうが自分の気持ちに正直に告白してくれたんだったら、私だって正直で返さないとだめだよね。
 ……って分かってはいるんだよ!
 でもさ、考えてみてよ! フるってことは、相手はショックを受けるわけでしょ? それに、絶対、その後は気まずくなるじゃん!

「別に、丹田とそんなに接点ないでしょ」
「あ、それもそうか……って、私、口に出てた?」
「だだ洩れ」

 うー……。恥ずかしい。
 でも決めた! 頑張ってお断りする!
 もう悩まない!
 とりあえずモデルのアグリッパさんに悪いから、アグリッパさんに集中するよ! 相変わらず男前だ!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

【短編】記憶を失っていても

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
 7年以上前の記憶のない平民出身のラチェルは、6年前に娘のハリエットを生んでからグリオス国のアンギュロスの森付近の修道院で働きながら暮らしていた。  そんなある日ハリエットは見たことのない白銀色の大樹を見つけたと、母ラチェルに話すのだが……。  これは記憶の全てを失ったラチェル──シェシュティナが全てを取り戻すまでのお話。 ※氷雨そら先生、キムラましゅろう先生のシークレットベビー企画開催作品です( ´艸`)

【完結】無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます!ー新たなる王室編ー

愚者 (フール)
恋愛
無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! 幼女編、こちらの続編となります。 家族の罪により王から臣下に下った代わりに、他国に暮らしていた母の違う兄がに入れ替わり玉座に座る。 新たな王族たちが、この国エテルネルにやって来た。 その後に、もと王族と荒れ地へ行った家族はどうなるのか? 離れて暮らすプリムローズとは、どんな関係になるのかー。 そんな彼女の成長過程を、ゆっくりお楽しみ下さい。 ☆この小説だけでも、十分に理解できる様にしております。 全75話 全容を知りたい方は、先に書かれた小説をお読み下さると有り難いです。 前編は幼女編、全91話になります。

【完結】二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

処理中です...