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08.大福派の想い人
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「丹田でしょ?」
「ほぇあ!?」
私は真正面から見つめ合っていたアグリッパさんのデッサンに、妙な太い線をぐいっと引っ張ってしまった。
「いま、梓ちゃん、なんて?」
「違うの? 丹田にコクられたんじゃないの?」
「いや、違わないけれどもさ」
問題は、なんでそれを知ってるかってこと!
「丹田があたしに愚痴ってきたことがあったから、知ってただけ」
「愚痴?」
「どうしてあたしとユズがずっと一緒なのかって」
「一緒って、普通だよね?」
「普通だと思うよ? ただ、丹田からすれば、一緒にい過ぎてユズに話しかける隙がないってことなんでしょ?」
「そういえば、そんなことを言っていたかもしんない……?」
貴重な機会だとかなんとか、言ってたような?
「そんなふうに愚痴られたから、羨ましいでしょって自慢しておいたわ」
ひらひら手を振る梓ちゃん、男前です。って、そうじゃない!
「羨ましいって、そうじゃないよね? 丹田くんが――――」
「大丈夫よ。ユズのストーカー相手のことは一切話してないし、せいぜいユズがチョコより大福派ってことしかリークしてないから」
「七ツ役くんが大福派だからね! 私も大福派になったんだ。……じゃなくて、つまり、相談受けてたってこと? いつ?」
そうだよ。私と梓ちゃんがずっと一緒にいて、私と話す機会がないって言うなら、梓ちゃんとだって話す機会なくない?
「丹田と使う電車が一緒だから。たまにあっちからコンタクト取ってきただけ」
「あ、そっか。帰りは逆方向だもんね」
駅までは一緒に帰れるけど、梓ちゃんとはそこでお別れなんだ。寂しいなぁと思っていたけど、そんな私の知らないところでそんなことがあったなんて!
「なんで事前に教えてくれなかった、とか言わないわよね?」
「言わないよ。だって、こんなのフライングで当人に教えるなんて人の所業じゃないじゃん」
「ん、分かればよし」
頷いた梓ちゃんは、改めてアグリッパ胸像に向き直る。
あれ、もしかして、黙ってたことで、私が臍を曲げるとでも思ってたのかな? そんなに心は狭くないよ?
「で、ちゃんとフってあげた?」
「……フろうとしたら、一週間考えてから答えてって言われた」
そのときのことを思い出して、ついぶすくれた声を出すと、梓ちゃんは何故か吹き出した。
「どれだけフられたくないのか分かる必死なセリフね」
「必死? 全然そんな感じじゃなかったよ!?」
「馬鹿ね。あの丹田がそんな取り乱すところを見せるわけないじゃない」
「あの丹田が……って、梓ちゃん、丹田くんのこと詳しいの?」
「同中だもん。ある程度はね。よくおどけてるけど、あんまし本心は出さないでしょ。難儀よね」
「難儀? いや、それ普通にすごい技能だよね? 私には真似できない」
「ユズの方がすごいじゃない。あんなに何でもないフリで監視なんてできないでしょ、普通」
「監視? 監視なんてしてないよ?」
私の反論に、なぜか梓ちゃんは大きくため息をついた。
「今日の昼休みの会話、覚えてないの?」
「ん? なんかあったっけ?」
いつも通りに梓ちゃんと二人でご飯食べたとき、なんか変なこと言ったっけ?
「隣のクラスから、七ツ役くんを探しに来た人がいたじゃない」
「あぁ、地学天文部の人だね」
「それで、七ツ役くん、教室にいなかったでしょ」
「うん、来るちょっと前に丹田くんと二人で連れションに行ってたよね」
「……うん、どうしてユズがそれを知ってたのかしらね」
「? 普通に二人で教室の後ろのドアから出ていったから?」
「窓側の前の方の席で座ってたユズが、どうしてそれを見てたのかなって、……尋ねる方がアホらしくなってきたわ。いい。もう忘れて」
「え~……、梓ちゃ~ん、何だか分からないけど見捨てないで~」
好きな人の動向が気になるのは普通だよね? どうしてそんな呆れた目をしてるの?
「ま、とにかく、丹田も本気だと思うし、ユズはユズなりにちゃんと考えて答えを出せばいいと思うわ」
「……考えても、やっぱり七ツ役くんしかありえないよ」
「それなら、それでいいじゃない。ちゃんと禍根の残らないようにキッパリサッパリスッパリとフってあげるのよ」
「それがなんか、丹田くんを傷つけそうで困ってるんだってば」
「なら、丹田と付き合う?」
「だから、七ツ役くんが……」
「それならフるの」
「う……うん」
私は梓ちゃんの迫力に気圧されて頷いた。
梓ちゃんの言うことも分かるんだ。だって、七ツ役くんを諦める気がないなら、私が丹田くんと付き合えるはずもないもん。
でもね、誰かの誘いを振るのって、告白するのと同じくらいエネルギー使うと思うんだよ! 精神的エネルギーが消費されるんだよ!
「変なこと考えてるでしょ。でも、丹田のためにもフってあげなさい。同情する方が失礼だと思う」
「そう、だよね」
向こうが自分の気持ちに正直に告白してくれたんだったら、私だって正直で返さないとだめだよね。
……って分かってはいるんだよ!
でもさ、考えてみてよ! フるってことは、相手はショックを受けるわけでしょ? それに、絶対、その後は気まずくなるじゃん!
「別に、丹田とそんなに接点ないでしょ」
「あ、それもそうか……って、私、口に出てた?」
「だだ洩れ」
うー……。恥ずかしい。
でも決めた! 頑張ってお断りする!
もう悩まない!
とりあえずモデルのアグリッパさんに悪いから、アグリッパさんに集中するよ! 相変わらず男前だ!
「ほぇあ!?」
私は真正面から見つめ合っていたアグリッパさんのデッサンに、妙な太い線をぐいっと引っ張ってしまった。
「いま、梓ちゃん、なんて?」
「違うの? 丹田にコクられたんじゃないの?」
「いや、違わないけれどもさ」
問題は、なんでそれを知ってるかってこと!
「丹田があたしに愚痴ってきたことがあったから、知ってただけ」
「愚痴?」
「どうしてあたしとユズがずっと一緒なのかって」
「一緒って、普通だよね?」
「普通だと思うよ? ただ、丹田からすれば、一緒にい過ぎてユズに話しかける隙がないってことなんでしょ?」
「そういえば、そんなことを言っていたかもしんない……?」
貴重な機会だとかなんとか、言ってたような?
「そんなふうに愚痴られたから、羨ましいでしょって自慢しておいたわ」
ひらひら手を振る梓ちゃん、男前です。って、そうじゃない!
「羨ましいって、そうじゃないよね? 丹田くんが――――」
「大丈夫よ。ユズのストーカー相手のことは一切話してないし、せいぜいユズがチョコより大福派ってことしかリークしてないから」
「七ツ役くんが大福派だからね! 私も大福派になったんだ。……じゃなくて、つまり、相談受けてたってこと? いつ?」
そうだよ。私と梓ちゃんがずっと一緒にいて、私と話す機会がないって言うなら、梓ちゃんとだって話す機会なくない?
「丹田と使う電車が一緒だから。たまにあっちからコンタクト取ってきただけ」
「あ、そっか。帰りは逆方向だもんね」
駅までは一緒に帰れるけど、梓ちゃんとはそこでお別れなんだ。寂しいなぁと思っていたけど、そんな私の知らないところでそんなことがあったなんて!
「なんで事前に教えてくれなかった、とか言わないわよね?」
「言わないよ。だって、こんなのフライングで当人に教えるなんて人の所業じゃないじゃん」
「ん、分かればよし」
頷いた梓ちゃんは、改めてアグリッパ胸像に向き直る。
あれ、もしかして、黙ってたことで、私が臍を曲げるとでも思ってたのかな? そんなに心は狭くないよ?
「で、ちゃんとフってあげた?」
「……フろうとしたら、一週間考えてから答えてって言われた」
そのときのことを思い出して、ついぶすくれた声を出すと、梓ちゃんは何故か吹き出した。
「どれだけフられたくないのか分かる必死なセリフね」
「必死? 全然そんな感じじゃなかったよ!?」
「馬鹿ね。あの丹田がそんな取り乱すところを見せるわけないじゃない」
「あの丹田が……って、梓ちゃん、丹田くんのこと詳しいの?」
「同中だもん。ある程度はね。よくおどけてるけど、あんまし本心は出さないでしょ。難儀よね」
「難儀? いや、それ普通にすごい技能だよね? 私には真似できない」
「ユズの方がすごいじゃない。あんなに何でもないフリで監視なんてできないでしょ、普通」
「監視? 監視なんてしてないよ?」
私の反論に、なぜか梓ちゃんは大きくため息をついた。
「今日の昼休みの会話、覚えてないの?」
「ん? なんかあったっけ?」
いつも通りに梓ちゃんと二人でご飯食べたとき、なんか変なこと言ったっけ?
「隣のクラスから、七ツ役くんを探しに来た人がいたじゃない」
「あぁ、地学天文部の人だね」
「それで、七ツ役くん、教室にいなかったでしょ」
「うん、来るちょっと前に丹田くんと二人で連れションに行ってたよね」
「……うん、どうしてユズがそれを知ってたのかしらね」
「? 普通に二人で教室の後ろのドアから出ていったから?」
「窓側の前の方の席で座ってたユズが、どうしてそれを見てたのかなって、……尋ねる方がアホらしくなってきたわ。いい。もう忘れて」
「え~……、梓ちゃ~ん、何だか分からないけど見捨てないで~」
好きな人の動向が気になるのは普通だよね? どうしてそんな呆れた目をしてるの?
「ま、とにかく、丹田も本気だと思うし、ユズはユズなりにちゃんと考えて答えを出せばいいと思うわ」
「……考えても、やっぱり七ツ役くんしかありえないよ」
「それなら、それでいいじゃない。ちゃんと禍根の残らないようにキッパリサッパリスッパリとフってあげるのよ」
「それがなんか、丹田くんを傷つけそうで困ってるんだってば」
「なら、丹田と付き合う?」
「だから、七ツ役くんが……」
「それならフるの」
「う……うん」
私は梓ちゃんの迫力に気圧されて頷いた。
梓ちゃんの言うことも分かるんだ。だって、七ツ役くんを諦める気がないなら、私が丹田くんと付き合えるはずもないもん。
でもね、誰かの誘いを振るのって、告白するのと同じくらいエネルギー使うと思うんだよ! 精神的エネルギーが消費されるんだよ!
「変なこと考えてるでしょ。でも、丹田のためにもフってあげなさい。同情する方が失礼だと思う」
「そう、だよね」
向こうが自分の気持ちに正直に告白してくれたんだったら、私だって正直で返さないとだめだよね。
……って分かってはいるんだよ!
でもさ、考えてみてよ! フるってことは、相手はショックを受けるわけでしょ? それに、絶対、その後は気まずくなるじゃん!
「別に、丹田とそんなに接点ないでしょ」
「あ、それもそうか……って、私、口に出てた?」
「だだ洩れ」
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