空は青く、想いは遠く

長野 雪

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19.恋愛嗜好の想い人

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「へー、あたしがレズビアン」
「うん。そんな噂があったらしいんだけど、本当?」

 ステンシルの型紙を作るためにせっせとPC室で見本を印刷している最中に、こそっと事の真偽を尋ねてみたら、梓ちゃんはまるで他人事のように平坦に返事をした。

「ちなみに、ユズはあたしがレズビアンだったらどう思う?」
「う~ん、今まで梓ちゃんから恋話コイバナがなかったのは、そのせいかなーって納得する」

 私のセリフに、梓ちゃんが大げさに肩を竦めた。

「ちなみに、ユズの想い人が同性愛者だったら?」
「頑張って両刀の道に誘導する」

 即答したのが面白かったのか、内容が面白かったのか、梓ちゃんはぶふっと吹き出した。笑い声こそ上げなかったものの、震える腹筋を必死で押さえている。
 うーん? そんなに頓珍漢な回答だったかな? もしくは、私って変な顔して答えた? いやいや、そんな変顔なんてした覚えはないよ。

「そこでノーマルに矯正する、なんて言わないのがユズらしいわ」

 ようやく笑いの発作が収まった梓ちゃんは、まるで幼い子にするみたいに、私の頭をよしよしと撫でてきた。

「だって、本人がそうだって言うものを、無理やりに止めさせるなんておこがましいじゃん」
「うん、ユズはそういう人間よね」

 あ、もう。また頭撫でる。同い年なのに。

「あたしは、好きになるのはどっちでもいい」
「それは、両刀ってこと?」
「残念。今の時点で好きな人はいないけど、どっちになるか分からないってこと」

 梓ちゃんの言うことはよく分からないけど、それってつまりは――――

「潜在的両刀……」
「なるほど、そういう理解ね。でも、それでいいんじゃない? なってみないと分からないんだから」
「つまり、梓ちゃんの心が広いってことだね」
「あー……、ほんとユズは可愛いね」

 またヨシヨシされた。

「それで、結局のところ、告白するの?」
「……実は、してみようかな、とは思ってる」
「おぉ、ユズにしては、随分と積極的ね」

 このまま眺めていられるだけで十分って思ってたんだよね。でも、丹田くんのこととかあって、自分でもよく考えるようになったんだ。駄目で元々、受け入れてもらえれば儲けもの。

「今は、頑張ってシミュレーションしてるんだ」
「……あぁ、うん」
「あ、ひどい、梓ちゃん! 今、残念な感じでこっち見たでしょ!」
「分かってるなら問題ないわ」

 うぅ、告白するって決めてすぐに告白できるようなら、今までずっと眺めっぱなしになってないってば!
 とりあえず、どこで話し掛けるか、どうやって切り出すか、延々とシミュレーションを繰り返してる最中なんだ。もう少し時間が欲しい。具体的に言うと、あと3万パターンは試したい。
 だって、まずどこで告白するかでしょ? 時間帯も重要だし、何て言って告白するかってのもある。場所×時間×セリフ……って考えたら軽く5万パターンぐらいは行くよね。うん!


・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・


 今日はコクるにはもってこいの日だ。
 すっきり目が覚めたし、朝から快便、髪の毛もハネなくまとまったし、数学だって1コマしかない。
 天気だって空に雲ひとつないぐらい晴れ晴れとしてるし、空気だって澄み渡ってる。
 あぁ、今日はなんてコクるにはもってこいの日なんだろう!

 ……なんて考えて登校したのに。
 ねぇ、神様は私のことを見て、指差して笑ってるんでしょう! 絶対そう! 腹抱えて嘲笑ってるに違いない!

「ユズ、大丈夫? なんかヤバいオーラ出てるよ?」
「だいじょうぶ……」
「いやいや、大丈夫じゃないって。もしかして生理?」
「その……実は」

 私は梓ちゃんの耳元で、事情を話す。すると、梓ちゃんは突然机に突っ伏した。しかもなんか震えてる。

「梓ちゃん?」
「っっ、ごめ、ごめんっ、でも、なんて言うか、さっ」

 梓ちゃん。どう見ても笑いを抑えられてないよ。

「ユズ、やっぱり何か持ってるよね。逆にすごい」
「すごくない!」

 恥を忍んで打ち明けたのに。ひどい。

「また一週間待たないといけないんだよ?」
「一週間? どうして?」

 ふっふっふ、そこは5万パターンにも及ぶシミュレーションの結果があるのだ。

「えーとね、その人が一人で部室に行くのって、木曜日だけなんだよね」

 誰が聞いてるか分からないので、あえて「その人」なんてぼやかして話す。もちろん、梓ちゃんは誰のことを言ってるか、ちゃんと分かってる。

「え? でも部活って美術部うちと同じ月・木でしょ?」
「うん。でも、月曜日は白川くんと一緒に地学準備室に行ってるから。木曜日はなんでか白川くんいないんだよね。おかげで助かるんだけど」
「……ユズ」

 あれ、どうして梓ちゃんが額に手を当てて大きなため息ついてるの?

「白川くんはさ、バスケ部の天海あまみさんと付き合ってるから、木曜は体育館に行ってるんだと思うよ?」
「ん? そうなの? でも、どうして体育館に?」
「そうなの?って、あれだけ周囲気にせずイチャついてるのに、視界に入ってないのね。――――まぁ、ユズだから、いいわ。とにかく、木曜は女バスが体育館を使う日だから、見学だか応援にでも行ってるんでしょ」
「おぉー、すごいね、梓ちゃん。情報通だ」
「……ほんっとうにそこしか見ないわよね。フィルターでもかかってるの? それともズームのし過ぎ?」
「ズームのし過ぎ、かも?」

 ごめんなさい、梓ちゃん。七ツ役くんしか見ていないという自覚はあります。はい。

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