20 / 27
20.深謀遠慮の想い人
しおりを挟む
「……にしても、意外だったわー」
放課後、本日の告白を諦めて美術室に向かう道すがら、梓ちゃんがそんなことを呟いた。
「意外? 七ツ役くんだって風邪ひくよ?」
「そこじゃない。あたしが言いたいのは、ユズが早々に告白するって決めたこと」
「ひどい梓ちゃん! 私だって、ズバッと決心するときは決心するんだよ! 優柔不断なんて思ったら大間違いなんだから」
「そこでもないんだけどね。……だって、今月は年間通しての一大イベントがある12月よ? あたしはてっきりクリスマスをスルーしてバレンタインまでぐずぐず考えるもんだと思ってたから」
クリスマスにバレンタイン、か。うん、確かにそう思った時期もあったよね! 1年の12月とか2月にね! 結局、コクれなかったけどね! 特にバレンタインなんてチョコ買うところまではしたのにね!
「色々とシミュレーションしてね、気付いたんだよ」
「気付いた?」
「クリスマス前とかバレンタインって、告白流行るじゃん!」
「流行るっていうか、まぁ、そういうタイミングだし」
「先越されたらどうするの!」
そうなんだよ。シミュレーション中に気が付いたんだ。「ごめん、もう別のヤツに告白されて付き合うことになってんだ」とかお断りされるパターンがあるかもしれないって!
ぐっと拳を握り、天に突き上げる私に、梓ちゃんから呆れた声が投げつけられる。
「去年両方スルーしたユズが言うセリフじゃないわね」
それを言われると痛い! でも勇気が出なかったんだから仕方がないじゃん! その頃は、まだ本屋で話すなんてこともしてない頃だし。
「たまにユズがそういうふうに色々と考えてるの見ると、ユズなのにすごいなって思うわ」
「ひどい、梓ちゃん! 私だって、ちゃんと考えてるんだよ? だからこれからは『しんぼーえんりょのユズ』って呼んでくれたっていいんだからね?」
そんなこんなで美術室に到着すると、何故か梓ちゃんは描きかけのポスターじゃなくて、ルーズリーフを1枚出して、私に向けた。
「ねぇ、ユズ。ユズの言う『しんぼーえんりょ』って漢字で書いてみて?」
「ガーン!」
ひどい、ひどいよ梓ちゃん。確かにあんまり使い慣れない言葉だけど、私だって漢字が不得意なわけじゃないんだから。
……あれ、これでいいんだっけ? なんか違うような?
『芯棒遠慮』
自分の書いた文字に首を捻っていると、梓ちゃんは無言でルーズリーフを自分の方に向けてさらさらと何かを描き始めた。
梓ちゃんは線一本で絵が描ける人なんだよね。つい線を何本も重ねてしまう私にとっては、すごく憧れるタイプだ。
目の前で梓ちゃんが書いたのは、水車小屋? あ、なんか水車の中央の棒の横に矢印を書いて、うーん、引っ張り出すのかな?
そう思って眺めていたら、隣になんか太い棒を描いて、手と足をつけて、なんか汗を拭いてる感じに擬人化して吹き出しが……「ボクは遠慮します」?
さらにスラスラと描かれた3つ目のイラストは、ドンガラガッシャンなんて擬音と崩れた小屋。
「ユズの書いた漢字を絵にしてみた」
「梓ちゃん! 漢字が間違ってるなら間違ってるって言ってくれればいいじゃん」
「いや、なんか面白くて」
私はスマホを取り出して、「しんぼうえんりょ」を検索する。
『深謀遠慮――遠い将来のことまで考えて周到にはかりごとを立てること』
私は自分の書いた「芯棒」を二重線で消すと、その上にしっかりと「深謀」と書いた。
さらにお返しとばかりに、顎に握り拳をつけて、「う~ん」と悩んでいる人の絵を描く。元は中国の四字熟語らしいので、古代中国の役人っぽい帽子も付け加えた。帽子の名前? そんなの知らない。
「これでいいでしょ」
「あーあ、直されちゃった。つまんない。……で、なんの話してたんだっけ?」
「七ツ役くんに告白する話だよ」
「あー、そうだった。それで、来週?」
「もちろん! まだ12月も始まったばっかだもん。告白すると決めたからには、早めにするんだから」
「おー、がんばれー」
「梓ちゃんってば、棒読みにも程があるよ……」
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
わーお。今日もてんこ盛りだぁねぇ。
そんなことを考えながら、教室のゴミをわさわさと集積所まで持っていく。寒いとちょいちょい休み時間に甘い物を取りたくなるよねー……なんて、透明なゴミ袋の中にチョコの包みを見つけて、一人うんうんと頷いていた。
私もなんか甘い物食べたくなってきたなー。でも、お小遣いは無駄に使いたくないし、下手に本能に従って甘い物を取ると、下腹部に直結するしなー。
「ユズ」
後ろから名前を呼ばれた。
うん。あれだね。既視感があるね。声にも聞き覚えがあるし。
……っていうかね、私のことを「ユズ」って親し気に呼ぶ男子なんて一人しかいないんだ。
あー、振り返したくないなぁ。でも、無視するのはやり過ぎだよね、きっと。
ちらりと廊下の窓を見ると、予想通りの人が映っていた。しかも、私と同じくゴミ捨てかと思ったら、何も持ってない。ってことは、これは偶然とかじゃないよね。向こうから話しかけるタイミングを計ってたってことだよね。そういうことなら、ここで無視しても、また似たようなことがあるわけだ。
あぁ、面倒臭い。とっとと諦めてくればいいのに。
放課後、本日の告白を諦めて美術室に向かう道すがら、梓ちゃんがそんなことを呟いた。
「意外? 七ツ役くんだって風邪ひくよ?」
「そこじゃない。あたしが言いたいのは、ユズが早々に告白するって決めたこと」
「ひどい梓ちゃん! 私だって、ズバッと決心するときは決心するんだよ! 優柔不断なんて思ったら大間違いなんだから」
「そこでもないんだけどね。……だって、今月は年間通しての一大イベントがある12月よ? あたしはてっきりクリスマスをスルーしてバレンタインまでぐずぐず考えるもんだと思ってたから」
クリスマスにバレンタイン、か。うん、確かにそう思った時期もあったよね! 1年の12月とか2月にね! 結局、コクれなかったけどね! 特にバレンタインなんてチョコ買うところまではしたのにね!
「色々とシミュレーションしてね、気付いたんだよ」
「気付いた?」
「クリスマス前とかバレンタインって、告白流行るじゃん!」
「流行るっていうか、まぁ、そういうタイミングだし」
「先越されたらどうするの!」
そうなんだよ。シミュレーション中に気が付いたんだ。「ごめん、もう別のヤツに告白されて付き合うことになってんだ」とかお断りされるパターンがあるかもしれないって!
ぐっと拳を握り、天に突き上げる私に、梓ちゃんから呆れた声が投げつけられる。
「去年両方スルーしたユズが言うセリフじゃないわね」
それを言われると痛い! でも勇気が出なかったんだから仕方がないじゃん! その頃は、まだ本屋で話すなんてこともしてない頃だし。
「たまにユズがそういうふうに色々と考えてるの見ると、ユズなのにすごいなって思うわ」
「ひどい、梓ちゃん! 私だって、ちゃんと考えてるんだよ? だからこれからは『しんぼーえんりょのユズ』って呼んでくれたっていいんだからね?」
そんなこんなで美術室に到着すると、何故か梓ちゃんは描きかけのポスターじゃなくて、ルーズリーフを1枚出して、私に向けた。
「ねぇ、ユズ。ユズの言う『しんぼーえんりょ』って漢字で書いてみて?」
「ガーン!」
ひどい、ひどいよ梓ちゃん。確かにあんまり使い慣れない言葉だけど、私だって漢字が不得意なわけじゃないんだから。
……あれ、これでいいんだっけ? なんか違うような?
『芯棒遠慮』
自分の書いた文字に首を捻っていると、梓ちゃんは無言でルーズリーフを自分の方に向けてさらさらと何かを描き始めた。
梓ちゃんは線一本で絵が描ける人なんだよね。つい線を何本も重ねてしまう私にとっては、すごく憧れるタイプだ。
目の前で梓ちゃんが書いたのは、水車小屋? あ、なんか水車の中央の棒の横に矢印を書いて、うーん、引っ張り出すのかな?
そう思って眺めていたら、隣になんか太い棒を描いて、手と足をつけて、なんか汗を拭いてる感じに擬人化して吹き出しが……「ボクは遠慮します」?
さらにスラスラと描かれた3つ目のイラストは、ドンガラガッシャンなんて擬音と崩れた小屋。
「ユズの書いた漢字を絵にしてみた」
「梓ちゃん! 漢字が間違ってるなら間違ってるって言ってくれればいいじゃん」
「いや、なんか面白くて」
私はスマホを取り出して、「しんぼうえんりょ」を検索する。
『深謀遠慮――遠い将来のことまで考えて周到にはかりごとを立てること』
私は自分の書いた「芯棒」を二重線で消すと、その上にしっかりと「深謀」と書いた。
さらにお返しとばかりに、顎に握り拳をつけて、「う~ん」と悩んでいる人の絵を描く。元は中国の四字熟語らしいので、古代中国の役人っぽい帽子も付け加えた。帽子の名前? そんなの知らない。
「これでいいでしょ」
「あーあ、直されちゃった。つまんない。……で、なんの話してたんだっけ?」
「七ツ役くんに告白する話だよ」
「あー、そうだった。それで、来週?」
「もちろん! まだ12月も始まったばっかだもん。告白すると決めたからには、早めにするんだから」
「おー、がんばれー」
「梓ちゃんってば、棒読みにも程があるよ……」
・:*:・・:*:・♪・:*:・・:*:・
わーお。今日もてんこ盛りだぁねぇ。
そんなことを考えながら、教室のゴミをわさわさと集積所まで持っていく。寒いとちょいちょい休み時間に甘い物を取りたくなるよねー……なんて、透明なゴミ袋の中にチョコの包みを見つけて、一人うんうんと頷いていた。
私もなんか甘い物食べたくなってきたなー。でも、お小遣いは無駄に使いたくないし、下手に本能に従って甘い物を取ると、下腹部に直結するしなー。
「ユズ」
後ろから名前を呼ばれた。
うん。あれだね。既視感があるね。声にも聞き覚えがあるし。
……っていうかね、私のことを「ユズ」って親し気に呼ぶ男子なんて一人しかいないんだ。
あー、振り返したくないなぁ。でも、無視するのはやり過ぎだよね、きっと。
ちらりと廊下の窓を見ると、予想通りの人が映っていた。しかも、私と同じくゴミ捨てかと思ったら、何も持ってない。ってことは、これは偶然とかじゃないよね。向こうから話しかけるタイミングを計ってたってことだよね。そういうことなら、ここで無視しても、また似たようなことがあるわけだ。
あぁ、面倒臭い。とっとと諦めてくればいいのに。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる