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73.トゲトゲな視線(前)
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「うわー、めんどー……」
思わずぽろりと本音がこぼれる。
南広場はいくつも屋台が出ていて人出も多く賑わいを見せている。ちょっとお祭り気分でわくわくしながら、席を確保して気になる屋台飯を買った……ところでね、もう視線が痛くて。
「ヨナが危惧してたのは、こういうことかぁ」
何しろ、変装も何もしていない希代の大魔法使いサマだ。顔も知られているということで、いやー、視線を感じること感じること。ついでに差し向いでご飯食べている私にも、嫉妬ビームがすごいすごい。
「これ、次は屋台を避けるか、屋台で買って持ち帰りとかの方がいいかもね」
「次……」
「え、まさか、今日が最初で最後とか言わないわよね? 商品の受け取りだってあるのに」
「いや、俺の方こそ『次』を一切考えていなかっただけだ。……そうか、『次』があるんだな」
どういう思考回路をしていたら『次』がないと思うのか。いや、何だか深淵を覗き込みそうなのでやめておこう。うっかり同情したくなる類の過去とか掘り起こしてしまうかもしれないし。
「で、この串焼き、すごく美味しいと思わない? 具体的に言うと、エールが合いそう」
「お前はすぐに酒と結びつけるな。だが、言いたいことは分かる」
ビシビシ感じる視線はこの際無視することにして、私は目の前の食事に集中する。舌で味を覚えて、なんとか再現できないか、と。
「うーん、スパイスに何使ってるんだろう。それに、ベースに感じる甘みも、肉の脂だけじゃなくて、タレの甘さだと思うのよね」
例えて言うなら、前世のピリ辛照り焼きみたいな味だ。でも、この世界には、少なくとも私の知る限りは醤油・味噌の類はない。
「お前は……強いな」
「そう? 普通だと思うけど」
突然何を言うんだか。魔法において最強な男に言われたくはない。
「不躾な視線が鬱陶しいのなら、それなりに対処しようかと思ったが」
「あぁ、そっち。別にいいのよ。不快だけど実害はないから」
そんなことを考えながら、ちらり、とエールを扱っている屋台を見る。氷までしっかり用意してるから、キンキンに冷えていそうなのよね。
「飲むか?」
「その提案には心惹かれるけど、さすがに控えるわ。午後には仕立て屋でしょ?」
たとえほろ酔いでも、アルコールが入った状態で再びの採寸とか……。しかも、午後に行くのは貴族向けのお店だし。
「真昼間から飲むエールは美味しいと思うけど、また前回みたいないバーに連れてってもらった方が嬉しいし」
「そうか」
ホットドッグをもぐもぐしながら、ヨナの人差し指が何かを描くように動く。わずかに指先が光っているところを見ると、魔法で何かやってるんだろうなー。無詠唱だったり、高度過ぎてさっぱり分からないのよね。
「そういえば、この変装魔法?って、どのくらい持続するの?」
「魔法をかけたときにこめた魔力量に左右されるな。今かかっているものについては、俺と一定以上距離が離れるか、俺が魔力を止めない限りは永続だ」
「え? 魔力を流し続けてるってこと?」
「出かける前に渡したバングルがあるだろう。それを通してパスを繋いでいる」
「……これ、身を守るためのものって言ってなかったっけ?」
右手首に揺れるバングルは、細い銀の環にいくつかの貴石がついたものだ。男女兼用で付けられるようなシンプルなデザインだったし、護身用って聞いたから素直に付けたけど、ちゃんと事前に聞いとくべきだった……? でも、嘘の説明されたとして、それを看破できないしなぁ。
「対物理攻撃、対魔法攻撃、位置把握、それらを起動させるためのパスをつなぐもの、機能の数だけ魔石が埋まってると思えばいい」
あれー、おかしくない? 今、列挙した機能は4つ。石は7つ。残り3つは……聞いたら答えてくれるんだろうか?
「魔石って、あまり身近になかったんだけど、どういうものなの?」
「そうだな、一口に魔石と言っても種類がある。術者の魔力を凝り固めて作るもの、サファイアやエメラルドなど宝石を核として魔力を流し込んだもの、それ以外にも天然のものもある」
魔法関連のことになると、淀みないな。本職だから当然か。
「なるほど。ちなみにこのバングルに使われているやつは?」
「俺の魔力で作ったものだな。魔力濃度や大きさが調整できるから、使い勝手がいい」
うーん? それは普通の魔法使いでも濃度や大きさが調整できるものなのかな? 後で一般的な認識について聞いてみよう。マックさんあたりに。
思わずぽろりと本音がこぼれる。
南広場はいくつも屋台が出ていて人出も多く賑わいを見せている。ちょっとお祭り気分でわくわくしながら、席を確保して気になる屋台飯を買った……ところでね、もう視線が痛くて。
「ヨナが危惧してたのは、こういうことかぁ」
何しろ、変装も何もしていない希代の大魔法使いサマだ。顔も知られているということで、いやー、視線を感じること感じること。ついでに差し向いでご飯食べている私にも、嫉妬ビームがすごいすごい。
「これ、次は屋台を避けるか、屋台で買って持ち帰りとかの方がいいかもね」
「次……」
「え、まさか、今日が最初で最後とか言わないわよね? 商品の受け取りだってあるのに」
「いや、俺の方こそ『次』を一切考えていなかっただけだ。……そうか、『次』があるんだな」
どういう思考回路をしていたら『次』がないと思うのか。いや、何だか深淵を覗き込みそうなのでやめておこう。うっかり同情したくなる類の過去とか掘り起こしてしまうかもしれないし。
「で、この串焼き、すごく美味しいと思わない? 具体的に言うと、エールが合いそう」
「お前はすぐに酒と結びつけるな。だが、言いたいことは分かる」
ビシビシ感じる視線はこの際無視することにして、私は目の前の食事に集中する。舌で味を覚えて、なんとか再現できないか、と。
「うーん、スパイスに何使ってるんだろう。それに、ベースに感じる甘みも、肉の脂だけじゃなくて、タレの甘さだと思うのよね」
例えて言うなら、前世のピリ辛照り焼きみたいな味だ。でも、この世界には、少なくとも私の知る限りは醤油・味噌の類はない。
「お前は……強いな」
「そう? 普通だと思うけど」
突然何を言うんだか。魔法において最強な男に言われたくはない。
「不躾な視線が鬱陶しいのなら、それなりに対処しようかと思ったが」
「あぁ、そっち。別にいいのよ。不快だけど実害はないから」
そんなことを考えながら、ちらり、とエールを扱っている屋台を見る。氷までしっかり用意してるから、キンキンに冷えていそうなのよね。
「飲むか?」
「その提案には心惹かれるけど、さすがに控えるわ。午後には仕立て屋でしょ?」
たとえほろ酔いでも、アルコールが入った状態で再びの採寸とか……。しかも、午後に行くのは貴族向けのお店だし。
「真昼間から飲むエールは美味しいと思うけど、また前回みたいないバーに連れてってもらった方が嬉しいし」
「そうか」
ホットドッグをもぐもぐしながら、ヨナの人差し指が何かを描くように動く。わずかに指先が光っているところを見ると、魔法で何かやってるんだろうなー。無詠唱だったり、高度過ぎてさっぱり分からないのよね。
「そういえば、この変装魔法?って、どのくらい持続するの?」
「魔法をかけたときにこめた魔力量に左右されるな。今かかっているものについては、俺と一定以上距離が離れるか、俺が魔力を止めない限りは永続だ」
「え? 魔力を流し続けてるってこと?」
「出かける前に渡したバングルがあるだろう。それを通してパスを繋いでいる」
「……これ、身を守るためのものって言ってなかったっけ?」
右手首に揺れるバングルは、細い銀の環にいくつかの貴石がついたものだ。男女兼用で付けられるようなシンプルなデザインだったし、護身用って聞いたから素直に付けたけど、ちゃんと事前に聞いとくべきだった……? でも、嘘の説明されたとして、それを看破できないしなぁ。
「対物理攻撃、対魔法攻撃、位置把握、それらを起動させるためのパスをつなぐもの、機能の数だけ魔石が埋まってると思えばいい」
あれー、おかしくない? 今、列挙した機能は4つ。石は7つ。残り3つは……聞いたら答えてくれるんだろうか?
「魔石って、あまり身近になかったんだけど、どういうものなの?」
「そうだな、一口に魔石と言っても種類がある。術者の魔力を凝り固めて作るもの、サファイアやエメラルドなど宝石を核として魔力を流し込んだもの、それ以外にも天然のものもある」
魔法関連のことになると、淀みないな。本職だから当然か。
「なるほど。ちなみにこのバングルに使われているやつは?」
「俺の魔力で作ったものだな。魔力濃度や大きさが調整できるから、使い勝手がいい」
うーん? それは普通の魔法使いでも濃度や大きさが調整できるものなのかな? 後で一般的な認識について聞いてみよう。マックさんあたりに。
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