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騎士と秘密と姫君と
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空の真上から照らす陽光に、温められた乾いた大地が容赦なくそこに居合わせた人々を苛んでいた。どうしてこんな場所、こんな時間に人質交換をしようと思うのか、理解に苦しむわ。
私はカーマに乗っているし、フードも目深に被っているからいいけれど、カーマの手綱を握るジョシュアや、最前線に立っているバルドウィンは、もっと暑いでしょうに。
「そこで止まれぇ―――――っ!」
バリステの陣営から、誰かのダミ声が聞こえた。遮蔽物がないとはいえ、どうやってこれほどの大音声を出せるんだろう。
「人質の確認を要請する! ネリス・イ・リスティア王女の姿を見せよ!」
「そちらも、我らが国王陛下および王子殿下の無事を見せていただきたい!」
砂塵の舞う中、両陣営の間に声が交わされる。……普段、城の中にいる時には思いもしなかったことだけれど、兵を率いる人間には、大声を出せることが必須スキルだったりするのかしら。
そんなことを考えながら、私はカーマに乗ったまま日除けのフードとマントを脱いでみせた。陽光に反射した白いドレスが眩しい。
バリステの陣営からも見慣れた二人の人影が、引っ立てられるように姿を見せた。間違えようもない。
「お父様……、お兄様……」
ギラギラと容赦なく照り付ける太陽の下に立つ二人は、記憶にある姿より幾分か痩せたように見える。数日だけと言っても、捕虜生活はつらかったのだろう。
「そちらの人質を歩かせろ! こちらからも二人を解放する! 万が一、不穏な動きがあった場合は、問答無用で――――こうだ!」
バリステの陣営から、一本の矢が放たれた。それは狙い違わず両陣営の中間地点の地面に突き刺さった。警告というよりは脅迫だ。もちろん、私はこの交換を反故《ほご》にする気なんて全くない。
私はカーマから下りると、再び砂除けのマントと日除けのフードを身につけて歩き出した。心配そうなバルドウィンの声が聞こえた気がしたけれど、あえて無視する。だって、今更、何をどうしろというの。
私が丁度、矢が突き刺さった場所まで来ると、ようやくお父様とお兄様が解放された。二人も焼けた砂の上を歩き、私と同じ場所まで来る。
「お父様! オルガ兄様!」
私は堪らず……という様子を装って二人に抱きついた。いや、もちろん、二人の無事を喜ぶ感情は否定しない。でもね、衆人環視の中なのに、感極まって泣けるほどか弱くはない。私としては、人質交換を承諾したお兄様の魂胆……じゃない、目論見……でもないか、真意、そう、真意を確かめたいんだ。
「お二人とも、痩せたように見えますわ。早くお母様とシストレア義姉様のところへ、帰って差し上げてください」
「ネリス……」
頬を寄せるお父様の伸びたヒゲが、じょりっと痛い。
「ネリス、いいか?」
ほらね。お父様と違ってドライな声はお兄様だ。分かってる。ちゃんと聞くから。
「奴らが望んだのは人質の交換であって、お前とヴァル王子との婚礼ではない。それはしっかりとした文書でここにある」
お兄様は懐から出した1枚の紙をちらりと見せてくる。そう、書面にまでしたためさせたの。本当に人質だったのよね?
「向こうにも面子があるだろうから、一方的に破棄されるようなことにはならないだろう」
「ということは、相手……えぇと、ヴァル王子は、話の通じる人ということ?」
「理性的ではある。だが、お前のことを豊穣の女神の寵愛を受ける者だと信じているようだ。そこが狙い目だ」
私は、お兄様をじっと見つめた。私がそんな風に噂をされているせいで、いらぬ気苦労を負ってしまうお兄様。こんなに腹黒になってしまったのも、たぶん、私のせい。
「ちゃんと戻って来い。お前がいないとカーマが拗ねる。アレはお前の馬だからな」
「つまり、これといった策はないけど、何をしても帰って来い、とそう仰ってます?」
「言わせるな」
お兄様は酷い。でも、私なら何とかできると信頼されている証拠と思えば悪くない。
「最善を尽くします」
「あぁ、頼む。どうも個人的な事情でお前を欲しているようだから、そこを突いて上手くやれ」
「上手く……って無茶振りにもほどがあります」
焦れたバリステ側から急かすような声が聞こえた。またあのダミ声だ。また射かけられてはたまらない、と私は名残惜しくもお父様から身体をそっと離す。
「ネリス」
「大丈夫です、お父様。ですから、まずは二人でちゃんと城にお戻りになることを考えてください」
――――待っている二人のためにも。
私はくるりと背を向けた。それはバルドウィンの率いる自軍にも、自国にすら背を向けるような格好になる。視線の先にあるのは、近年、急速に砂漠化の進むバリステだ。正直、緑と縁の深い私は、そんな場所に行きたいとも思わない。
そもそも、私の能力については噂の域を出ないよう情報規制がされているけれど、国内ではまるで豊穣の象徴のように扱われてしまっている。それが敵国に行ってしまったとあっては、国民の不満をもたらすことは間違いない。お父様やお兄様が私自身を心配していることは疑ってもいないけれど、結局、二人とも公人なのだ。国の舵取りを優先するのは仕方がない。敢えて言うなら、どうしてこの国境戦に二人とも出陣してしまったのか、ということだ。確か、出掛ける前に大臣の一人が向こうの挑発がどうのこうのと言っていたけれど、私が帰ったら、絶対に問い詰めてやろう。そうしよう。
砂を巻き上げた風が吹く中、私は乾いた大地を踏みしめながらまっすぐに進む。結局、肖像画すら見つからなかったヴァル王子の姿を探してみようにも、向こうの陣営に居並ぶ中の、いったいどの人なんだか検討もつかない。
「結局、頼れるのは自分だけ、か」
幼い頃、物語で読んだ勇敢な姫君は、宝石に目が眩んだ父親によって一方的に嫁がされたけれども、その知恵だけで自分の夫となった悪い魔術師を倒して帰還した。
(あの姫君のように、私はできるかしら……?)
お兄様のように策を弄するような頭はない。けれど、それでも何とかしなくては。
「ようこそ、ネリス・イ・リスティア王女」
バリステ陣営に到着すると、先ほどから聞こえていたダミ声の主――濃い髭に顔の半分以上を隠した中年の男が私の手を引いた。
(まさか、この男性が……?)
王子、という言葉の持つイメージを踏みにじられ、心の中で肩をがっくりと落とす。
考えてみれば、父親が王であれば、何歳であっても『王子』という敬称がつくものだ。単純な話、八十歳の王がいれば、その息子が六十歳であっても王子ということ。
あら? でも、バリステの王はそこまでの高齢ではなかったはず――――?
「ジィグ、その手を離せ。それはオレのものだ」
尊大な声が響く。私がそちらへ目を向けると、浅黒い肌の青年が、黒い瞳をぎらつかせてこちらを睨んでいた。頭髪の色はターバンで隠されていて確認はできないけれど、まさか――――
「……ヴァル様」
ずかずかとこちらへ向かってきた青年は、私の目の前で立ち止まると、深くかぶっていたフードを乱暴に剥ぎ取った。突然、目を焼く陽光に晒されたものだから、思わず瞳をぎゅっと瞑ってしまったけれど、なぜか周囲からどよめきが洩れた。
「この顔は確かに肖像画の通りだ」
陽の下に慣れてきた目で、無礼な振る舞いをする男――きっとこれが問題のヴァル王子――を見つめていると、なぜか鼻を鳴らされた。
「ふんっ、目を逸らしもしねぇ。……おい、誰かオレのコビアを引いて来い!」
ヴァル王子の声に、兵士の一人がラクダと馬の合いの子のような動物を連れて来る。確か、砂漠を渡るために品種改良されたものだったはず。一夜漬けの知識はちゃんと頭に残っていた。
「ヴァル様、どうなさるんで?」
「ジィグ、お前はこれからこの軍のかしらだ。城まで連れて戻れ。負傷者に気をつけて、そいつらに速度を合わせろ。多少、日数がかかろうが構わない。食料はリスティア側から十分にもらっているしな」
目が離れたのをいいことに、私は再びフードを被った。正直、真昼の砂漠で、頭をそのまま晒しておけるほど丈夫ではない。
無礼な振る舞いをしてるからと言って、このヴァル王子を軽んじることはできない。どんな手を使ったのかは知らないが、あのお兄様を負かしたのだ。少なくとも用兵については長けているんだろう。さすがに、あのお兄様がわざと負けるとか―――あれ、今、嫌な考えが頭に浮かんだ。
(バリステの急速な砂漠化は、うちの国にも迫る勢いだった。もし、その原因をバリステ側にあると見たお兄様が、私を派遣して解決させようとしていたとしたら?)
いや、さすがにお兄様と言えど、そんな確証もないことにかわいい妹を送り込むような真似はしない……とも言い切れないのが悲しいところだ。
「ヴァル様はどうなされるのですか?」
「オレはこの戦利品を連れて一足先に帰る。――――じゃ、頼んだぞ」
お兄様の思惑について考え込んでいた私は、突然の浮遊感に目を大きく見開いた。軽々と持ち上げられたかと思えば、いつの間にかコビアに座る格好となり、まるで逃げ道を塞ぐように後ろに乗ったヴァル王子の腕に抱え込まれていた。
「飛ばすぞ、気持ち悪くなったら言えよ」
そう告げるなり、私たちの乗るコビアがぐん、と足を速めた。どんどんと兵たちの留まる陣から離れていく。涸れた大地を物ともせずにコビアは進んで行ってしまった。
気持ち悪くなったら、なんてとんでもない。振り落とされないようにするのが精一杯で、かと言って、ヴァル王子にしがみつくなんて真似は絶対にしたくない。
私はひたすらに耐えて、彼の操るコビアが目的地に一刻も早く到着するのを願うことしかできなかった。
私はカーマに乗っているし、フードも目深に被っているからいいけれど、カーマの手綱を握るジョシュアや、最前線に立っているバルドウィンは、もっと暑いでしょうに。
「そこで止まれぇ―――――っ!」
バリステの陣営から、誰かのダミ声が聞こえた。遮蔽物がないとはいえ、どうやってこれほどの大音声を出せるんだろう。
「人質の確認を要請する! ネリス・イ・リスティア王女の姿を見せよ!」
「そちらも、我らが国王陛下および王子殿下の無事を見せていただきたい!」
砂塵の舞う中、両陣営の間に声が交わされる。……普段、城の中にいる時には思いもしなかったことだけれど、兵を率いる人間には、大声を出せることが必須スキルだったりするのかしら。
そんなことを考えながら、私はカーマに乗ったまま日除けのフードとマントを脱いでみせた。陽光に反射した白いドレスが眩しい。
バリステの陣営からも見慣れた二人の人影が、引っ立てられるように姿を見せた。間違えようもない。
「お父様……、お兄様……」
ギラギラと容赦なく照り付ける太陽の下に立つ二人は、記憶にある姿より幾分か痩せたように見える。数日だけと言っても、捕虜生活はつらかったのだろう。
「そちらの人質を歩かせろ! こちらからも二人を解放する! 万が一、不穏な動きがあった場合は、問答無用で――――こうだ!」
バリステの陣営から、一本の矢が放たれた。それは狙い違わず両陣営の中間地点の地面に突き刺さった。警告というよりは脅迫だ。もちろん、私はこの交換を反故《ほご》にする気なんて全くない。
私はカーマから下りると、再び砂除けのマントと日除けのフードを身につけて歩き出した。心配そうなバルドウィンの声が聞こえた気がしたけれど、あえて無視する。だって、今更、何をどうしろというの。
私が丁度、矢が突き刺さった場所まで来ると、ようやくお父様とお兄様が解放された。二人も焼けた砂の上を歩き、私と同じ場所まで来る。
「お父様! オルガ兄様!」
私は堪らず……という様子を装って二人に抱きついた。いや、もちろん、二人の無事を喜ぶ感情は否定しない。でもね、衆人環視の中なのに、感極まって泣けるほどか弱くはない。私としては、人質交換を承諾したお兄様の魂胆……じゃない、目論見……でもないか、真意、そう、真意を確かめたいんだ。
「お二人とも、痩せたように見えますわ。早くお母様とシストレア義姉様のところへ、帰って差し上げてください」
「ネリス……」
頬を寄せるお父様の伸びたヒゲが、じょりっと痛い。
「ネリス、いいか?」
ほらね。お父様と違ってドライな声はお兄様だ。分かってる。ちゃんと聞くから。
「奴らが望んだのは人質の交換であって、お前とヴァル王子との婚礼ではない。それはしっかりとした文書でここにある」
お兄様は懐から出した1枚の紙をちらりと見せてくる。そう、書面にまでしたためさせたの。本当に人質だったのよね?
「向こうにも面子があるだろうから、一方的に破棄されるようなことにはならないだろう」
「ということは、相手……えぇと、ヴァル王子は、話の通じる人ということ?」
「理性的ではある。だが、お前のことを豊穣の女神の寵愛を受ける者だと信じているようだ。そこが狙い目だ」
私は、お兄様をじっと見つめた。私がそんな風に噂をされているせいで、いらぬ気苦労を負ってしまうお兄様。こんなに腹黒になってしまったのも、たぶん、私のせい。
「ちゃんと戻って来い。お前がいないとカーマが拗ねる。アレはお前の馬だからな」
「つまり、これといった策はないけど、何をしても帰って来い、とそう仰ってます?」
「言わせるな」
お兄様は酷い。でも、私なら何とかできると信頼されている証拠と思えば悪くない。
「最善を尽くします」
「あぁ、頼む。どうも個人的な事情でお前を欲しているようだから、そこを突いて上手くやれ」
「上手く……って無茶振りにもほどがあります」
焦れたバリステ側から急かすような声が聞こえた。またあのダミ声だ。また射かけられてはたまらない、と私は名残惜しくもお父様から身体をそっと離す。
「ネリス」
「大丈夫です、お父様。ですから、まずは二人でちゃんと城にお戻りになることを考えてください」
――――待っている二人のためにも。
私はくるりと背を向けた。それはバルドウィンの率いる自軍にも、自国にすら背を向けるような格好になる。視線の先にあるのは、近年、急速に砂漠化の進むバリステだ。正直、緑と縁の深い私は、そんな場所に行きたいとも思わない。
そもそも、私の能力については噂の域を出ないよう情報規制がされているけれど、国内ではまるで豊穣の象徴のように扱われてしまっている。それが敵国に行ってしまったとあっては、国民の不満をもたらすことは間違いない。お父様やお兄様が私自身を心配していることは疑ってもいないけれど、結局、二人とも公人なのだ。国の舵取りを優先するのは仕方がない。敢えて言うなら、どうしてこの国境戦に二人とも出陣してしまったのか、ということだ。確か、出掛ける前に大臣の一人が向こうの挑発がどうのこうのと言っていたけれど、私が帰ったら、絶対に問い詰めてやろう。そうしよう。
砂を巻き上げた風が吹く中、私は乾いた大地を踏みしめながらまっすぐに進む。結局、肖像画すら見つからなかったヴァル王子の姿を探してみようにも、向こうの陣営に居並ぶ中の、いったいどの人なんだか検討もつかない。
「結局、頼れるのは自分だけ、か」
幼い頃、物語で読んだ勇敢な姫君は、宝石に目が眩んだ父親によって一方的に嫁がされたけれども、その知恵だけで自分の夫となった悪い魔術師を倒して帰還した。
(あの姫君のように、私はできるかしら……?)
お兄様のように策を弄するような頭はない。けれど、それでも何とかしなくては。
「ようこそ、ネリス・イ・リスティア王女」
バリステ陣営に到着すると、先ほどから聞こえていたダミ声の主――濃い髭に顔の半分以上を隠した中年の男が私の手を引いた。
(まさか、この男性が……?)
王子、という言葉の持つイメージを踏みにじられ、心の中で肩をがっくりと落とす。
考えてみれば、父親が王であれば、何歳であっても『王子』という敬称がつくものだ。単純な話、八十歳の王がいれば、その息子が六十歳であっても王子ということ。
あら? でも、バリステの王はそこまでの高齢ではなかったはず――――?
「ジィグ、その手を離せ。それはオレのものだ」
尊大な声が響く。私がそちらへ目を向けると、浅黒い肌の青年が、黒い瞳をぎらつかせてこちらを睨んでいた。頭髪の色はターバンで隠されていて確認はできないけれど、まさか――――
「……ヴァル様」
ずかずかとこちらへ向かってきた青年は、私の目の前で立ち止まると、深くかぶっていたフードを乱暴に剥ぎ取った。突然、目を焼く陽光に晒されたものだから、思わず瞳をぎゅっと瞑ってしまったけれど、なぜか周囲からどよめきが洩れた。
「この顔は確かに肖像画の通りだ」
陽の下に慣れてきた目で、無礼な振る舞いをする男――きっとこれが問題のヴァル王子――を見つめていると、なぜか鼻を鳴らされた。
「ふんっ、目を逸らしもしねぇ。……おい、誰かオレのコビアを引いて来い!」
ヴァル王子の声に、兵士の一人がラクダと馬の合いの子のような動物を連れて来る。確か、砂漠を渡るために品種改良されたものだったはず。一夜漬けの知識はちゃんと頭に残っていた。
「ヴァル様、どうなさるんで?」
「ジィグ、お前はこれからこの軍のかしらだ。城まで連れて戻れ。負傷者に気をつけて、そいつらに速度を合わせろ。多少、日数がかかろうが構わない。食料はリスティア側から十分にもらっているしな」
目が離れたのをいいことに、私は再びフードを被った。正直、真昼の砂漠で、頭をそのまま晒しておけるほど丈夫ではない。
無礼な振る舞いをしてるからと言って、このヴァル王子を軽んじることはできない。どんな手を使ったのかは知らないが、あのお兄様を負かしたのだ。少なくとも用兵については長けているんだろう。さすがに、あのお兄様がわざと負けるとか―――あれ、今、嫌な考えが頭に浮かんだ。
(バリステの急速な砂漠化は、うちの国にも迫る勢いだった。もし、その原因をバリステ側にあると見たお兄様が、私を派遣して解決させようとしていたとしたら?)
いや、さすがにお兄様と言えど、そんな確証もないことにかわいい妹を送り込むような真似はしない……とも言い切れないのが悲しいところだ。
「ヴァル様はどうなされるのですか?」
「オレはこの戦利品を連れて一足先に帰る。――――じゃ、頼んだぞ」
お兄様の思惑について考え込んでいた私は、突然の浮遊感に目を大きく見開いた。軽々と持ち上げられたかと思えば、いつの間にかコビアに座る格好となり、まるで逃げ道を塞ぐように後ろに乗ったヴァル王子の腕に抱え込まれていた。
「飛ばすぞ、気持ち悪くなったら言えよ」
そう告げるなり、私たちの乗るコビアがぐん、と足を速めた。どんどんと兵たちの留まる陣から離れていく。涸れた大地を物ともせずにコビアは進んで行ってしまった。
気持ち悪くなったら、なんてとんでもない。振り落とされないようにするのが精一杯で、かと言って、ヴァル王子にしがみつくなんて真似は絶対にしたくない。
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