英雄の番が名乗るまで

長野 雪

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19.英雄の帰還

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「早速で悪いが、これも運んでくれ」

 フィルはミイカの足にベアをくくりつける。そして、空いた手でユーリを抱き上げると、ひょい、とミイカの背に飛び乗った。柔らかい革の鞍の上だったが、慌ててユーリはフィルにしがみつく。

「大丈夫だ。ウィングタイガーと一緒だ。鞍の……そう、そこを掴んでくれ」
「……あの、その前に、予告なく抱き上げるのは、できれば避けていただけますか?」
「すまなかった」

 抱き上げると予告すると、拒絶されそうな気がしたから敢えての無言だったのだが、フィルはそんなこともおくびに出さず、素直に謝罪を口にする。

「さて、今日中に着きたいし、少し飛ばすぞ」
「え」
「大丈夫だ、風の膜を張るから、冷えることもない」
「いえ、そういうわけでは……わっ、わわっ」

 主の意を汲んだミイカが羽ばたき、颯爽と上昇する。あっという間に遠ざかる地上に、ユーリの手が強く鞍のグリップを握りしめた。

「大丈夫か? 絶対に落とすことはないから、もう少し力を抜いた方がいい」
「言われて抜けるなら、抜いてます……っ」

 高さにはどうしても慣れないのか、身体を固くするユーリの肩を軽く叩いても、一向に力の抜ける様子はなかった。

「じゃぁ、こうしよう」

 フィルはユーリの腰を掴むと、それまで横乗りになっていた体勢を、自分と向かい合わせになるように座らせる。グリップから離れた手は、フィルがしっかりと握った。

「空を飛んでいることを忘れるぐらいに、楽しくおしゃべりでも」
「……できたら苦労しませんっ」

 頭から否定され、怒られてしまったフィルだが、これからシドレンの王城に向かうことや、城の中庭を母である王妃が綺麗に整備していること、特産の果実の話を一方的にするうちに、ユーリの身体から少しずつ力を抜くことに成功する。
 一方的にフィルが話すだけでは物足りないだろうから、とユーリ自身の話も聞き出すことができ、フィルとしては大満足の空の旅になった。
 ただし、騎獣としてのグリフォンはとても優秀で、このままいつまでもユーリと密着して(※重要)おしゃべりをしていたいというフィルの願いとは裏腹に、あっという間に王城に到着してしまった。せっかくだからもっと遅く飛ぶように言えば良かった、と彼が考えても後の祭りである。まぁ、ずっと離れ離れだった主人に会えて喜びの絶頂だったミイカが、張り切って飛ぶのを止められたかというと、それもおそらく無理だったのだろうが。


・‥…━━━☆


「フィル殿下! よくぞご無事でお戻りに!」

 城の城壁をあっさり飛び越え、騎獣の発着場とされている一角に到着した一行を見て、兵が喜びの声を上げた。シドレンは竜人の国であり、国民のほとんどが竜人であるのだが、兵とフィルでは体格こそほとんど差異がないものの、顔の輪郭は随分と異なっている。不思議なものだが、竜人としての格が高ければ高いほど、顔は人間に近くなるのだそうだ。フィルは「能力が高ければより人に似せて擬態できる」と説明したが、ユーリとしては、そういうものなのか、と鵜呑みにするしかできない。

「陛下と妃殿下が青の間でお待ちになっています。ミイカが飛んで来たことも伝令が飛んでおりますので、すぐにレータ殿下方も向かわれるかと」
「あー……、うん」
「フィルさん?」

 珍しく歯切れの悪いフィルに、隣のユーリが心配そうな視線を向けた。ずっと自信満々に動いているように見えた彼が、ホームであるはずの城に戻った途端にこうなのだ。ユーリでなくとも、心配になるだろう。

「あぁ、大丈夫。心配ない。うん、心配ない。行こうか」

 かえって心配になる『心配ない』を口にして、フィルはユーリの手を引いて城内へと足を進める。一国の城なんて古跡を観光で訪れるときぐらいしか入ることのない一般市民には敷居が高い。けれど、だからといって今更フィルの手を振り払うこともできず、ユーリはこわごわとフィルについていった。

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