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わたしの運命の歯車が狂い始めてしまった瞬間はいつかと聞かれたら、わたしは間違いなく2週間前のあの夜と断言するだろう。
いつもと変わらない夜のはずだった。
いつも通り起きて、いつも通り仕事場に向かって、いつも通りお昼を食べて、いつも通り宝石を鑑定して、いつも通り夕食を食べた。
その日いつもと違っていた点は何かと言われれば、お夕食の時間になってもお父さまが帰ってこなかったこと。
そして、お父さまが1枚の紙切れを呆然と持って帰ってきたこと。
「すまない」
あの日のお父さまは帰宅1番に『ただいま』じゃなくて、『すまない』と言った。
あまりにも印象的だったから間違いない。
お父さまが持って帰ってきた1枚の紙切れにはには、1兆フラーレンという途方もない金額の借金が綴られていた。
瞬時にこれはどうしようもない出来事であると悟った。
家財を全部売り払ったとしても、領地を返還しても、爵位を返還しても、何をやっても返せないと悟った。
なんの変哲もないアイリーン男爵家。
それどころか、みんな研究者気質で自分の望む研究以外には総じて無関心な一族。
そんな一族にあるのはただの研究結果の資料とその道具だけ。
まともにお金になるものなんてない。
必死になってお金を工面した。
毎日いつもよりも遅い時間まで働いて、店の売り上げに貢献して、多めに給料をもらって、家族一丸となって努力して、けれど、借金には遠く及ばなかった。
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