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2.補佐官

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「厚着しないと風邪引くぞ」
「うん……。暖炉は……」
「もう少し待て。数日したらつけてやる」
「やったぁ!」

 アークの言葉に喜んだメアは、天井に向かって拳を突き出して笑う。それを見てアークも少しだけ口角を上げた。

 まだ雪の降る時期ではない。だがもう少しすると白く美しい雪がこの街を埋め尽くすだろう__。

「補佐官も暖炉と同じくらいだろうな」
「えっ?数日したら来るの!?ほんとに!?」
「実はさっき連絡があった」

 何食わぬ顔でそう告げたアークだったが、メアはそんな連絡などあったかと不思議に思い、自身の携帯をポケットから取り出して通知を確認すると、叫んだ。

「えっ待って私には来てないよ!?!?」
「お前が補佐官と仲良くやれた試しがあったのか……。いくら心理戦が得意でも、人間関係を一から築くのは苦手だろう、お前」
「うっ……」
「そういうのは俺に任せておけ。信頼できる人間だと思ったら心を開けばいい。……また男だそうだ」
「…………」

 男。メアは頭の中でそう呟くと、近くにいたままだったアークの服をひしっ、と掴む。

 男には良い思い出がないのだ。いや勿論アークは別だが、ぱっと見男か女かわからないしいやそういうわけではなく、とにかく!

 ……男は苦手、だ。

「大丈夫だ。補佐官として来るやつは俺達と同じように性格テストを受けているだろう。滅多に性格が歪んだやつはいない。……もっとも俺のように……」

 感情の欠けたやつなら、いるかもしれないが。

 小さい声でそう呟いたアークに、今度はメアが優しい顔で声をかけた。アークのおかげでもう、不安はない。

「大丈夫だよ。人と仲良くなるのはアークの方が断然得意だし、クールなアークはイケメげふんかっこいげふん、素敵だと思うし!!」
「……全部聞こえてるんだが……」

 アークは自分の容姿を褒められるのが恥ずかしいらしく、いつも赤面しては顔を手で隠してしまう。……それがかわいい、なんて。

「これでも昔は親友と一緒にはしゃぎ回ってたんだけどな」
「親友……っていうとその……」
「あぁ、こいつだ」

 アークはズボンのポケットから、仕事に使う鉱石を取り出す。それは紫色と黒色を混ぜたように暗い色で、それでいてとても……綺麗だった。__そう、アークの親友はもう。

 亡くなっているのだ。

「俺にここまで合う鉱石をもった人間はなかなかないだろうな……」
「運命だったかもしれないね」
「……そうだな」

 親友の鉱石を元のようにしまい、アークはメアのふわふわとした髪に手を乗せた。そして少しだけ撫でてから、もう一度コーヒーを淹れにキッチンへと向かった。

「……ッ」

 メアはそれを見送ると、赤くなった頬を隠すようにまた机に突っ伏す。……これだから顔も性格もイケメンな人は!

「ああそうだ」

 キッチンから顔を覗かせたアークは、左目を閉じる代わりにいつも前髪で隠している右目を開いて、メアを見た。

「今日は休みだろう。たまにはこっちの目で外を歩いておきたいんだが、買い物にでも行かないか?」
「ん!いくいく!じゃあ準備して来るね!!」

 あっでも無理はしないでね!と慌ただしく言い残し、メアは自分の部屋のある2階へと上がっていった。__ちなみに国から借り受けているこの家は縦長であり、アークの部屋は3階である。刑特は基本2人1組で活動するため、パートナー同士で共に住む者が多い。

「……ふぅ」

 コーヒーを淹れ、アークはまたほっと一息つく。開いていた右目をまた髪で隠し、いつものように左目を開けた。

 アークは生まれつき、右目の視力が驚くほど高いのだ。それは仕事に大いに役立っているが、日常生活では少し不便な時もある。だからこそ、たまに日常生活で右目を使っておかなければ。

 アークは自分のカップとメアが使ったカップを水に浸けると、自分も準備をするべく階段を上っていった。

~*~
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