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「ローレンスさま、ルーナさま、フレデリックさまが執務室でお呼びです。」
扉がノックされるとその声から執事のアルフィだと分かった。
「すぐに行きます!」
ローレンスは返事をするとルーナと顔を見合わせた。
「なんだろ?」
「この前のオークジェネラルの件かしらね。」
「とりあえず行きますか。」
執務室に入るとフレデリックにギルドマスターのレオ、バイシ国一番の商会を営むクレイ商会のノアが揃っていた。
「皆様ご無沙汰しております。本日はいかがなさいましたか?」
ギルドマスターのレオが答えた。
「まずは先日のオークジェネラルの戦利品の買い取りが完了しましたので、その代金をお持ちしました。正金貨61枚、銀貨8枚となっておりますのでこちらご確認下さい。」
レオは革袋をローレンスに手渡した。
「確かに。ありがとうございます。」
「そして、ここからが本題といいますかお二人にお願いに参ったのでございます。」
レオとノアの話しをまとめると、先日のオークジェネラル同様に他国へと通じる街道に魔物が出現する頻度が増え、行商人や交易品を運ぶ馬車の通行に支障が出始めているから2人に討伐をお願い出来ないかという事だった。
レオいわく、このあたりは比較的安全で魔物が出ても低級のものばかりで冒険者にとっては初心者しか集まらない場所であるから強力な魔物を討伐する冒険者を集めるのも難しいといった事情もあるらしい。
「交易の停滞はこの国の商業だけでなく、民の暮らしにも直結するものである。この事態は早急に解決しなくてはならない案件だということは君たちも分かるな?」
「はい!ぜひお受けいたします。私がお役に立てるのでしたらこの上ない喜びですわ。」
予想外にルーナが即答すると国外でも冒険者として活動出来るようにレオから冒険者証が手渡され2人は部屋を出た。
「ルーナさん?絶対嫌がると思ったのに即答でしたね。しかもレオさんは冒険者証まで用意しているし、最初から決定事項ではあったのでしょうが…」
「そりゃもう。オークジェネラルで正金貨61枚よ?死体処理が嫌で避けていたけれど、こんなにも良い稼ぎになるのならやらない理由はないでしょう?」
(金か!この世界でも女はやっぱり金なのか!?)
「ねー…ローレンスくん?あなたの顔に『金か?』って書いてあるのだけど、ケンカを売っているのかしら」
「ふぁっ!?滅相もございません。そんなことは全く…」
「まぁねぇ。お金なんてあまり興味はないのだけど、神級魔法使いを目指すには色々とお金が掛かるものなのよ。」
「そういう苦労もあるとは知りませんでした。僕としてはこの前のルーナさんの姿をみてますます特級魔法使いとしての力を得たいという思いが強くなったんです。」
「特級ならまあお父さまに頼めば臨時試験をして下さるでしょうし、あなたなら私が鍛えたのだから簡単にパス出来るレベルだと思うわよ」
「ほんとですか?ではまずは試験を受けてからという事でも良いでしょうか」
「うん。私は構わないわ。ただ…魔法研究にはお金がかかるという建前の元、受験費用が確か金貨50枚ほどかかるのよね。」
「世知辛い世の中ですね。」
「ま、おーじさまは免除にでもなるんじゃなくて?」
(やっぱりこの人お金にシビアだよ完全に。。。)
「いやいや、そんな産まれながらの身分で差を付けるのは良くないですからね、ちゃんとお支払いして魔法研究に役立てて頂いたほうが良いです」
「いい心掛けね。魔法協会の支出は完全にブラックボックスだから、神級魔法使いになる私に投資なさいよ。ね?」
「あー………それは…名案かも…しれません……ね。我が国最高の魔法使い様ですから……」
キラキラとした笑みを浮かべるルーナに見つめられてしまえば断れるはずもなく…ローレンスは内ポケットから革袋を出すと大金貨5枚を手渡した。
「ローレンスくんって物わかりが良いから大好きよ。ほら、おいで?」
ルーナはローレンスを抱き寄せるとローレンスは胸の谷間に顔を埋め、至高の時間を堪能した。
(なんだかルーナさんの谷間をお金で買ったみたいじゃねーか!これはなんかちがーーーう!!)
「はい、お時間でーす。」
「ルーナさん?なにか夜のバイトみたいのしてました…?」
「えっ?何の話し??」
「いや…なんでもありません。すみません、すみません…」
「じゃあ試験の予習しておこっか。」
ルーナは試験の流れを教えてくれた。
①特殊な水晶でその人のステータス値を計測して基準を満たしているか身体検査
②魔法に関する知識が充分か見定める魔法学の筆記試験
③ケルベロス3体を同時に相手をして完全に倒す実技試験
④試験官による面接試験
この4種類をパスすることで特級魔法使いとして認められ、以後特級魔法の詠唱を許されることとなる。
「魔法学は大丈夫だと思うけど念の為にこれをやっておいてね。」
ルーナがまとめた試験対策用の問題集だった。
「ちょっとお買い物に行ってくるから戻るまでに終わらせておいてね。」
そう言うとルーナは出かけていったのでローレンスも早速問題集を開いた。
「…なんだコレ。」
ルーナは感覚で魔法を操るタイプの魔法使いではあったが、『キモい顔の黒い犬』や、『ドーンと撃つ』など個性的が過ぎる表現が散見されていて問題集というか、問題文を理解出来るだけの知識があれば当然合格できるであろうといった代物だ。
もしルーナさんがこれを販売すると言い出したら全力で止めよう。ローレンスはそっと誓った。
とはいえポイントはしっかりと押さえられていて、問題文さえ理解出来ればかなり良い問題集ではあった。
「ただいまー!終わったかな??」
「はい、なんとか。」
「この問題集かなり使えるのに何故かみんなの評判がイマイチなのよねぇ。ローレンスはどう思う?」
「えっと…しっかりと大切なポイントが網羅されていて良い問題集だと思いますよ」
言えなかった。ルーナの機嫌を損なうような事を口にする勇気はローレンスにはなかった。
「それにしてもローレンス大丈夫?簡単に採点してるけど間違えばっかりじゃない。これじゃ特級魔法使いは到底無理ね。というかローレンスって案外バカなのね」
さらっとヒドいことを言う。
「違いますよ、バーンだのドーンだの問題文に擬音が出てくる時点で致命的な欠陥を抱えているんですよ。」
咄嗟に言い返してしまった……。
(ヤバい…。)
本能的にローレンスは瞬時にカウンターバリアを全身に展開した。
ローレンスの本能が感じ取った通りルーナの後ろにはおびただしい数のアイスランスが展開されている。
衝撃に備えてローレンスは固く目をつむったが、いつまで経っても来るはずの衝撃が来ない。
用心しながらそっと目を開くと、アイスランスは消え去りルーナは肩を震わせて泣いていた。
「すみません、言い過ぎました。」
「違うの。これまで誰に見せても褒めるだけで何も言ってくれなかった。しっかりと向き合って言いにくいことをハッキリと言ってくれる人など誰ひとり…いなかった」
「それはきっとルーナさんの機嫌を損ないたくなかったからですよ。」
「いくら機嫌を取ったところで私は私の間違いに気付けないまま恥を晒し続ける事になるのに、そんなのあんまりじゃない。」
ルーナさんの言うこともよく分かる。
自分に取り入ろうとする人間は体のいいことを言うばかりで本質的に互いの利益になるような関係を結ぶことは難しい。
特にルーナさんはその美しさで人を寄せてしまうからなおさらだったのだろう。
「大丈夫ですよ。いまは僕がちゃんとルーナさんを見ていますから。」
「なんかムカつくわね。ローレンスのクセにって感じで。でも…ずっと心にあったモヤモヤが晴れた気がするわ」
ローレンスはルーナにハンカチを渡すとルーナは涙を拭った。
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