異世界国家の建て直し!

らしん

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「おはようございます。ルーナさん」
「おはよう。準備は出来てる?」
「えぇ…まぁ」

ローレンスはやたら眠そうだった。
それもルーナに言われて『一夜漬け』の名目で教本と問題集の改訂を一晩で終わらせるよう命じられたのだ。

一方でルーナは早々に休み、涙を流していたのが嘘だと思えるほどに元気そうな様子だ。

「あ、そうだ。ちょっと待っててね」

ルーナはカバンをごそごそとあさって包みを2つ抱えてきた。

「開けてごらんなさい」

言われるがままに包みを開くと1つ目の包みからはルーナと同じ純白のローブが出てきた。
「これは、、、僕にってことで良いんですか?!」
「それ以外になにがある?」
「ありがとうございます!」
そのローブはルーナの家であるロペス家が代々着用してきたデザインで、純白の色は力を持つものが黒く染まらぬように。そして純白のように気高くあれという意味が込められていた。

もう一つの包みを開けると中にはいかにも高級感のある彫刻の入った細長い小箱が入っていた。
その小箱の中にはタクト型の魔法の杖が収められていた。

「これは…!!ルーナさん!これは………!」
「なによローレンス。寝不足で頭でもおかしくなった?」
「いえ、正気ですよ。でもこれは最高級品じゃないですか!僕でも知っていますし魔法使いの憧れでもあるドマールの杖…ルーナさん、ここで告白して下さい。」
「はぁ?告白!?」
「あ、いえ。告白というのは罪の告白って意味です。全力で罪を軽く出来るよう僕が手を回しますから。」
「アンタねぇ…。私が盗んできたとでも思っているの?」
「それ以外にこの杖を手に出来る方法がありませんよね!?」
「はぁ。あなたも回しの端くれなら師匠が弟子に杖を贈る伝統は知っているわね?」
「ええ、まぁ」
「その杖はお父さまがあなたの為に何年も前からドマールに頼んでいたものよ。」
「フェルナンド先生が?」
「そう。この日の為にね。」

ローレンスは自分の為にルーナが悪いことに手を染めてしまったのではないかと真剣に心配したものだから一気に気が抜けてその場にへたり込むと、その顔はニヤニヤが止まらなくなっていた。
一国の王子でさえもこんな反応をするレベルにドマールの杖というものは高級品という枠を飛び抜けて幻の銘品なのだ。

「いい加減気持ち悪いからそのニヤニヤやめてくれる?」
「僕はフツーですよ??」
全くフツーではなく顔の筋肉が消滅したかのようにローレンスの表情はゆるみまくっていて、どうにかこうにかルーナは仕度をさせると送り出した。


「来たね、ローレンスくん。」
大学内にある魔法試験場でフェルナンドはローレンスを待っていた。

「フェルナンド先生、こんなに素晴らしい贈り物を頂戴しまして心よりお礼を申し上げます。」

「気に入ってくれたかな?ローブも似合っているよ。」

「本当ですか?もう、本当にこの杖は手に馴染んでずっと前から使っているかのようでまるで自分の一部の様な感覚なんですよぉ、おまけに憧れだった先生と同じ純白のローブで…」
ローレンスがまたもデレデレしながら話しが止まらなくなっていた。

「ま、まぁ魔獣たちの討伐を任されたようだからね。君ももう一人前だよ。今日はその力を証明して欲しい。」
さすがのフェルナンドもローレンスの気の抜けた姿に引き気味だった。


最初の身体検査は問題なくパスして筆記試験を受けると実技試験に進んだ。

「3匹のケルベロスを制限時間内に討伐して下さい。油断すると命の危険がありますので、充分注意をして下さい。万一、命を落とすようなことがあっても協会は一切の責任を負いませんので。では召喚します。」

試験担当官が説明をするとケルベロスが召喚された。

3匹はまずは様子を伺うようにローレンスの周りをゆっくりと回っている。

一方、ローレンスはタクトを動かすと続けざまに3発のファイアーアローを撃ったがまるでケルベロスとは違うあさっての方向に飛んでいった。

その外れた攻撃が合図のようにケルベロスは3方から一気に飛び掛かり、ローレンスの首を狙って大きく鋭い牙を見せつけながら噛みつこうと大きく口を開く。

寸前のところでローレンスはなんとかカウンターバリアを展開して身を守りつつ回避するとまた睨み合いになった。

ローレンスは何度かファイアーアローを撃つもののやはりあさっての方向に飛んでいくばかりで当たりそうもない。

残り時間も怪しくなってくるとケルベロスは波状攻撃で絶え間なく3匹がローレンスに向かってはカウンターバリアで弾き返すという持久戦の様相を呈した。


「よし、このくらいかな。」
ローレンスはコキッと首を鳴らすとそっと目を閉じ小さく口ずさんだ。

その瞬間、青白い激しい炎となったファイアーアローが3本同時に発現してケルベロスを貫いた。

「な、なんということだ」
試験担当官は思わず声を漏らした。

なんとか平静を装いケルベロスの討伐を確認するとの事務的に言った。
「実技試験は以上です。面接室にご移動下さい。」


ローレンスが実技試験場を出て面接室に行くとフェルナンドが待っていた。
フェルナンドはあたりを注意深く見回してローレンスを部屋に押し込むと鍵をかけた。

「ローレンスくん。どういうことだね。」
「なにがですか??」
ローレンスはフェルナンドの問いの意味が分からなかった。

「だから、君の実技試験の事だよ。」
「え、もしかして時間切れでしたか…?」
「いや、そうじゃない。時間は大丈夫だ。そんな事ではなく私も見ていたが、君は3重詠唱を使ったね?」
「あ、先生分かりましたか?この杖の能力が本当に高くてレスポンスも最高なので、これまでずっと構想はあったのですが能力不足もあって理論的には可能という状態だったんですけど、この杖のおかげで現実可能だと証明が出来ました!」

「ということは…あれかね。君はこの試験中に3重詠唱を完成させたと?」
「完成というか理論を実行したというか…」
「なんということだ…。しかも一般3級魔法のファイアーアローを選択した理由はあるのかね?」
「そうなんですよ!火というものは空気が多ければより強い炎となりますよね?その応用で火属性の魔法に大気の魔力を少々込めて撃つとその魔力による炎もより強力になるのではないかという仮説を試してみたんです。それもこれも細かな調整がしやすいこの杖のおかげなんです」
再びローレンスはデレデレになり杖をひたすら愛でている。

「分かった。分かったよローレンスくん。結果は手紙で届けさせるから今日は帰ってもらって構わない。」

フェルナンドはこんなにも成長したローレンスの姿が見られたことが嬉しい反面、力を持つものが道を誤らぬかと純白のローブをまとったローレンスの後ろ姿を眺めつつ平和な時が続くことを祈った。
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