異世界国家の建て直し!

らしん

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「ローレンス、お前にとって初めての討伐の旅となる。くれぐれも同行して下さるルーナさんにご迷惑とならぬようにな。そして、今回は国として公式な活動ではなくあくまでもギルドからの依頼ということになっているからお前も1人の冒険者として弁えるように。自身の研鑽とこの国の民の平和と安全の為に全力であたるのだぞ。」

「はい、承知しました国王陛下」
ローレンスは一般人の儀礼に習いひざまずき答えた。


「さて、出発よ!」
西側の城門を出るとルーナは馬の手綱を引いて走り出した。

シアルまでの道のりは馬でも1週間ほどだ。
王都周辺に広がる穀倉地帯を抜けると農民たちの村々が点在するエリアがあり、どの村もバイシ国の主要生産品である穀物が豊かに実り賑わっていた。

「畑がとってもキレイね」
ルーナさんが言うとおり、大きく実った麦は頭を垂れて太陽の光をたくさん受けると金色に光っていた。
その光景が地平線まで延々と広がっているのだ。

さらに進むと徐々に森が深くなり、低級の魔獣がちらほら姿を見せるようになってきた。
「ほら、ローレンス!倒した魔獣をさっさと回収して」

ルーナさんは馬の上から気だるそうにウィンドアローを乱射しているだけである。
「ルーナさん…人使いが荒いですってば!」
「あなたのお父さまが言っていたでしょ?民の平和と安全の為なのですから」
「ぐぬぬ…」
それを言われてしまうとローレンスは返す言葉もない。

そのまま街道を進むと目の前が開けて大きな湖が目に飛び込んできた。
「うわぁー!とってもステキな景色ね。」
湖面にいつしか落ちてきた夕日がキラキラと光っている。

通りがかった展望台からルーナさんは光り輝く湖を見つめた。
(美しい…)

ローレンスはそっとルーナの後方に寄ると、しっかりと目に焼き付けた。




「もう日も暮れるし今日はここで休みましょうか」
「そうですね。宿屋に向かいましょう」

「いらっしゃい。2人かい?」
「はい、空いてますか?」
「一室でいいわよね。今日はこれで満室よ」

そーっとルーナの方を振り返るとあからさまに目が座っていた。
「えっと…他に宿屋ってありましたっけ?」
「いーや、この村にはウチ1軒だよ。なんだい、気に入らないっていうのかい?」
「いやいやいや、滅相もございません。」
「2人で銀貨6枚ね。部屋は2階に上がって左の1番奥よ。」
「ありがとうございます。」
ローレンスは支払いをすると部屋に入った。

するとルーナさんがベッドに一目散に走り出すとダイブした。
「ベッドとったー!」
2人といいつつ、ツインではなく部屋にはダブルベッドが1台のみだった。

まぁローレンスは想定内といった感じで冒険者バッグから毛布を取り出すと床に敷いた。

「ルーナさんもお腹減ってますよね?ちょっと酒場で何か食べ物を調達してきますので待ってて下さい」


宿屋の隣にある酒場には多くのカップルが集っていた。
この村は王都からも近く、景勝地として人気があるのだ。
「いらっしゃい。まずは麦酒でいいかい?特産の麦を使っているから格別だよ。」
「いえ、持ち帰りで何か食べ物を頂けるでしょうか。2人分を」
「じゃあパンとシチューを用意するわね。ちょっと待ってなさいな」

「ルーナさんお待たせしました!」

ローレンスは部屋に戻ると、どうしてこういう星のもとに産まれてしまったのだろう…ルーナが着替えをしていた。

「ちょ…っと!!あんたなんてタイミングで入って来るのよ!」
「すみませんすみませんすみません、これ置いておきます」
ローレンスは攻撃を食らう前に食事を置いて一目散に逃げ出した。

「どうしていつもこうなんだよ…」
初冒険をエンジョイするつもりが出鼻からこれじゃ先が思いやられる。
馬小屋でしょんぼりしながら1人食事を摂るとそのまま毛布に包まって眠りに就いた。


キェーキェーという奇妙な鳴き声が静まり返った夜空に響いた。
「なんだ…?この声は。」
ローレンスは飛び起きると馬小屋を飛び出して空を見上げた。

すると月明かりに照らされて巨大な鳥が数匹夜空を旋回しているのを捉えた。
あれは魔獣図鑑でしか見たことがなかったがどう見てもグリフォンだ。中級の魔獣で強力なくちばしと爪、そして飛行能力がなにより厄介だった。

それにしてもグリフォンが何匹もこの地域に出現するなど異常事態に間違いない。

そうこうしているうちにグリフォンは馬を餌に狙ったのか馬小屋に続けて急降下してきた。

それを好機と捉えたローレンスは続けざまにアイスランスを撃ち込み3羽を撃ち落とすと、かろうじて回避した2匹は急反転して空へ飛び立とうと羽を大きく羽ばたかせた。

「逃がすか!」
ローレンスは風魔法のウインドを高出力で地面に向けて放つとその身体をグリフォンを上回るスピードで急上昇させて追いつくとアイスランスで2匹を貫いた。


「やったぞ!」と思う間もなく倒したグリフォンと共にローレンスは真っ逆さまに地面へと墜落して後先を考えていなかった事を後悔するも既に地面は間近に迫り、詠唱する時間もない。
「運よく生きてればきっとルーナさんが治してくれるかな」と諦めの境地に達した瞬間、身体が優しい風に包まれてそっと地面に降ろされた。
しかし、グリフォンはそのまま墜落して1羽は馬小屋に衝突し、馬小屋は大破してもう1羽は地面にそのまま落ちた。

その衝撃音で人々が一気に集まってくると、宿屋のおばちゃんも出てきて何やら叫んでいる。
「あんたかい!うちの馬小屋を壊してなんてことをしてくれたんだい!」
「い、いえ…僕はグリフォンが馬小屋を狙って来たので止めようと…」
「なんだって!?グリフォンなんて名前しか聞いたことない魔物のせいにするなんてあんたはなんて奴なのかね。しっかり修理代は請求させてもらうから!」と怒り心頭だ。
「すみません、彼の話しは本当ですよ。ほら、あちらに5羽もグリフォンが倒れているじゃないですか。」
ルーナさんだった。
「なんだいあのデカい鳥は!!あれがグリフォンだっていうのかい?」
「その通りです。危険な魔獣ですから被害がこの程度で済んだのは不幸中の幸いですよ。」
「そうなのかい…」
ルーナの話しで頭に血が登ったおばちゃんも納得したようだった。

グリフォンを回収して馬小屋を片付けると宿屋のおばちゃんが酒場に来るようにローレンスとルーナを促した。

「さっきは失礼したね。あたしゃ宿屋の主人兼この村の村長のベルサよ。元冒険者の妹に聞いたけれどありゃグリフォンで間違いないとさ。しかも1羽を1人で相手するのも無謀だというのに5羽を倒すなど相当な手練だと言うじゃないかい。あんたらは何者だい?」
ルーナとローレンスは自己紹介をするとギルドの依頼でシアルへ向かう途中だと伝えた。
すると居酒屋の店主がやってきた。
「姉が失礼したね。私がこの人の妹のベルナよ。お詫びと言ったらなんだけど今夜は好きに飲み食いしてってね。村の危機を救ってくれてありがとう。」
そう言うと2人は去っていき、ルーナはここぞとばかりにメニューの半分ほどを1人で平らげた。


「あーお腹いっぱい!食べられるって幸せね。明日に備えて早く寝ましょ」
「えっと…ありがとうございました。助けてくれて」
「細かいことは良いの。ほら、ベッド1つしかないんだから早く来なさい」
ルーナの隣でローレンスは眠りに就いた。
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