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42,迫害
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2時間地下鉄に、1時間バスに揺られ、ようやく話題の温泉宿にふたりは到着した。そこは蓮の思う温泉宿と異なり、日本で言う三ツ星がつくような大きく華やかなホテルだった。通された部屋も広くて綺麗な造りで、窓からは海が一望出来る。
「はぁ~っ!やっと着いた!」
クラウドは荷物を床に投げるとふかふかしたベッドに身を沈め、大きく息を吐く。
「…」
ツインじゃなくてダブルかよと、蓮はベッドを見てクラウドの見え見えの魂胆に引く。
「ほら、お前も休めよ」
「断る。風呂」
にこにこと手を伸ばすクラウドをスルーし、荷物を置くとクローゼットを開ける。
「えぇ?!もう入るのかよ?!」
「何しに来たんだよ」
起き上がって文句を言われ、呆れる。
「レン」
クラウドは蓮の背後から覆いかぶさり、ぎゅっと抱きしめる。
「俺はお前とこうして、ふた…っふぐ?!」
蓮はクローゼットから出したバスタオルをクラウドの顔に押しつける。
「お前の」
「…ありがとう」
そのバスタオルを手に取り、クラウドは反射的に礼を言う。
「先、行くぞ」
「えっ?!ちょ、ちょっと待てよ!!」
部屋を出る蓮を慌てて追いかけた。
焦ることないかと、クラウドは蓮の背を追いながらふっと笑む。旅行前にシオンを黙らせることが出来たし、ヒナタにはぐずられたが土産を買ってくるからとなんとかなだめた。アラシは『私は世話役ですから』とか言ってついてきそうだったので殴っておいた(理不尽)。王の呼び出しには正直肝が冷えたが、最終的に『レンをよろしくね』と笑顔で送り出してくれた。
これから明日まで、誰にも邪魔されることなく蓮とふたりきりで過ごせるのだ。
「ゆっくりしようぜ、レン~」
「ウゼー」
蓮に追いつくと、肩をぎゅっと抱き寄せた。
「もう出ようぜ、レン~…」
岩風呂のふちに腰かけ、クラウドは湯に浸かる蓮に訴える。
「ゆっくりしようって言ってなかったか」
「言ったけどよ~…」
岩で囲まれた露天風呂はプールかと思うほど広く、目の前には海が広がり、蓮にとってはいつまででも入っていられるくらい心地よい温かさ。クラウドは早々にのぼせてしまい、ぐったりだった。
「先、出ろよ」
「お前を置いていけるか!」
「マジウゼぇ」
蓮はため息をつく。
「頼むから一度出ようぜ~?飲み物おごってやるから~」
クラウドに懇願され、また入りに来ればいいかと仕方なく立ち上がる。
「コーヒー牛乳な」
「何だそれ?」
蓮のリクエストにクラウドは首をかしげた。
「ふぅ」
脱衣場のベンチに座り、蓮はクラウドに買ってもらったスポーツドリンクを飲んでひと息つく。この世界に銭湯定番のコーヒー牛乳は存在しないらしい。
半ば強引に連れて来られた旅行だが、温泉は想像以上に気持ち良く、予約をとってくれたクラウドに感謝してやるかと思う。ただ、ここなら風呂が苦手な王も喜んだかもしれないし、やっぱり王と来たかったとも思った。
「あの」
「あ?」
「隣、座っていいですか?」
同じ宿の客であろう青年に声をかけられ、蓮は彼を見上げる。
「!」
「?」
驚いた表情をする蓮に、どうしたのかと彼は首をかしげる。蓮より少し年上だろうか。薄茶色の髪色で緑色の目はくりっとしていて、かわいらしい印象の青年。考えていた王と雰囲気が似ており、驚いたのだ。
「ありがとうございます」
蓮が少しずれてベンチの場所を空けると、彼はにっこりと笑ってそこに座った。
「お前は…左目か」
「えっ?」
ボソッと蓮がつぶやき、今度は彼が驚く。
「だろ?温泉でもコンタクト外せねーのか」
と、蓮は自分の左目を指す。
「…びっくり!何でわかったんですか?」
「なんとなく」
コンタクトレンズで隠していても、彼ら特有の雰囲気でわかる。彼は金眼保有者だ。
「あ、ひょっとして血縁者ですか?」
「いや。知り合いに保有者が何人かいる」
「えぇー!僕は出会ったこともないですよ!」
彼はさらに驚く。希少な保有者同士が出会うことはまれなのだ。
「おい、レン!いつまでも裸でいる、な…っ?」
そこへ、なかなかロッカーに戻って来ない蓮を呼びにクラウドがやってくる。蓮の隣にいるかわいらしい青年が目に入り、動きが止まる。
「血縁者なら、コイツがそうだ」
「んっ?!あ、あんた、まさか…?」
蓮に指さされ、クラウドは彼の素性に気づく。
「はい、左目です」
彼はにっこりとうなずく。
「こんなところで、家族以外の人と眼の話が出来るなんて本当にびっくりです!」
「ふーん」
「…」
嬉しそうに話す彼と蓮をクラウドは複雑な感情で見ていた。
「あ!また会いましたね!」
夕食をとるため宿内のレストランに向かう途中、蓮に気づいた金眼の彼が走り寄ってくる。家族であろう女性ふたりとレストランから出てきたところのようだ。
「あの、お食事が終わったら、一緒に温泉入りませんか?」
「ああ」
誘いに蓮はためらいなくうなずく。
「んな…っ?!」
クラウドはそれにぎょっとして思わず声が出てしまう。
「?」
「なんだ?」
彼も蓮も何事かとクラウドを見つめる。
「あ…何でも、ない…」
クラウドは顔を赤くし、手で口を覆う。
「じゃあ、また後で!」
彼は手を振りながら、家族の元へ戻っていった。
夜間、海は見えなくなるが温泉はライトアップされ、昼間の開放感と異なる幻想的な雰囲気になっていた。
「レンくん、18歳なんだ!もう少し下かと思った」
金眼の青年…アキは蓮のすぐわきで湯に浸かり、話をしていた。彼は20歳で宿近くの街に住んでおり、母親と妹と共に宿泊しに来たとのこと。敬語を止め、コンタクトレンズも外して左目は美しい金色。蓮に対してずいぶん気を許しているようだった。
「クラウドさんはおいくつですか?」
少し離れて湯に浸かるクラウドには敬語で質問する。
「…30」
「え?けっこう離れてるね。お友達だよね?」
「いや、下僕」
「ぶっ?!」
蓮の否定にクラウドはショックで吹き出す。
「あはは!何それ?レンくん面白いね!」
アキは冗談だと思い、愉快そうに笑う。
「それにしても、カッコいい筋肉だね。鍛えているの?」
と、蓮の引き締まった胸や腕をまじまじと見つめる。
「僕はこんなだから、うらやましい」
細い腕を湯から出し、蓮の上腕をするりとなでる。
「…っ!!」
「?」
思わず勢いよく立ち上がったクラウドに、ふたりは首をかしげた。
「お前、ヘーキだったのか」
「え?」
何のことかと、アキは蓮を見る。
「先々月の、異変」
「異変…あ…うん。僕は何もなかったよ」
金眼保有者の突然の暴走のことだとわかり、遠慮がちに笑む。彼は保有者であることを国に報告しており、異変が起こる可能性があると連絡を受けていた。
「あ、そ」
「隣街で騒ぎがあったとは聞いたけど…」
国に混乱を招いた異変だが、影響のあった保有者は数百人で、何も起こらなかった者の方が多い。アキもそんな大多数の方の保有者だった。
「おい、お前金眼じゃないか?」
「!」
そこへ、見知らぬ中年の男がざぶざぶと近づいてきてアキを指し、びくっと身体を強ばらす。
「やっぱりだ。何でお前みたいな危険物が出歩いているんだ?」
男は彼の金色の左目を見て、顔をしかめる。
「…っ」
アキは青ざめ、蓮の腕にすがる手は震えていた。
「いきなり狂暴化して人襲うんだろう?化け物か?おとなしくうちにこもっていろよ、人殺し…いっ?!」
まくしたてる男の腕を、蓮は無言でグッとつかんだ。
「うぎゃ…っ?!い、イデデでっ!!」
折ろうかという力で握り、男はたまらずうめく。
「何サマだテメー?何も知らねーくせに、何も悪くねーコイツに文句垂れるんじゃねーよ。怖ぇなら、テメーがこもってろクソが」
蓮の殺気だつ黒い目ににらまれ、恐怖で血の気がひく。
「ひ、ひぃいい!!」
男は痛む腕を押さえ、悲鳴をあげながら岩風呂を出て行った。
保有者の異変は迫害を防ぐため、保有者周辺の必要最小限にしか知らせなかった。しかし、たまたま暴走を目の当たりにしたり、噂を聞いたりして保有者に対して嫌悪や恐怖を抱いた無関係な者もいる。この男のように、あからさまな嫌悪をぶつける者も少なからずいるのだろう。
「あ…ありがとう、レンくん…!」
「ん、気にすんな」
アキは安堵して蓮の胸元に顔を寄せ、蓮は軽く背を叩いてやる。
本来なら金眼保有者は皆に愛され、平穏をもたらす存在であるべきだ。まだ異変は終わっていないのかと、蓮は涙を浮かべているアキを見て思った。
「はぁ~っ!やっと着いた!」
クラウドは荷物を床に投げるとふかふかしたベッドに身を沈め、大きく息を吐く。
「…」
ツインじゃなくてダブルかよと、蓮はベッドを見てクラウドの見え見えの魂胆に引く。
「ほら、お前も休めよ」
「断る。風呂」
にこにこと手を伸ばすクラウドをスルーし、荷物を置くとクローゼットを開ける。
「えぇ?!もう入るのかよ?!」
「何しに来たんだよ」
起き上がって文句を言われ、呆れる。
「レン」
クラウドは蓮の背後から覆いかぶさり、ぎゅっと抱きしめる。
「俺はお前とこうして、ふた…っふぐ?!」
蓮はクローゼットから出したバスタオルをクラウドの顔に押しつける。
「お前の」
「…ありがとう」
そのバスタオルを手に取り、クラウドは反射的に礼を言う。
「先、行くぞ」
「えっ?!ちょ、ちょっと待てよ!!」
部屋を出る蓮を慌てて追いかけた。
焦ることないかと、クラウドは蓮の背を追いながらふっと笑む。旅行前にシオンを黙らせることが出来たし、ヒナタにはぐずられたが土産を買ってくるからとなんとかなだめた。アラシは『私は世話役ですから』とか言ってついてきそうだったので殴っておいた(理不尽)。王の呼び出しには正直肝が冷えたが、最終的に『レンをよろしくね』と笑顔で送り出してくれた。
これから明日まで、誰にも邪魔されることなく蓮とふたりきりで過ごせるのだ。
「ゆっくりしようぜ、レン~」
「ウゼー」
蓮に追いつくと、肩をぎゅっと抱き寄せた。
「もう出ようぜ、レン~…」
岩風呂のふちに腰かけ、クラウドは湯に浸かる蓮に訴える。
「ゆっくりしようって言ってなかったか」
「言ったけどよ~…」
岩で囲まれた露天風呂はプールかと思うほど広く、目の前には海が広がり、蓮にとってはいつまででも入っていられるくらい心地よい温かさ。クラウドは早々にのぼせてしまい、ぐったりだった。
「先、出ろよ」
「お前を置いていけるか!」
「マジウゼぇ」
蓮はため息をつく。
「頼むから一度出ようぜ~?飲み物おごってやるから~」
クラウドに懇願され、また入りに来ればいいかと仕方なく立ち上がる。
「コーヒー牛乳な」
「何だそれ?」
蓮のリクエストにクラウドは首をかしげた。
「ふぅ」
脱衣場のベンチに座り、蓮はクラウドに買ってもらったスポーツドリンクを飲んでひと息つく。この世界に銭湯定番のコーヒー牛乳は存在しないらしい。
半ば強引に連れて来られた旅行だが、温泉は想像以上に気持ち良く、予約をとってくれたクラウドに感謝してやるかと思う。ただ、ここなら風呂が苦手な王も喜んだかもしれないし、やっぱり王と来たかったとも思った。
「あの」
「あ?」
「隣、座っていいですか?」
同じ宿の客であろう青年に声をかけられ、蓮は彼を見上げる。
「!」
「?」
驚いた表情をする蓮に、どうしたのかと彼は首をかしげる。蓮より少し年上だろうか。薄茶色の髪色で緑色の目はくりっとしていて、かわいらしい印象の青年。考えていた王と雰囲気が似ており、驚いたのだ。
「ありがとうございます」
蓮が少しずれてベンチの場所を空けると、彼はにっこりと笑ってそこに座った。
「お前は…左目か」
「えっ?」
ボソッと蓮がつぶやき、今度は彼が驚く。
「だろ?温泉でもコンタクト外せねーのか」
と、蓮は自分の左目を指す。
「…びっくり!何でわかったんですか?」
「なんとなく」
コンタクトレンズで隠していても、彼ら特有の雰囲気でわかる。彼は金眼保有者だ。
「あ、ひょっとして血縁者ですか?」
「いや。知り合いに保有者が何人かいる」
「えぇー!僕は出会ったこともないですよ!」
彼はさらに驚く。希少な保有者同士が出会うことはまれなのだ。
「おい、レン!いつまでも裸でいる、な…っ?」
そこへ、なかなかロッカーに戻って来ない蓮を呼びにクラウドがやってくる。蓮の隣にいるかわいらしい青年が目に入り、動きが止まる。
「血縁者なら、コイツがそうだ」
「んっ?!あ、あんた、まさか…?」
蓮に指さされ、クラウドは彼の素性に気づく。
「はい、左目です」
彼はにっこりとうなずく。
「こんなところで、家族以外の人と眼の話が出来るなんて本当にびっくりです!」
「ふーん」
「…」
嬉しそうに話す彼と蓮をクラウドは複雑な感情で見ていた。
「あ!また会いましたね!」
夕食をとるため宿内のレストランに向かう途中、蓮に気づいた金眼の彼が走り寄ってくる。家族であろう女性ふたりとレストランから出てきたところのようだ。
「あの、お食事が終わったら、一緒に温泉入りませんか?」
「ああ」
誘いに蓮はためらいなくうなずく。
「んな…っ?!」
クラウドはそれにぎょっとして思わず声が出てしまう。
「?」
「なんだ?」
彼も蓮も何事かとクラウドを見つめる。
「あ…何でも、ない…」
クラウドは顔を赤くし、手で口を覆う。
「じゃあ、また後で!」
彼は手を振りながら、家族の元へ戻っていった。
夜間、海は見えなくなるが温泉はライトアップされ、昼間の開放感と異なる幻想的な雰囲気になっていた。
「レンくん、18歳なんだ!もう少し下かと思った」
金眼の青年…アキは蓮のすぐわきで湯に浸かり、話をしていた。彼は20歳で宿近くの街に住んでおり、母親と妹と共に宿泊しに来たとのこと。敬語を止め、コンタクトレンズも外して左目は美しい金色。蓮に対してずいぶん気を許しているようだった。
「クラウドさんはおいくつですか?」
少し離れて湯に浸かるクラウドには敬語で質問する。
「…30」
「え?けっこう離れてるね。お友達だよね?」
「いや、下僕」
「ぶっ?!」
蓮の否定にクラウドはショックで吹き出す。
「あはは!何それ?レンくん面白いね!」
アキは冗談だと思い、愉快そうに笑う。
「それにしても、カッコいい筋肉だね。鍛えているの?」
と、蓮の引き締まった胸や腕をまじまじと見つめる。
「僕はこんなだから、うらやましい」
細い腕を湯から出し、蓮の上腕をするりとなでる。
「…っ!!」
「?」
思わず勢いよく立ち上がったクラウドに、ふたりは首をかしげた。
「お前、ヘーキだったのか」
「え?」
何のことかと、アキは蓮を見る。
「先々月の、異変」
「異変…あ…うん。僕は何もなかったよ」
金眼保有者の突然の暴走のことだとわかり、遠慮がちに笑む。彼は保有者であることを国に報告しており、異変が起こる可能性があると連絡を受けていた。
「あ、そ」
「隣街で騒ぎがあったとは聞いたけど…」
国に混乱を招いた異変だが、影響のあった保有者は数百人で、何も起こらなかった者の方が多い。アキもそんな大多数の方の保有者だった。
「おい、お前金眼じゃないか?」
「!」
そこへ、見知らぬ中年の男がざぶざぶと近づいてきてアキを指し、びくっと身体を強ばらす。
「やっぱりだ。何でお前みたいな危険物が出歩いているんだ?」
男は彼の金色の左目を見て、顔をしかめる。
「…っ」
アキは青ざめ、蓮の腕にすがる手は震えていた。
「いきなり狂暴化して人襲うんだろう?化け物か?おとなしくうちにこもっていろよ、人殺し…いっ?!」
まくしたてる男の腕を、蓮は無言でグッとつかんだ。
「うぎゃ…っ?!い、イデデでっ!!」
折ろうかという力で握り、男はたまらずうめく。
「何サマだテメー?何も知らねーくせに、何も悪くねーコイツに文句垂れるんじゃねーよ。怖ぇなら、テメーがこもってろクソが」
蓮の殺気だつ黒い目ににらまれ、恐怖で血の気がひく。
「ひ、ひぃいい!!」
男は痛む腕を押さえ、悲鳴をあげながら岩風呂を出て行った。
保有者の異変は迫害を防ぐため、保有者周辺の必要最小限にしか知らせなかった。しかし、たまたま暴走を目の当たりにしたり、噂を聞いたりして保有者に対して嫌悪や恐怖を抱いた無関係な者もいる。この男のように、あからさまな嫌悪をぶつける者も少なからずいるのだろう。
「あ…ありがとう、レンくん…!」
「ん、気にすんな」
アキは安堵して蓮の胸元に顔を寄せ、蓮は軽く背を叩いてやる。
本来なら金眼保有者は皆に愛され、平穏をもたらす存在であるべきだ。まだ異変は終わっていないのかと、蓮は涙を浮かべているアキを見て思った。
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