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本編
14. 素早く確保するべきだ!
しおりを挟むしかし、神々の使徒たる聖女に使用することが、各方面から不評を買わないわけではない。
よく知られた一般品と形状が違うから、易々と咎めようのない大国だから、教会と裏取引で繋がっているから、何代もの聖女を上手く利用してこられたというだけだ。
「儀式のときに見逃していた不備が……、まさか、そんなことが今頃影響してきたというのか? いや、それならば――」
そのようなことはなかったはずだと、考えを纏めようと独り言を続けるガルリゲスが漏らした儀式という言葉。
それは、いかにも稀少な品物という包装をされた婚約者の証を贈るという、厳かな雰囲気にて執り行われる密室の祝い。
そんな偽情報が出回る行為を指す。王家が聖女のために、ひいては国民のために、貴重なマジックアイテムを用意していると騙すための儀式。
聖女に指名された女性にとっては、不自由という呪いに絡め取られる分岐点だ。
求める制約を書き込んだ魔法陣を用意して、契約する二人を横たえる。このとき、意識があってもなくても問題無い。王族の血液を隷属の首輪にある宝玉や鍵へ塗り、新たな聖女の首に嵌めれば、あとは魔力を通わせるだけ。
二十歳未満で認定される聖女なら、大人が集まっていれば素早く終わる簡単な作業でしかない。
ちなみに、聖女アイシスが隷属の首輪を嵌められた時期は、七歳となったばかりの頃。年齢の近い第二王子ではなく、婚約者を決めようとしていた第一王子がすんなり相手と決まった。
最年少の聖女認定はそれなりに話題となったが、ほどほどの祝福とたんまりの不満が向けられることとなった。両親すら分からない平民上がりだったことが、多方面から嫉妬を呼び起こしたことは間違いない。
それから三年、前世の記憶が融合し終わった彼女は、逃げ出すことの出来ない鳥籠が組み上がっていたことに絶望した。寝具を抜け出して直後、両膝から崩れ落ちた。
ただし、完全な別人格というわけではないため、抵抗できるような力量が備わっていない当時では、同じような結果になっていたかもしれない。逃げ出そうとしていれば、もっと反抗できないがちがちの束縛となっていたかもしれない。
「王都の住宅街で騒ぎを起こす前に、素早く確保するべきだ! そうすべきじゃないのか!?」
「魔法陣の紋様からしますと~、自分が把握できる範囲に移動する、そんな転移系の魔法だったのではないかと考えております~」
成績優秀者とまでは言わないが、それでも侯爵令嬢のスリンカは魔法理論の成績が悪くなかった。目に焼き付いた紋様から、いくつかの読み取れた情報から推測を伝えた。
ちなみに、聖女アイシスを縛り付けた契約は、婚約者になった第一王子が主人役であった。
婚約破棄を宣言して契約の根幹を消滅させたこと、国外追放を宣告して束縛の制約を崩壊させたこと、軽々しい行為が隷属という呪縛から彼女を解放してしまったわけだ。
ちなみに因みに、何かしらの事故で第一王子が契約を結んだまま帰らぬ人となったりした場合。
隷属状態が即座に解除されるわけではないので、王都大聖堂に彼女が留まっていれば、第二王子や国王が契約を上書きすることで簡単に対応できてしまう。空いた席へ誰かが座れば良いだけなのである。
跡継ぎとして呑気すぎて心配になるサイバードに、責任感が伴わないからはっきり伝えていなかったことが裏目に出たわけだ。
ただし、情報を与えていれば、それはそれで余計な行動をしかねない。そういう男だから、どちらにせよという結果だったかもしれない。残念王子だったという結論は変わらないのだろう。
「そう、ですな……、首輪が機能しているのなら、彼女から大聖堂を離れようとすることはないはずだ。そのような魔法をどこで覚えたのか疑問がなくはないが、必要な魔力量の多い転移魔法を使ってまで行方を眩ませたとするならば、見逃せる問題ではないしょうな」
ところどころで知らない情報を漏らす宰相に、サイバードとスリンカは不思議そうにお互いへ視線を向け合う。
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