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第二話 獣人少年の実力
しおりを挟む狼獣人の少年の実力に不安を感じていたサリーナは、依頼に出てすぐその不安は払拭されたのであった。
「これで全部か?」
目的地に向かう途中、森の中で遭遇したワームに襲われてしまったのだが、なんとアッシュは一人でこれを倒してしまったのであった。
10体はいた筈の芋虫のような形をしたモンスターは、アッシュのショートソードで真っ二つになって地面に転がっていた。
「す、凄い……。」
恐怖で尻餅を付いていたサリーナは、彼の実力に驚愕の声を漏らした。
「この位、慣れれば直ぐ倒せるようになる。」
そんな彼女の言葉に、アッシュは素っ気なく言ってきたのだった。
「そ、そう……ですか?」
「ああ、先を急ぐぞ。」
「は、はい!」
アッシュの言葉に、サリーナが俄かには信じられないと首を傾げていると、アッシュは急かすように言ってきた。
少々苛立ちを含んだ声に、サリーナは慌てて立ち上がると、先に行ってしまったアッシュの後を急いで追いかけるのであった。
そして、目的の遺跡にようやく辿り着いたサリーナは、またしてもアッシュの実力に驚いていたのだった。
「ま、魔法が使えるのですか?」
目の前で真っ黒になったモンスター達を見ながら、サリーナは信じられないものを見るような目でアッシュを見ていた。
今回の依頼内容は、遺跡に大量発生したスライムの駆除であった。
スライムの駆除は初心者なら誰でも通る依頼の一つで、サリーナも一匹ずつならなんとか倒せる。
その為、遺跡に入ってすぐの頃は、サリーナも地道にスライムの駆除をしていたのだが、ある部屋に入った時居るはずも無いと思っていた強い魔物に遭遇してしまったのであった。
時々エンカウントする魔物らしく、遭遇したのは運が悪かっただけらしい。
驚くサリーナの前に出たアッシュが、炎魔法で一掃してくれたので事無きを得た。
魔物の焼け跡を見下ろしながら、淡々と説明するアッシュにサリーナは魔法の事を訊ねると、彼は思ったよりもあっさりと答えてきたのだった。
「俺は魔剣士だからな。」
「へ?ま、魔剣士……魔剣士って、あの!?」
アッシュの言葉に、サリーナは間抜けな声が出てしまった。
魔剣士とは、剣を扱う職業の中でも最上位の職業になる。
魔剣士になるには、戦士のスキルだけでなく魔法系のスキルも覚えなければならない為、この職業になるにはかなりの努力が必要だと言われている。
そんな高難易度な職業に、自分よりも年下かもしれない少年がなっていることに驚きを隠せないでいた。
「なんだ?そんなに驚く事か?」
そんなサリーナの反応に気を悪くしたのか、アッシュが憮然とした表情で聞いてきたのであった。
「そ、そりゃそうですよ!だって、魔剣士って世界に何人もいないって言われてるんですから!」
興奮のあまり、思わず声が大きくなってしまった。
自分の大きな声に驚いたのはサリーナだけでは無かったらしく、目の前のアッシュも目を見開き驚いている様だった。
アッシュの様子に気づいたサリーナは、興奮も忘れて青褪める。
つ、つい大きな声が出ちゃった……お、怒られるかも……。
そう思ってチラリと目の前の狼獣人の少年を見ると、彼は何故かそっぽを向いていたのであった。
「そ、そうか……そんなに驚く事だったのか……。」
「は、はい……。」
何故か小さな声になってしまったアッシュに、サリーナは驚き目を見張る。
よく見ると、彼の頬が薄っすらと色付いているのに気が付いた。
あれ?もしかして……照れて、る?
意外な反応にサリーナが驚いていると、それを隠すかのようにアッシュが早口で言ってきた。
「さ、さっさと行くぞ!早くしないと日が暮れちまう。」
「あ、は、はい!」
黒焦げの跡を跨いで先へと急ぐアッシュの後ろ姿を、サリーナは慌てて追いかける。
そして、その後の討伐も問題なく終わり、無事にギルドに帰って来ることが出来たのであった。
「お帰りなさい、お疲れ様でした。お怪我はなかったですか?」
受付嬢達の労いの言葉に、疲れ果ててヘトヘトになっていたサリーナは少しだけ元気が出た。
「はい、大変でしたけどアッシュさんのお陰で、何とかやり遂げられました。」
えへへ、と嬉しそうに言うサリーナを3人の受付嬢達は微笑まし気に見る。
そしてアッシュに視線を移すと、つーんと済ました顔で明後日の方を向いている姿があった。
『相変わらずアッシュさんは、ツンですね~。』
『う~ん、でも今回は優しい方じゃない?』
『ああ、そういえばそうねぇ。』
『確かに……アッシュさんに怒ってない利用者って初めてかも。』
受付嬢達は、アッシュを横目に見ながら、こそこそと話していたのだが、ふとサリーナに視線を戻すと「ほほう」と頷いたのだった。
いつもなら終わって早々、利用者から苦情が来るのだが今回は大丈夫だったらしい。
初めての平穏な様子に、受付嬢達は胸を撫で下ろしていた。
『ほんとに、毎回毎回利用者さん怒らせて、こっちが謝るの大変でしたからねぇ。』
『あ~一月前のアレ凄かったよね~。』
などと、目の前のサリーナ達を他所に話に花を咲かせていると、アッシュから氷点下の視線が向けられてきたのであった。
「おい、無駄話は後でしろ。今回の報酬を早く渡してやれよ。」
「あ……はいはいはい~今すぐお渡ししますね~!」
受付嬢達は、アッシュの視線に冷や汗を流しながら報酬の入った銀貨を渡してきた。
「はい、こちらが報酬になります~!サリーナさんお疲れ様でした。」
「あ、はい。ありがとうございます……それで、アッシュさんの分の取り分は幾ら渡せばいいんですか?」
受付嬢達の労いの言葉に笑顔で返しながら、サリーナはそんな事を訊ねてきた。
「ああ、アッシュさんはギルドで雇っている形なので、彼の分はこちらで報酬として払っているので大丈夫ですよ。それは、全部サリーナさんの取り分です。」
「え、こんなに一杯?」
「はい、良かったですね♪」
意外な報酬の量に目を丸くするサリーナに、受付嬢達はニコニコしながら見ている。
そして、もう用は無くなったとばかりにアッシュが去ろうとすると、サリーナが慌てて引き留めてきた。
「あ、あの!アッシュさん、お礼がしたいのですが!」
サリーナの言葉に、アッシュが足を止め振り向いた。
「よ、よければ、この後お食事でも……。」
サリーナの言葉に、アッシュの動きが固まった。
無言で、じ~っとサリーナを見つめていたアッシュだったが、はっと気づくと首を横に振り踵を返してしまったのだった。
「気持ちだけ受け取っておく。」
そう言うと、アッシュは歩いて行ってしまった。
その姿にサリーナは慌てて声をかける。
「あ、ありがとうございました~!」
ギルド内に響く声に、アッシュは軽く片手を上げるとギルドを出て行ってしまった。
暫くすると、アッシュの去って行った扉を名残惜しそうに見ていたサリーナに、受付嬢達が声をかけてきたのだった。
「え、ええ~と、あっ、次回もサポートを利用する場合は、前回と同じバディを指定できますよ!」
「え……。」
受付嬢の説明に、サリーナは何故か複雑な表情をしてきたのだった。
その表情に気づいた受付嬢は、慌てて説明を付け足す。
「あ、も、もし、バディを変えたい時は、遠慮なく仰ってくださいね!助っ人サービスには、複数の上級者の方が待機していますので。」
「そ、そうですか……。」
ホッとした様な顔を見せるサリーナに、今回もアッシュはダメだったかと受付嬢達はこっそり溜息を零すのだった。
そして、沢山の報酬を貰ったサリーナはギルドを後にしたのであった。
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