雇われ獣人と女冒険者 ~駆け出しの初心者なのでギルドで助っ人サービスを利用したら凄腕のイケメン獣人にいきなり襲われてしまいました!~

麻竹

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第三話 バディの変更

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そして数日後、ギルドの依頼クエストを受けにサリーナがまたやって来ていた。

「こんにちは。」

「あら、サリーナさん、こんにちは。依頼の受付ですか?」

「はい、あ、あと、サービスの方もお願いします。」

「ありがとうございます~。では、こちらに記入をしてください。」

「はい。」

サリーナは、渡された助っ人サービスの申請用紙に必要事項を記入していく。
そして受付嬢に申請書を渡すと、慣れた様子で記入欄を確認していった。
すると突然、受付嬢の動きが止まった。
どうしたのだろうとサリーナが首を傾げていると、受付嬢達は後ろを向いて、ひそひそと話し合いだしたのだった。

『ど、どうする、これ?』

『ど、どうするって言われても……。』

受付嬢達の見下ろす先には、バディ変更希望と書かれた書類があった。

「あ、あの……何かありましたか?」

様子を見ていたサリーナが、恐る恐る訊ねると受付嬢達は「何でもないんですのよ~!おほほほ~」と言いながら、急いで後ろの扉の中に消えていってしまった。
受付カウンターの前に、ポツンと取り残されたサリーナは、何が何だか訳がわからず首を傾げていたのであった。







そして待つこと数分後――

「え、ええっと……。」

サリーナは、現れた人物に困惑の声を上げたのであった。
目の前には、何故か前回と同じバディ――アッシュが居たのであった。
確か、バディの変更申請はしたはず……と、サリーナが首を傾げていると、受付嬢達が慌てて説明をしてきた。

「ほ、他の上級者さん達が、今丁度全員不在でして……アッシュさんしかいなかったものですから……。」

と、冷や汗を流してチラチラとアッシュを窺いながら、受付嬢達は頭を下げてくる。
三人揃って頭を下げてくる姿に、サリーナもさすがに言い返すことが出来なくなってしまい、仕方なくアッシュと共に依頼クエストへ向かう事にしたのであった。
しかしこの時、異を唱えなかった事でサリーナは、後々後悔することになった。
何故ならば、毎回サービスを受ける度に何故かアッシュしか居ないという謎の言い訳を、受付嬢達から聞かされる羽目になるのであった。





そんなこんなで謎の言い訳から早数ヶ月、この頃になると慣れたもので、毎回アッシュがバディになっても、サリーナは何も言わなくなっていた。
というより、アッシュが万能過ぎて不満が出なかったのも、大きな理由の一つでもある。

討伐に向かえば、ほとんど無傷で、しかも達成率は100%。
道中野宿になれば、テントの設営から食事の準備、夜の見張りなどを完璧に熟してくれる。
また、盗賊や追剥に出くわしたとしても、アッシュに敵う者は一人も居なかった。

しかも意外な事に、アッシュは喋り方こそぶっきら棒だが、質問には丁寧に分かり易く説明してくれるし、しかも少々の事では怒らず根気よく待ってくれるという、面倒見の良い意外な一面もあった。
そんなアッシュと供に依頼を熟していくうちに、サリーナは自然と色々な知識が身に着いていった。
今まで、アッシュの事を怖い人だと思っていたサリーナだったが、今では全幅の信頼を寄せる程に尊敬する相手になっていた。

しかも驚くことに、こんなにも頼れる先輩であるアッシュの年齢は、サリーナと同じだというのだ。
最初、受付嬢のお姉様方から教えて貰った時には、正直驚いてしまった。
しかし、獣人族は成人になるまでの成長スピードが人間族よりも早いらしく、サリーナと出会った時には既に立派な成人として独り立ちして、既に数年経っていたというのだ。
しかも獣人族でも大型種の狼族は、戦闘に長ける種族らしく剣の腕前も去ることながら、魔力も高い事で有名なのだそうだ。
その話を聞いて、だからあんなに強かったのかとサリーナは納得したのだった。

野営の準備をしている途中で、そんな昔の事を思い出していたサリーナに、アッシュが声をかけてきた。

「夕飯の準備ができたぞ。」

「あ、はい。こっちも荷物の整理は終わりました。」

振り返ると、出会った頃よりも高い位置にアッシュの顔があり、サリーナは見上げながら返事をした。
あれからアッシュは、ここ数ヶ月でグングンと背が伸びていき、同じくらいだった背丈は、あっという間に抜かされ、今や彼の顔は頭一つ分よりも更に高い位置にあった。
そして愛用していたシュートソードも、今やロングソードに変わっていた。
以前、背が伸びた事を指摘した事があったのだが、その時彼からは「やっと一人前になれたからな」と謎の言葉が返ってきた。
彼曰く、数か月前までは成人してはいたが一人前では無かったのだという。
どういう意味かと訊ねても「獣人には色々あるんだ」と、言葉を濁されてしまったので、それ以上はわからなかった。







そんなこんなで、アッシュにサポートをして貰いながら依頼を熟していたサリーナだったが、ある時ギルドでアッシュが他の冒険者と一緒にいるところを偶然見かけたのだった。
相手は、豹獣人の女冒険者だった。
豹獣人の女冒険者は、アッシュの逞しい腕に自身の腕を絡ませながら、甘える様な声で話しかけていた。

「ねえ、アッシュ~。私と一緒に組みましょうよ~。」

豹獣人の女冒険者はそう言うと、真っ赤な唇から悩ましい吐息を吐き、体を擦り寄せて豊満な胸元を強調してきたのだった。
どうやら豹獣人の女冒険者は、アッシュとパーティーを組みたいようで、肉感的な体を擦り寄せながら彼を口説いていた。
目の前の光景に、サリーナは思わず「お、大人の世界だ~」と赤面してしまう。
そして真っ平らな自分の体を見下ろし、思わずアハハと乾いた笑いが零れてしまった。
自分があんな事をしようと思っても、きっと腕にぶら下がる子供みたいになってしまうだろう。

彼とパーティーを組んでも、きっとあんな風には見えない……ううん、それよりも足手纏いになるのが関の山だ……。

遠くで女の人に言い寄られるアッシュは、もう見た目も十分大人の男性だった。
出会ってから既に一年が経つ、彼はもうサリーナの身長を遥かに追い越し、今や見上げる程になってしまっていた。
最近では隣に立つと、親子に間違えられてしまう時がある程だ。
改めて、獣人族と人間族の体格の差に驚かされた。
現に、アッシュに抱き付く豹獣人の女冒険者は、サリーナよりも遥かに背が高く、アッシュと並ぶとまるで恋人のように見えた。
しかも、実力は確か上位の方だった筈だ。

もしかしたらアッシュさんは、ああいう人達と居た方が実力に見合った依頼が受けられるんじゃないかな?

ふと、いつもバディをやってくれるアッシュにとって、自分が受ける依頼は物足りないのでは?と疑問に思った。
彼の実力なら、上位のクエストも難なく熟せるだろう。

もしかしたら、私の依頼に付き合っているせいで、他の人とパーティーが組めなかったとか!?

実は以前から、ああいう誘いがあったけど、私のせいで受けられなかったのでは!?

目の前で女性に口説かれているアッシュを見ながら、サリーナがそんな事を思って呻いていると、アッシュがこちらに気づいてしまった。
そして、何故か彼はサリーナを見つけた途端、豹獣人の腕を振り払ったのだった。
突然振り払われ、よろけてしまった豹獣人の女冒険者は、目を丸くしながらアッシュを見ると、顔を真っ赤にさせて抗議してきた。

「な、なによアッシュ、いきなり危ないじゃない!」

「うるさい。さっきも言ったが、俺はお前とは組まない。消えろ。」

しかしアッシュは、豹獣人の女冒険者を一瞥すると冷たく言い放ってきたのだった。
アッシュの言葉に豹獣人の女冒険者は、わなわなと震えだした。

「な、なによ……あんな子がいいってわけ?」

アッシュが見つめる先に気づき、怒りで顔を歪ませながら豹獣人の女冒険者はボソリと呟いてきた。
しかしアッシュは、もう用は無いとばかりに無視を決め込みサリーナの方へ歩き出した。
そして、驚いてこちらを見ているサリーナの腕を掴むと、ギルドのカウンターの方へ連れて行ってしまったのであった。

「なによ……なによ……。」

豹獣人の女冒険者は、そんなアッシュとサリーナを睨み付け、唇を噛み締めながら呟いていたのだった。







「あ、あの……。」

サリーナがアッシュと豹獣人の女冒険者の姿を見て落ち込んでいると、いきなりアッシュが女の腕を払い除けてこちらへやって来た。
そして驚く自分の腕を掴んできたかと思ったら、何故か受付カウンターの方へ連れて来られてしまったのであった。

「今日の依頼はなんだ?」

そして何故かアッシュは、今日入って来た依頼内容を確認してきたのだった。

「え、ええ~っと……。」

「もちろん、こいつが受けられる依頼だ。」

「あ、はいはい!只今、お持ちしますね~!!」

受付嬢が、アッシュとサリーナを交互に見ながら困っていると、アッシュがすぐさま訂正してきた。
そして直ぐにアッシュ達の前に、初級者向けの依頼が並べられる。

「今あるのは、これだけですね。」

「そうか……じゃあ、これにする。」

受付嬢の説明を聞きながら、アッシュは依頼内容にざっと目を通すと、1枚の依頼を選んで手続きを済ませてしまった。
そして、連れて来られたままアッシュの遣り取りを見ていたサリーナの腕をまた掴むと「行くぞ」と言って足早にギルドを後にしたのであった。

「へ?え!?」

いつの間にか依頼クエストに狩り出され、引き摺られるように連れ去られながら、サリーナは訳が分からず素っ頓狂な声を上げていたのであった。
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