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本編【完結】
第三十三話 仲直り
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それから数日たったある日。
エリアーナが放課後、人気のない廊下を歩いていると、背後から誰かに腕を掴まれ個室に連れ込まれてしまった。
そして真っ暗な部屋の中で、何者かにきつく抱きしめられているという状況に陥っていたのである。
恐怖で硬直していると、耳元で「エリィ。」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
「レイ?」
その声に、エリアーナが聞き返すと、やっと拘束が解けた。
「突然、ごめんね。」
弱々しい声に、顔を上げて見ると薄暗い部屋の中で眉根を下げながらこちらを見下ろす婚約者がいた。
「びっくりするじゃない。」
エリアーナは、顔が熱くなってくる感覚に動揺しながら憎まれ口をたたく。
恥ずかしさで顔を俯かせると、またレイモンドが抱き締めてきた。
「ちょっと、誰か来たらどうするのよ。」
「うん、ごめん。でももう少しだけ。」
抗議の声を上げるエリアーナに、レイモンドは縋りつく様に抱く腕に力を込めてきた。
らしくなく覇気の無い声に、エリアーナは何も言い返せなくなってしまう。
「はぁ、久しぶりのエリィだ……。」
レイモンドが噛み締めるように呟いてきた声に、エリアーナは最近避けまくっていた事に罪悪感を覚えつつレイモンドを見上げた。
「そ、そうね、本当に久しぶり……。」
エリアーナが小さな声で呟くと、レイモンドは少しだけ体を離して見下ろしてきた。
その隙間を少しだけ残念に思っていると、レイモンドが恐る恐るといった感じで訊ねてきた。
「エリィ、その……僕、君に何かしちゃった?」
その言葉に、エリアーナは「え?」と言いながら顔を上げると、ばちりとレイモンドと視線がぶつかった。
久しぶりに見る端正な顔に、エリアーナの頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
真っ赤になった顔を見せたくなくてエリアーナが俯くと、レイモンドから息を呑む気配が伝わってきた。
エリアーナは慌てて顔を上げると、傷ついた表情のレイモンドの顔が飛び込んできた。
そんなレイモンドに、エリアーナは慌てて首を振る。
「ち、違うの……その……レイに怒ってるとかそんなんじゃなくて……。」
エリアーナがもごもご言い訳していると、怒っていないという言葉に安心したのか、レイモンドから緊張の気配が消えた。
「怒って、ないの?」
「う、うん。」
「じゃあ、なんで今まで僕のこと避けてたの?」
「えっと……それは……。」
レイモンドの質問に、エリアーナが真っ赤になりながら下を向いていると、頭上から溜息が聞こえてきた。
「言いたくなければいいよ……。」
悲しそうな声で言ってくる彼に、エリアーナは思わず顔を上げる。
しかし、レイモンドは視線を合わせようとはしてくれなかった。
初めての婚約者の態度に、エリアーナに焦燥感が生まれる。
気づくと、レイモンドの胸倉を掴んで詰め寄っていた。
「エ、エリィ!?」
突然のエリアーナの行動に、レイモンドは目を見開いて驚いた顔をする。
それには構わず、エリアーナは言葉を続けた。
「ち、違うって言ってるでしょ!あ、あなたが舞踏会であんな事するから……。」
「あんな事?」
「・・・・・・・・。」
エリアーナの言葉に、レイモンドが不思議そうな顔をしながら首を傾げると、彼女はしまったという顔をしながら顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
そんな彼女を見下ろしながら、レイモンドが暫く記憶を辿っていると、ようやく理由を悟ったのか、彼もまた頬を染めてきた。
そして、レイモンドはエリアーナをぎゅっと抱きしめる。
「ちょっ」
「あの事は謝らないよ。」
エリアーナが抗議の声を上げようとすると、レイモンドが遮ってきた。
そのはっきりとした言葉に、エリアーナは言葉を失う。
ぽかんと彼を見上げていると、レイモンドは言葉を続けてきた。
「だって、僕達婚約者だし、あと一年もしないうちに結婚するんだから。」
エリアーナを抱きしめたままレイモンドが言う言葉を、エリアーナは黙って聞いていた。
「それに、婚約者なのに今の今までキスすらないなんて僕たち位だからね。」
「え?」
レイモンドの言葉に、エリアーナは目を丸くする。
予想通りの反応に、レイモンドは「やっぱりか。」と嘆息すると、エリアーナの目線に合わせて話してきた。
「他はみんなキスぐらい当に済ませてるよ。まだだったの僕達位だからね本当に。」
「ええっ!?」
「エリィ、他の令嬢たちとそんな話しないの?」
「し、しないわよ!」
レイモンドの質問に、エリアーナは真っ赤になりながら首を振る。
その反応に、やっぱりな~とがっくりと肩を落としながらレイモンドが呟いてきた。
「エリィが奥手で恥ずかしがり屋なのは知ってたけどね……。」
はぁ、と盛大に溜息を吐きながら言うレイモンドに、エリアーナはカチンとくる。
「し、仕方ないでしょ、お妃教育で女性は清らかであれ~とかお淑やかであれ~とか、毎回言われてるんだから!」
純粋培養の侯爵令嬢は、婚約者であるレイモンドの嘆きに酷くご立腹していた。
私がこうなったのはお妃教育のせいよ!と主張してくるエリアーナに、レイモンドは「はいはい。」と仕方なさそうに頷く。
そんな彼に、エリアーナが「むぅ。」と唸りながら頬を膨らませていると、レイモンドは腰を屈めながら言ってきた。
「じゃあ、今後お妃教育のせいにしない様に、僕から母上に進言しておくよ。」
「え?」
「だから、いいよね?」
「へ?」
に~っこり、と何故か極悪な笑顔を向けてくる婚約者にエリアーナは後退ろうとしたのだが、一歩遅く彼に腰を抱かれ引き寄せられてしまった。
そして――
誰もいない薄暗い室内で、またしても唇を奪われてしまったのであった。
エリアーナが放課後、人気のない廊下を歩いていると、背後から誰かに腕を掴まれ個室に連れ込まれてしまった。
そして真っ暗な部屋の中で、何者かにきつく抱きしめられているという状況に陥っていたのである。
恐怖で硬直していると、耳元で「エリィ。」と聞き慣れた声が聞こえてきた。
「レイ?」
その声に、エリアーナが聞き返すと、やっと拘束が解けた。
「突然、ごめんね。」
弱々しい声に、顔を上げて見ると薄暗い部屋の中で眉根を下げながらこちらを見下ろす婚約者がいた。
「びっくりするじゃない。」
エリアーナは、顔が熱くなってくる感覚に動揺しながら憎まれ口をたたく。
恥ずかしさで顔を俯かせると、またレイモンドが抱き締めてきた。
「ちょっと、誰か来たらどうするのよ。」
「うん、ごめん。でももう少しだけ。」
抗議の声を上げるエリアーナに、レイモンドは縋りつく様に抱く腕に力を込めてきた。
らしくなく覇気の無い声に、エリアーナは何も言い返せなくなってしまう。
「はぁ、久しぶりのエリィだ……。」
レイモンドが噛み締めるように呟いてきた声に、エリアーナは最近避けまくっていた事に罪悪感を覚えつつレイモンドを見上げた。
「そ、そうね、本当に久しぶり……。」
エリアーナが小さな声で呟くと、レイモンドは少しだけ体を離して見下ろしてきた。
その隙間を少しだけ残念に思っていると、レイモンドが恐る恐るといった感じで訊ねてきた。
「エリィ、その……僕、君に何かしちゃった?」
その言葉に、エリアーナは「え?」と言いながら顔を上げると、ばちりとレイモンドと視線がぶつかった。
久しぶりに見る端正な顔に、エリアーナの頬がみるみるうちに赤く染まっていく。
真っ赤になった顔を見せたくなくてエリアーナが俯くと、レイモンドから息を呑む気配が伝わってきた。
エリアーナは慌てて顔を上げると、傷ついた表情のレイモンドの顔が飛び込んできた。
そんなレイモンドに、エリアーナは慌てて首を振る。
「ち、違うの……その……レイに怒ってるとかそんなんじゃなくて……。」
エリアーナがもごもご言い訳していると、怒っていないという言葉に安心したのか、レイモンドから緊張の気配が消えた。
「怒って、ないの?」
「う、うん。」
「じゃあ、なんで今まで僕のこと避けてたの?」
「えっと……それは……。」
レイモンドの質問に、エリアーナが真っ赤になりながら下を向いていると、頭上から溜息が聞こえてきた。
「言いたくなければいいよ……。」
悲しそうな声で言ってくる彼に、エリアーナは思わず顔を上げる。
しかし、レイモンドは視線を合わせようとはしてくれなかった。
初めての婚約者の態度に、エリアーナに焦燥感が生まれる。
気づくと、レイモンドの胸倉を掴んで詰め寄っていた。
「エ、エリィ!?」
突然のエリアーナの行動に、レイモンドは目を見開いて驚いた顔をする。
それには構わず、エリアーナは言葉を続けた。
「ち、違うって言ってるでしょ!あ、あなたが舞踏会であんな事するから……。」
「あんな事?」
「・・・・・・・・。」
エリアーナの言葉に、レイモンドが不思議そうな顔をしながら首を傾げると、彼女はしまったという顔をしながら顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
そんな彼女を見下ろしながら、レイモンドが暫く記憶を辿っていると、ようやく理由を悟ったのか、彼もまた頬を染めてきた。
そして、レイモンドはエリアーナをぎゅっと抱きしめる。
「ちょっ」
「あの事は謝らないよ。」
エリアーナが抗議の声を上げようとすると、レイモンドが遮ってきた。
そのはっきりとした言葉に、エリアーナは言葉を失う。
ぽかんと彼を見上げていると、レイモンドは言葉を続けてきた。
「だって、僕達婚約者だし、あと一年もしないうちに結婚するんだから。」
エリアーナを抱きしめたままレイモンドが言う言葉を、エリアーナは黙って聞いていた。
「それに、婚約者なのに今の今までキスすらないなんて僕たち位だからね。」
「え?」
レイモンドの言葉に、エリアーナは目を丸くする。
予想通りの反応に、レイモンドは「やっぱりか。」と嘆息すると、エリアーナの目線に合わせて話してきた。
「他はみんなキスぐらい当に済ませてるよ。まだだったの僕達位だからね本当に。」
「ええっ!?」
「エリィ、他の令嬢たちとそんな話しないの?」
「し、しないわよ!」
レイモンドの質問に、エリアーナは真っ赤になりながら首を振る。
その反応に、やっぱりな~とがっくりと肩を落としながらレイモンドが呟いてきた。
「エリィが奥手で恥ずかしがり屋なのは知ってたけどね……。」
はぁ、と盛大に溜息を吐きながら言うレイモンドに、エリアーナはカチンとくる。
「し、仕方ないでしょ、お妃教育で女性は清らかであれ~とかお淑やかであれ~とか、毎回言われてるんだから!」
純粋培養の侯爵令嬢は、婚約者であるレイモンドの嘆きに酷くご立腹していた。
私がこうなったのはお妃教育のせいよ!と主張してくるエリアーナに、レイモンドは「はいはい。」と仕方なさそうに頷く。
そんな彼に、エリアーナが「むぅ。」と唸りながら頬を膨らませていると、レイモンドは腰を屈めながら言ってきた。
「じゃあ、今後お妃教育のせいにしない様に、僕から母上に進言しておくよ。」
「え?」
「だから、いいよね?」
「へ?」
に~っこり、と何故か極悪な笑顔を向けてくる婚約者にエリアーナは後退ろうとしたのだが、一歩遅く彼に腰を抱かれ引き寄せられてしまった。
そして――
誰もいない薄暗い室内で、またしても唇を奪われてしまったのであった。
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