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本編【完結】
第三十七話 侯爵令嬢の勘違い
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とりあえず、ちょっとしたトラブルはあったものの、無事に婚約者との仲直りも兼ねたお茶会が終わったその夜。
「お二人が仲直り出来て良かったですわ!」
侍女のメルが、主であるエリアーナの洗い立ての髪を櫛で梳かしながら、嬉しそうに話しかけてきた。
「そ、そうね……。」
エリアーナは何故か頬を赤くしながら、メルの言葉に頷く。
「ところで、お嬢様はレイモンド様とどこまでいってるのですか?」
そんな主の反応にメルは、にやりとすると唐突に質問してきた。
その言葉にエリアーナが驚いて顔を上げると、鏡越しに侍女と目が合った。
鏡に映る彼女の表情は、にやにやと期待に満ちた顔をしていた。
「ど、どこにもいってないわよ!」
「そういう意味じゃありません!私達を心配させたんですから少しくらい教えてくださってもいいと思いますよ?」
そう言って、メルは意地の悪い顔で鏡の中の真っ赤な顔をしたエリアーナを覗き込んできた。
幼少時から世話になっている彼女には、全てお見通しのようだ。
誤魔化しは効かないと悟ったエリアーナは、更に顔を赤くしながら俯いてしまった。
「ううう……こ、婚約者って、みんなあの位は普通なの?」
エリアーナは悩みに悩んだ末、ある疑問をメルにぶつけてきた。
主人の質問に、侍女は「へ?」と言って目を丸くする。
そして、ぽつりぽつりと話し出した主人の話に、メルは内心安堵しつつ、自分達が随分早とちりをしてしまっていた事を反省した。
そして一通り話を聞き終えた侍女は、これでようやくお嬢様たちは想いを通じ合えたのだと素直に喜んだ。
のだが……
「でも婚約者だからって、レイも無理に私としなくてもいいのにね。」
と、何故かエリアーナは、不思議そうな顔をしながら言ってきたのだった。
その言葉に、メルは不躾にも「は?」と聞き返してしまった。
そんな侍女に気を悪くするどころか、エリアーナはきょとんとした顔をしながら説明してきてくれた。
「あら、どうしたのそんな驚いた顔をして?だってそうでしょ、レイはケビンが好きなんだから。」
義理で私なんかとしないでケビンとすればよかったのに、と真顔で言ってくる主人にメルは盛大に首を振って抗議してきた。
「ち、違いますよお嬢様!何を言っておられるのですか!?」
「あら、メルは知らなかったの?レイは心が女だから男の人が好きなのよ。だからケビンをいつも傍に置いているのよ、ケビンもイケメンだしとってもお似合いだと思わない?」
そう言ってころころと笑うエリアーナに、侍女は真っ青になりながら捲し立てた。
「ち、違いますってお嬢様、一体どこを見てるんですか!?レイモンド様はお嬢様一筋ですよ!」
「何言ってるのメル?そんな事あるわけないじゃない。」
メルの言葉にエリアーナは、心底あり得ないというような顔をしながら、きっぱりと断言してきた。
「だってレイは見た目は男の人だけど、心はれっきとした女性よ。貴女も側で見ていて知っているでしょう?」
「だ、だからそれは……。」
「まあ、見た目が王子様だから時々忘れちゃうだろうけど、レイの事は昔から私が一番良く知ってるから大丈夫よ。婚約者として、しっかりフォローしていくつもりだから!」
と、言って微笑んできたのだった。
その悟りを開いたような笑顔を見て、侍女は「これはあかんやつだ」と悟った。
喜んだのも束の間、残念ながらお嬢様は誤解なさったままだった……。
そう、二人の想いが通じ合ったわけではなかったのだ。
という事は、あの第一王子はまだ気持ちを伝えていないという訳で……。
――お嬢様はレイモンド様がキスしてきた理由は、ただ単に婚約者がみんなやっているからという理由で、義理としてされたと勘違いしているのね……。
と、ここへ来て先日まで挙動不審だった主が、こうもあっさり元に戻れた理由を理解したメルは、問題は解決していなかったと、がっくりと肩を落とした。
――あの王子、いつかしばいてやる!
と、お嬢様至上主義の侍女は、腑抜け王子に向かって心の中で拳を握るのだった。
「お二人が仲直り出来て良かったですわ!」
侍女のメルが、主であるエリアーナの洗い立ての髪を櫛で梳かしながら、嬉しそうに話しかけてきた。
「そ、そうね……。」
エリアーナは何故か頬を赤くしながら、メルの言葉に頷く。
「ところで、お嬢様はレイモンド様とどこまでいってるのですか?」
そんな主の反応にメルは、にやりとすると唐突に質問してきた。
その言葉にエリアーナが驚いて顔を上げると、鏡越しに侍女と目が合った。
鏡に映る彼女の表情は、にやにやと期待に満ちた顔をしていた。
「ど、どこにもいってないわよ!」
「そういう意味じゃありません!私達を心配させたんですから少しくらい教えてくださってもいいと思いますよ?」
そう言って、メルは意地の悪い顔で鏡の中の真っ赤な顔をしたエリアーナを覗き込んできた。
幼少時から世話になっている彼女には、全てお見通しのようだ。
誤魔化しは効かないと悟ったエリアーナは、更に顔を赤くしながら俯いてしまった。
「ううう……こ、婚約者って、みんなあの位は普通なの?」
エリアーナは悩みに悩んだ末、ある疑問をメルにぶつけてきた。
主人の質問に、侍女は「へ?」と言って目を丸くする。
そして、ぽつりぽつりと話し出した主人の話に、メルは内心安堵しつつ、自分達が随分早とちりをしてしまっていた事を反省した。
そして一通り話を聞き終えた侍女は、これでようやくお嬢様たちは想いを通じ合えたのだと素直に喜んだ。
のだが……
「でも婚約者だからって、レイも無理に私としなくてもいいのにね。」
と、何故かエリアーナは、不思議そうな顔をしながら言ってきたのだった。
その言葉に、メルは不躾にも「は?」と聞き返してしまった。
そんな侍女に気を悪くするどころか、エリアーナはきょとんとした顔をしながら説明してきてくれた。
「あら、どうしたのそんな驚いた顔をして?だってそうでしょ、レイはケビンが好きなんだから。」
義理で私なんかとしないでケビンとすればよかったのに、と真顔で言ってくる主人にメルは盛大に首を振って抗議してきた。
「ち、違いますよお嬢様!何を言っておられるのですか!?」
「あら、メルは知らなかったの?レイは心が女だから男の人が好きなのよ。だからケビンをいつも傍に置いているのよ、ケビンもイケメンだしとってもお似合いだと思わない?」
そう言ってころころと笑うエリアーナに、侍女は真っ青になりながら捲し立てた。
「ち、違いますってお嬢様、一体どこを見てるんですか!?レイモンド様はお嬢様一筋ですよ!」
「何言ってるのメル?そんな事あるわけないじゃない。」
メルの言葉にエリアーナは、心底あり得ないというような顔をしながら、きっぱりと断言してきた。
「だってレイは見た目は男の人だけど、心はれっきとした女性よ。貴女も側で見ていて知っているでしょう?」
「だ、だからそれは……。」
「まあ、見た目が王子様だから時々忘れちゃうだろうけど、レイの事は昔から私が一番良く知ってるから大丈夫よ。婚約者として、しっかりフォローしていくつもりだから!」
と、言って微笑んできたのだった。
その悟りを開いたような笑顔を見て、侍女は「これはあかんやつだ」と悟った。
喜んだのも束の間、残念ながらお嬢様は誤解なさったままだった……。
そう、二人の想いが通じ合ったわけではなかったのだ。
という事は、あの第一王子はまだ気持ちを伝えていないという訳で……。
――お嬢様はレイモンド様がキスしてきた理由は、ただ単に婚約者がみんなやっているからという理由で、義理としてされたと勘違いしているのね……。
と、ここへ来て先日まで挙動不審だった主が、こうもあっさり元に戻れた理由を理解したメルは、問題は解決していなかったと、がっくりと肩を落とした。
――あの王子、いつかしばいてやる!
と、お嬢様至上主義の侍女は、腑抜け王子に向かって心の中で拳を握るのだった。
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