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本編【完結】
第五十一話 告発と裏切り
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空気が凍えるとは、こういうことを言うのだろうか?
見た事も無い冷たい視線に射貫かれて、エリアーナはその場に縫い付けられたように体が動かなくなってしまった。
胸の辺りは冷水を浴びたように冷たく感じ、それと比例して鼓動はどんどん早くなっていく。
嫌だ、これ以上見ていたくない、聴きたくない、と心は叫ぶのだが、エリアーナの足は石にでもなってしまったのか、どんなに逃げたいと心の中で願っても動くことが出来なかった。
無言で見つめるエリアーナを了承と取ったのか、レイモンドは話を続けた。
「ここにいるエミリア・ランヴァッハ嬢から、君にいじめを受けていたという訴えがあった。それは本当かい?」
一瞬だけ見せた優しい眼差しに、エリアーナの硬直が解け「え?」と思わず聞き返していた。
「そうです!エリアーナ様に裏庭に呼び出された挙句、レイ様に近づくなと脅されました!他にも、廊下ですれ違えば足をかけて転ばされたり。そればかりか、他の令嬢の方々を使って私に意地悪をしてきたんです!!」
――は?
レイモンドを押しのけ、涙ながらに訴えてきたエミリアに、エリアーナの眉間に皺が寄った。
「証人だっています!」
そしてエミリアは息つく暇も与えず、畳みかけるように叫んできた。
エミリアの声に、背後に居た人だかりの中から一人の令嬢がすっと前に出てきた。
「クリスティーナ・ファウゼン嬢……。」
レイモンドの呟きに、クリスティーナは優雅に微笑むと、二人に向かって淑女の礼を取って挨拶してきた。
そして首を巡らし、エリアーナに微笑みを向けてくる。
「ご機嫌よう、エリアーナ様。」
その慇懃無礼な態度に、クリスティーナは決して味方にはならないと、はっきりと理解できた。
「君が証人だというが、それは本当なのかい?」
「はい。わたくし、エリアーナ様とは個人的に親しくさせて頂いておりましたが、彼女のあまりにも酷い振る舞いに耐えられなくなりまして。エミリア様に励まされ、震える足を叱咤して、こうして名乗りを上げたのでございます。」
「そうか……。それで、エミリア嬢の訴えに嘘偽りは無いというのだな?」
「左様でございます。それに……」
レイモンドの問いかけに、クリスティーナは、はっきりとした声で発言していたのだが、突然何かを躊躇うように言い淀んできた。
「構わない、申してみよ。」
レイモンドは、いつもの口調とは打って変わって、上に立つ者の風格を漂わせ、厳しい顔でクリスティーナの話の先を促してくる。
「はい。……エリアーナ様は、それだけでは飽き足らず、男子生徒の方を誑かしてエミリア様を襲わせようとしたのでございます。」
クリスティーナの独白に、周りに居た貴族たちが騒然とする。
その様子をちらりと見たレイモンドは、小さく息を吐くと、クリスティーナを真正面から見据えた。
「その発言に、嘘偽りはないのだな?」
レイモンドに見つめられたクリスティーナは、薄っすらと頬を染めながら口を開いた。
「はい、誓って嘘は申しておりません。エリアーナ様の企みは、たまたま通りかかったエミリア様の級友のお陰で未遂で済んでおります。しかし、エリアーナ様に誑かされた男子生徒の方は、エリアーナ様に騙されたことに気づき、心身を患い学園を去りました。なんと嘆かわしい事でしょう。」
そう言うと、クリスティーナは悲しそうに顔を伏せてしまった。
同情を誘う仕草に、周りに居た貴族たちの視線がエリアーナに向けて冷たく突き刺さる。
エリアーナは、意味が分からないまま話が進んでいく現状に、頭が付いて行かないまま呆然と立ち尽くしていた。
――なに?何を言っているの、この人達は?
エミリアもクリスティーナもレイモンドさえも、自分の知らない人のように思えてしまう。
どくどくと鳴る心臓に、息が苦しくなってくる。
何か反論しなきゃと思うが、自分の口がまるで池の中の魚のように、口をパクパクするだけで、肝心の声を出すことが出来なかった。
そんなエリアーナを置き去りにして、話はどんどん進んでいった。
見た事も無い冷たい視線に射貫かれて、エリアーナはその場に縫い付けられたように体が動かなくなってしまった。
胸の辺りは冷水を浴びたように冷たく感じ、それと比例して鼓動はどんどん早くなっていく。
嫌だ、これ以上見ていたくない、聴きたくない、と心は叫ぶのだが、エリアーナの足は石にでもなってしまったのか、どんなに逃げたいと心の中で願っても動くことが出来なかった。
無言で見つめるエリアーナを了承と取ったのか、レイモンドは話を続けた。
「ここにいるエミリア・ランヴァッハ嬢から、君にいじめを受けていたという訴えがあった。それは本当かい?」
一瞬だけ見せた優しい眼差しに、エリアーナの硬直が解け「え?」と思わず聞き返していた。
「そうです!エリアーナ様に裏庭に呼び出された挙句、レイ様に近づくなと脅されました!他にも、廊下ですれ違えば足をかけて転ばされたり。そればかりか、他の令嬢の方々を使って私に意地悪をしてきたんです!!」
――は?
レイモンドを押しのけ、涙ながらに訴えてきたエミリアに、エリアーナの眉間に皺が寄った。
「証人だっています!」
そしてエミリアは息つく暇も与えず、畳みかけるように叫んできた。
エミリアの声に、背後に居た人だかりの中から一人の令嬢がすっと前に出てきた。
「クリスティーナ・ファウゼン嬢……。」
レイモンドの呟きに、クリスティーナは優雅に微笑むと、二人に向かって淑女の礼を取って挨拶してきた。
そして首を巡らし、エリアーナに微笑みを向けてくる。
「ご機嫌よう、エリアーナ様。」
その慇懃無礼な態度に、クリスティーナは決して味方にはならないと、はっきりと理解できた。
「君が証人だというが、それは本当なのかい?」
「はい。わたくし、エリアーナ様とは個人的に親しくさせて頂いておりましたが、彼女のあまりにも酷い振る舞いに耐えられなくなりまして。エミリア様に励まされ、震える足を叱咤して、こうして名乗りを上げたのでございます。」
「そうか……。それで、エミリア嬢の訴えに嘘偽りは無いというのだな?」
「左様でございます。それに……」
レイモンドの問いかけに、クリスティーナは、はっきりとした声で発言していたのだが、突然何かを躊躇うように言い淀んできた。
「構わない、申してみよ。」
レイモンドは、いつもの口調とは打って変わって、上に立つ者の風格を漂わせ、厳しい顔でクリスティーナの話の先を促してくる。
「はい。……エリアーナ様は、それだけでは飽き足らず、男子生徒の方を誑かしてエミリア様を襲わせようとしたのでございます。」
クリスティーナの独白に、周りに居た貴族たちが騒然とする。
その様子をちらりと見たレイモンドは、小さく息を吐くと、クリスティーナを真正面から見据えた。
「その発言に、嘘偽りはないのだな?」
レイモンドに見つめられたクリスティーナは、薄っすらと頬を染めながら口を開いた。
「はい、誓って嘘は申しておりません。エリアーナ様の企みは、たまたま通りかかったエミリア様の級友のお陰で未遂で済んでおります。しかし、エリアーナ様に誑かされた男子生徒の方は、エリアーナ様に騙されたことに気づき、心身を患い学園を去りました。なんと嘆かわしい事でしょう。」
そう言うと、クリスティーナは悲しそうに顔を伏せてしまった。
同情を誘う仕草に、周りに居た貴族たちの視線がエリアーナに向けて冷たく突き刺さる。
エリアーナは、意味が分からないまま話が進んでいく現状に、頭が付いて行かないまま呆然と立ち尽くしていた。
――なに?何を言っているの、この人達は?
エミリアもクリスティーナもレイモンドさえも、自分の知らない人のように思えてしまう。
どくどくと鳴る心臓に、息が苦しくなってくる。
何か反論しなきゃと思うが、自分の口がまるで池の中の魚のように、口をパクパクするだけで、肝心の声を出すことが出来なかった。
そんなエリアーナを置き去りにして、話はどんどん進んでいった。
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