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2章 新生活スタート
28 嫉妬
しおりを挟むー どれ位こうしていただろうか。
既に涙は止まっていたが、何となく温もりから離れ難くて抱き締められ続けていた。
ちょっと頭を擦り寄せてみる。
より密着した体温に、何故か安堵感があった。
もしかして俺、人肌恋しかったのかな…
トン、トン、と一定のリズムで撫でる様に優しく叩かれる感覚に頭がボーッとしてきた頃だった。
ガチャリ
「遅くなった…っおい小童、カンザキに何している!」
マーナのご帰還だ。
タイミング悪過ぎるだろ。
俺を抱き締めるセシルさんと、ピッタリくっつき離れたがらない俺。
誰がどう見ても、そういった関係に見えてしまいそうな距離感だ。
「あ、マーナガルム様。お邪魔しております。」
セシルさん、それマーナを煽るだけだからやめようか。
ホラ!マーナの尻尾めちゃくちゃ逆立ってるよ!!
「マーナ、セシルさんがご飯を持ってきてくれたんだ。
それで、今日はもう遅いし、家で食べようと思ってて。」
急いで涙を拭った俺は、努めて明るい声でマーナに呼びかけた。
「カンザキ…何もされていないのか?」
「あ、うん。これは…俺からセシルさんにお願いしたんだ。」
(咄嗟だとは言え、変なこと口走ったぁあ!)
「カンザキから…?」
「ホ、ホラ。俺、母さんと逸れたから、人肌恋しくなって…?」
自分で言ってて、苦しい言い訳だなと思ってはいるよ。
「そういう事です。
マーナガルム様もお食事一緒に如何ですか?食堂のテイクアウトですが…」
「…ああ。」
セシルさんも口裏を合わせてくれる様だ。
何から何まですみません…!
*****
その後はトラブルもなく食事を終え、マーナと俺で明後日の放課後に校長室に向かう約束をし、セシルさんを見送った。
「はー!美味しかったなあ。さっきは飢えで死ぬかと思った。」
「大袈裟だな。」
「事実だ!…そういえば、マーナ遅かったな。何してたんだ?」
「森の奥の方で少し嫌な気配を感じてな。念のため調査に向かった。」
「不穏だな。大丈夫だったのか?」
「問題ない。対処できる範囲内だった。」
…なんかあったんだな。
「それよりもカンザキ…先程小童に抱かれていただろう。」
ブフォ!!!
食後の紅茶を盛大に噴いてしまった。
「その言い方語弊があるからやめてくれ!」
「…あれは、小童じゃないとダメだったのか?」
(どうしたのこの子…)
沈んだ声色に、呆気に取られてしまった。
よくみると、ションボリと耳も尻尾も垂れている。
(タロみたいで、本当に調子狂うな…)
「いや、そういうわけじゃ…」
俺は何も悪くないはずなのに、浮気を見咎められた彼氏の様な言い訳を始めてしまった。
再度言うけど、俺は悪くないのに、だ。
「じゃあ私でも良いんだな?」
「は?」
何でそうなる?
ガバリ、と覆いかぶさられ、重みに耐えかねてソファに沈んでしまった。
(いてててて!)
「カンザキ、カンザキ…っ!」
(本当どうしたんだよ…情緒不安定だな。)
「私を置いて行かないでくれ…」
やっと顔をあげたと思ったら、その目は虚になっていた。
何時もギラギラと獰猛に輝く瞳は、まるで光を受けきれなかった月のように沈んだ色をしていた。
ー もしや、寂しかったのか…?
「何言ってるんだ。俺はここにいるだろ。」
「そうなんだが、そうじゃないんだ。」
「はあ?」
犬心は分からないな…あ、狼か。
恒例のセルフツッコミを行っていると、
腹のあたりにグリグリとフサフサな物が押しつけられる感触がした。
下を見ると、マーナが俺のお腹に頭を擦り付けていた。
「撫でてくれ…」
(で、結局はこうなるのね。)
オーケーオーケー、分かったよ。
無防備に晒されている背を人差し指と中指で撫であげる。
今日は頑張ったみたいだし、マッサージを意識してやってみるか。
「マーナ、足出して。」
「足?」
訝しげに、うつ伏せのまま足を向けてきた。
手始めに、尻尾の付け根をクリクリと解し、その力のまま足先まで手を滑らせる。
「っ!」
(あ、ここ凝ってるなあ…)
ふくらはぎの筋肉を強めに押し込み、血流を良くさせる。
(現代人でもここ凝ってる人多いらしいよな。)
グリッ!!
「っわぁぅ!」
痛みだけではないのか、ピン!と尻尾を振り上げ、わなわなと震わせている。
「ッグリグリする…!気持ちいい…」
「それは良かった。じゃあ、流すような感じでマッサージしてみる。」
ふくらはぎを押し込むように、膝裏、太腿と押す場所を上げて行った。
そして…
(ここは避けたほうがいいよな…?)
尻にまで辿り着いてしまった。
ここまでマッサージするのは求められてないだろうなと悩んでいると、声を掛けられる。
「…どうした?そこはやらないのか?」
「あ、いや何でもない。」
(めっちゃ欲してたわ)
覚悟を決め、掌で包むようにして押し込む。
「んっ…」
うおお、ここまで筋肉体質だとは…
掌で感じる感触は、脂肪の柔らかさではなく、しっかりとした筋肉のそれだった。
これはクセになりそう…
勝手ながら暫くその感触を楽しんでいると、ビクリとマーナの身体が跳ねた。
「…ッカンザキ!ゆ、指がっ!!」
「指?指がどうかした?」
意味が分からず鸚鵡返しすると、マーナは耳をトマトの様に赤くした。
「ぁ…な、なんでもないっ…」
(なんだったんだ…?)
何か緊張してそうだったので、別の場所に手を移そうとしたら尻尾に阻まれた。
「ッここが良い!」
「どっちだよ…」
「お、お尻が…良い…」
一瞬何事かとドギマギさせる誘い文句を言いながら、こちらを見る。
軽く振り返ったマーナの目は、どことなく何時もよりも潤んでいた。
なんか良く分からないが、そのままマッサージを続行した。
5分ほど全身を解し、最後に頭をサラッと一撫でしてソファから降りる。
「じゃ、俺寝るから。」
おやすみ~と言いつつ部屋を後にした。
「クソッ…!」
真っ赤な顔で尻尾と耳を忙しなく動かすマーナを置いて。
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