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危うきに近寄らず

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(なんか滅茶苦茶派手な人が来たぞ?!)


それ本当にフィラに売ってる服なの?!とツッコミたくなる程に派手派手だ。

俺はその装いの派手さと言動から、危うい雰囲気を感じ、サッと目を逸らす。
経験上このタイプは非常に自信家で、自己本位な考え方の奴が多い。

勿論そうと決まったわけではないが、危ない橋は渡りたくないので存在感を消すことにする。


(俺は空気、俺は空気……)


「さっきその辺りの冒険者が『バレスに連れがいた』って騒いでたんだけどなぁ……勘違い?」

「勘違いだろう。それだけの為に来たのか?あるなら要件を話せ」


聞いたこともないような冷たい口調で黄色の髪をした男を突き放す。


(うわ、バレスさんあの人に対して素っ気無さすぎない?)


お前と話していたくない、とあからさまな態度で示しているバレスさんにヒヤヒヤとするが、さらにその上を行くのがこの男らしい。

バレスさんの応対を見て何かに勘付いた男は、笑みを深めてバレスさんの肩を指で突く。


「なんか不機嫌?もしかして、連れの子に逃げられちゃった?」


途端、バレスさんの纏う空気がヒヤリと冷たくなる。
影になっている俺からは見えないが、きっととんでもなく怖い顔をしているに違いない。
そう感じさせる、怒気のこもった声だった。


「何度も言わせるな」


黄色の男は肩を竦めると、大人しくバレスさんの隣の席に座る。
……いや、この状況で座るんかい!


(そもそもこの黄色い髪の人、何者なんだ?)


バレスさんとも対等に話すことができて、かつこの煌びやかさ。
並の人間では許されない言動の数々も相俟って、この人物の立場を誇示されているようだ。

俺の勘はそんなに当たらないんだけど、今回ばかりは本当に要注意人物かもしれない。
鋼のメンタルを持つ黄色の男は、未だ戯けた様子で話を続けている。
何か重要な話をするのか、声を潜めつつではあるが。


「怖いねぇ、そんな顔するから連れの子が逃げちゃうんだよ?そうそう、実はさっき<もう一人の転移者>の情報が掴めたって速報が入ったワケよ」

「……本当か」

(ッ!?)


俺は突然の話題に噎せそうになりながらも、必死に動揺を抑えた。
震える手を握りこみ、早鐘を打つ心臓の拍動を意識しないようにやり過ごす。

気を抜くと、あのヤバい奴に盗み聞きがバレてしまいそうだ。


(ほんっと、タイミング悪すぎだろ……!!)


「良い反応だね!世にも珍しい黒髪を持つものを見たと証言した奴がいてね。まぁ伝承にある髪の色とは異なるけど、転移者で間違いないらしいよ……はぁ」


話の内容とは裏腹に、頬杖をついた男のテンションが段々と下がっていく。


「国王サマも大層お喜びらしくってねぇ。直ぐにでも俺を寄越すって話になってるんだって、メンドクセェ~」


最後の方は心底興味ありません、と言った表情で“めんどくさい”と言い放ったこの男。
国王から直々に指名されるほどの重要な人らしいことが分かった。

それは分かったのだが、もう俺の関心はその目撃情報に移っていた。


(黒髪が発見されたって、そう言ったよな)


一体、どこで見られたんだろう…それによって、発見されるまでの時間的な猶予が変わってくる。

この前、ケンと衝突した時?
それとも、俺がアンナさんの家を出た時?
いや、そもそも俺が草原で寝こけてた時か?

考えられる可能性は無数にある。

俺が二人に悟られないように、このあとの展開に絶望していると、バレスさんは小さく溜息を吐いた。
黄色い男に内緒話をするように耳打ちしているが、残念ながら同じカウンターに着席している俺には丸聞こえだ。


「勇者のお前が行くということは、目撃された場所は国外か?」

「そーいうこと」

(国外ってことは俺じゃない?っていうか、ゆゆゆ勇者って……)


この黄色い無神経そうな男が?!
一度に色々な情報が伝わってきて、すでに俺はパンク寸前だ。


「って事で、何日間か居なくなるから、留守をたのんまーす!」

「お前、執務から逃げられて良かった、とか思っているんじゃないだろうな」

「他の弱っちい奴ならわかるけどさ。俺が一番強いのに、屋内で執務とか意味わかんなくない?」


黄色い男はバレスさんの問い掛けから逃げるように、軽い足取りで席を立つ。
それは自分の実力を信じて疑わず、実力が劣る冒険者達を下に見る発言だった。


(なるほど、正論だとは思うけど、確かにこれは他の冒険者と折り合いが悪くなるな)


それにしても、やはり国外での目撃情報というものが気になる。


("さいしょのむら"は実はこの国所有のものではなく、隣国のものでした!なんて事があったりはしないよな)


悲観的にも考えたりもしてみたが、勇者は“何日間かいなくなる”と言っていたし、俺じゃない誰かが国外の地で目撃されたと考えるのが自然だと思う。


(でももしそうだったとしたら、俺みたいに巻き込まれた人がもう一人いたりとかするのか……?)


考え過ぎで頭が痛くなってきた。


「ならばとっとと行け。こんな所で時間を浪費するな」

「はいはーい、不機嫌バレスが怖いから出発しますよぉ」


じゃあね~、と間延びした声を出しながら酒場を後にする勇者の背を呆然と見送る。
とんでもなく癖の強い人だった。絶対関わり合いたくないな。


「ユウ、すまなかった……もう良いぞ」


バレスさんは申し訳なさそうに、こちらに声を掛けてくる。


「いえ、全然大丈夫です」


本当は全く大丈夫じゃなかったけど、ひとまず勇者が去ってくれて助かった。
バレスさんにオーダーをお願いして、果実水で乾いた喉を潤した。

緊張で、喉がカラカラになってたよ。


「ユウも見たことがあるかもしれないが……あんなのでも一応力は強い。歴代最強とも言われているんだ」

「え、歴代最強ですか?!」

「ああ……悔しいがな。でもあの性格だ。誰ともパーティーを組めず、今まで単独でクエストをこなしてきている」

「なんか、それもそれで一種の才能ですよね」


そんなに強い人だったのか。
危なそうな人だとは思ったけど、最強感はまるでなかった。

……どちらかというと、言い合ってる姿は“熊と狐”といった感じだ。

バレスさんは俺の話に首をゆるく横に振り、俺を優しく見つめた。


「彼奴の話はもう良いだろう、今度は君のことを聞かせてくれないか」


勇者に向けるものとは打って変わって、優しい声色と視線にドキリとするが、これは次に来る質問攻めへの緊張によるものだ……きっとそうだ。


適度に世間話をした俺たちは、手元に届いた果実水の氷が溶ける頃、連れ立って村への帰途に着いた。

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