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同居人

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背が高くやたらガタイがいいフードの男と、その後ろをついて回る一般男性、俺。
側から見れば、布面積の多い親子に見えるかもしれない。

それほど、イアンさんのスタイルは抜群だ。


「あの、イアンさん」

「……なんだ」

「俺と一緒に住むなんて……無理しなくていいんですよ? 俺がどういう人間かも分からないのに」


アンナさんの家を出てから、ずっと聞きたかったことだ。

怪我を負って危険な状態だから、誰かと行動した方がいいという話なのはわかる。
が、数時間前まで知り合いでもなんでもなかった男と一緒に住むなんて、いくらなんでもおかしいだろう。

イアンさんは、助けた俺に恩義を感じていると言っていたけど、相手がどんな人間かも分からない状況で、手放しに俺を信用できるだろうか。

……到底無理な話だ。

それはイアンさんはもちろん、俺だって例外じゃない。
お互いがお互いを知らなさすぎる状況なんだ。


心で燻る不安を抑え込むことが出来ないまま、俺はイアンさんと数秒見つめあった。


「ユウ、といったか」

「あ、はい」

「……あの時、俺を騎士団に差し出さなかった」


イアンさんはそこで一度話すことを止めると、俺の頭をするりと撫でた。


「っ?! 」

「それで十分だ」


交差した視線の先、血のように赤い瞳が、光を受けたようにキラリと輝いた。

その輝きに思考を奪われている間に、頭に乗せられていた手は、俺の手を握りしめた。
そのまま俺の手を引くと、ズルズルと引きずるように村へと向かう。

俺に配慮してくれるリドさんとは違い、思いっきり自分のペースで進んでいくその速度は尋常じゃない。


(ちょっ!足縺れるって!! )


引っ張られた反動によってペースを乱された俺は、必死にバランスを取りながらイアンさんについていく。

こんな歳になって、迷子センターに連れて行かれる子供のような扱いを受けるとは思わなかった。


(決して、明らかな体格差でちょっと拗ねてるわけじゃないから!)


あまりに足元ばかりに気を配っていた俺は、土と草のコントラストを眺めているうちに突然止まった背に気付かず顔面を強打してしまった。


「うぐぅ! 」


今!俺の鼻からベキョッて音がなった気がするんだけど……?!
流石に抗議しようと息巻いて前方を確認すると、そこには凄い形相でイアンさんを威嚇しているリドさんがいた。
今にも飛びかかりそうなイラついた空気を隠そうともしない。

……こんなに怒ってるリドさん、初めて見た。


「村長」

「その瞳の色、複雑な気配……何者だ。俺の村に何か用か」


かなり警戒しているだろうリドさんに呼びかけようとした瞬間、俺よりも近い位置にいるイアンさんが先手を取ってその問いに答えてしまう。


「ユウの、同居人だ」


……かなり誤解を招きそうな表現で。


「はあ?!ユウ、聞いてないぞ。俺と言うものがありながら!」


リドさんはその場から少し浮き上がったのではないか、と思うほどの大声をあげる。
耳痛っ!っていうか、意味わからないこと口走ってませんか?


「この人はアンナさんの息子さん、イアンさんです!俺が今借りているお家の家主さんですって!」


すぐにでも拳を繰り出せますよ、という臨戦態勢になっていたリドさんは、俺の言葉に動きを止めた。
次の瞬間、イアンさんにガッツリと詰め寄り、フードを脱がせ、マジマジと観察し始めた。


「お前、イアンなのか? 」

「どうも……リドさん」

「……話を聞こう。中に入れ」


1年以上旅に出てました!と言うだけでは説明がつかないその容貌の変わり様に、何か勘付いたのだろう。

リドさんは、それ以上何を言うでもなく、俺たちを家に招き入れた。





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