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第27話
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僕は上田さんから聞いた高橋って人のことを朋美さんに聞く勇気など当然持ち合わせていない。ただ一人で悶々としながら考えていた。
所詮…過去のことは過去のこと…今は僕とバーチャルとはいえ真剣に付き合っているんだ…きっと朋美さんも…今さら高橋って人とどうこうなろうとは思わないんじゃ…ない…かな…でも、ここ最近の朋美さんの不審な行動…もしかしたら高橋って人が異動になることを事前に知らされていて…
あぁ~駄目だ駄目だ!余計なことばかり考えて勝手に疑ったりして…でも、あの大凶のおみくじも、もしかしたらこの出来事の暗示だとしたら…
僕はそんなことばかり考えて仕事に集中出来ず、うっかりして包丁で指先を切ってしまった。
そのまま仕事を続行することは出来ず、すぐに病院へ向かい怪我の処置をしてもらった。傷は1センチ程で、深さは大したことはなく2針縫う程度で治まった。
僕が病院から戻ると、少し職場の空気が変わっている気がした。
それは、他店から異動になった高橋という人がこの店の副店長として就任していたのだ。
とりあえず店長に怪我の具合の報告に事務所に入った時に高橋副店長と初対面した。
この高橋という人は細身で長身、髪型は清潔感漂うサラリーマン風で、眼鏡をかけてインテリに見えた。顔も端正な顔立ちで、確かにこの人なら自分から言い寄ればいくらでも女性は落ちるのだろうという気がした。
僕はすぐに副店長に挨拶をしたが、恐らく第一印象はあまり良くはなかっただろう。普段なら明るく笑顔で挨拶しているが、この時ばかりは高橋という男に軽蔑の眼差しを向けたのは自分でもなんとなくわかっていた。
しかし高橋副店長はそんな僕の態度を何とも気にせずに挨拶を返してきた。
「今日からこちらに就任した高橋です、宜しく。怪我は大丈夫だったかい?」
「はい、大したことはないです…」
「そうか、とりあえずしばらくは衛生上売り場の方で動いてもらった方が良さそうだね」
「はい、わかりました」
僕はぶっきらぼうにそう答えてすぐに事務所を出た。
とりあえずしばらくの間はまな板に立つことは出来ないので品出しをメインに作業することになる。朋美さんにも僕から直接指示を出してレイアウトをその都度変えていく流れになる。その分朋美さんと接触する機会が増えていく。
僕は朋美さんの様子を観察した。高橋という男が現れたとき、いったいどんな反応を見せるのか…男性遍歴は果たして真実なのだろうか…怖いもの見たさで朋美さんの表情や動きをチェックした。
しかし、そうした僕と朋美さんのことを更に第三者が 観察していたとは気付いていなかった。
少し経ってから高橋副店長が各売り場を周り、それぞれの担当者や従業員の人達と軽く雑談を交わす姿が見られた。そしていよいよこの鮮魚コーナーにも足を踏み入れた。
僕は高橋副店長が朋美さんを見る目を観察した。
しかし意外にも高橋副店長は他の皆と同様に朋美さんに対しても軽く笑顔で「宜しく」と会釈を交わしただけで、特別変わった素振りは微塵も見せることはなかった。朋美さんにしても高橋副店長にお久しぶりです!と軽く頭を下げただけで、過去に二人の間に何かあったような風には少しも見えなかった。
しかしパートさん方の目は興味津々に高橋副店長と朋美さんの絡みを見つめていた。そしてパート同士お互い目配せして頷きあっている。その視線は僕の方にも一瞬向けられた。パートさんは僕と目が合ったのが気まずかったらしく、すぐに目を逸らせた。
僕はこの先ずっとこの気まずい空気の中で仕事をしなければならないことに気が重くなっていた。
この日仕事が終わってから僕は少し迷いながらも朋美さんに電話をかけた。しかし話し中なのか、いくらかけても繋がらない。それが何を意味しているのかを想像するのは簡単なことだった。
結局色々な情報の点と点が繋がって、一つの答えにたどり着いた…つまりそういうことだったのか…
僕はもう疑いようのない事実に力なくうなだれた。出来ればそれは事実では無いことを願っていたのだが、現実というのは思った以上に酷なようだ…
僕はこれ以上朋美さんに連絡を取る気にはなれず、自分の寮に戻り晩御飯も食べずに布団に入った。
もう連絡したくないという想いと、朋美さんからかけ直して欲しいという想いが交錯していたが、結局それすらも叶うことはなかった。
朋美さん…もう貴女には僕は必要ありませんか?やっぱりあの男と関係があったんですか?今頃あの男と男女の関係になってるんでしょうか?今まで僕と想い出を作ろうって言って…沢山色んな所に行ったのはいったい何だったんでしょうか?こんなに朋美さんのことを想っていたのに…朋美さんも僕のことを想ってくれてると想っていたのに…それは…全部僕の独りよがりだったの?ねぇ…教えてよ…朋美さんはずっとずっと演技してただけなの?あの時の夏の想い出は?紅葉見て感動した想い出は?クリスマスプレゼントの喜びは?あの日の…あの日の…僕に朋美さんの全てをくれたあの日の…
僕はあまりの悲しさに声を出して泣いていた。
もう…これで全部終わりだね…
所詮…過去のことは過去のこと…今は僕とバーチャルとはいえ真剣に付き合っているんだ…きっと朋美さんも…今さら高橋って人とどうこうなろうとは思わないんじゃ…ない…かな…でも、ここ最近の朋美さんの不審な行動…もしかしたら高橋って人が異動になることを事前に知らされていて…
あぁ~駄目だ駄目だ!余計なことばかり考えて勝手に疑ったりして…でも、あの大凶のおみくじも、もしかしたらこの出来事の暗示だとしたら…
僕はそんなことばかり考えて仕事に集中出来ず、うっかりして包丁で指先を切ってしまった。
そのまま仕事を続行することは出来ず、すぐに病院へ向かい怪我の処置をしてもらった。傷は1センチ程で、深さは大したことはなく2針縫う程度で治まった。
僕が病院から戻ると、少し職場の空気が変わっている気がした。
それは、他店から異動になった高橋という人がこの店の副店長として就任していたのだ。
とりあえず店長に怪我の具合の報告に事務所に入った時に高橋副店長と初対面した。
この高橋という人は細身で長身、髪型は清潔感漂うサラリーマン風で、眼鏡をかけてインテリに見えた。顔も端正な顔立ちで、確かにこの人なら自分から言い寄ればいくらでも女性は落ちるのだろうという気がした。
僕はすぐに副店長に挨拶をしたが、恐らく第一印象はあまり良くはなかっただろう。普段なら明るく笑顔で挨拶しているが、この時ばかりは高橋という男に軽蔑の眼差しを向けたのは自分でもなんとなくわかっていた。
しかし高橋副店長はそんな僕の態度を何とも気にせずに挨拶を返してきた。
「今日からこちらに就任した高橋です、宜しく。怪我は大丈夫だったかい?」
「はい、大したことはないです…」
「そうか、とりあえずしばらくは衛生上売り場の方で動いてもらった方が良さそうだね」
「はい、わかりました」
僕はぶっきらぼうにそう答えてすぐに事務所を出た。
とりあえずしばらくの間はまな板に立つことは出来ないので品出しをメインに作業することになる。朋美さんにも僕から直接指示を出してレイアウトをその都度変えていく流れになる。その分朋美さんと接触する機会が増えていく。
僕は朋美さんの様子を観察した。高橋という男が現れたとき、いったいどんな反応を見せるのか…男性遍歴は果たして真実なのだろうか…怖いもの見たさで朋美さんの表情や動きをチェックした。
しかし、そうした僕と朋美さんのことを更に第三者が 観察していたとは気付いていなかった。
少し経ってから高橋副店長が各売り場を周り、それぞれの担当者や従業員の人達と軽く雑談を交わす姿が見られた。そしていよいよこの鮮魚コーナーにも足を踏み入れた。
僕は高橋副店長が朋美さんを見る目を観察した。
しかし意外にも高橋副店長は他の皆と同様に朋美さんに対しても軽く笑顔で「宜しく」と会釈を交わしただけで、特別変わった素振りは微塵も見せることはなかった。朋美さんにしても高橋副店長にお久しぶりです!と軽く頭を下げただけで、過去に二人の間に何かあったような風には少しも見えなかった。
しかしパートさん方の目は興味津々に高橋副店長と朋美さんの絡みを見つめていた。そしてパート同士お互い目配せして頷きあっている。その視線は僕の方にも一瞬向けられた。パートさんは僕と目が合ったのが気まずかったらしく、すぐに目を逸らせた。
僕はこの先ずっとこの気まずい空気の中で仕事をしなければならないことに気が重くなっていた。
この日仕事が終わってから僕は少し迷いながらも朋美さんに電話をかけた。しかし話し中なのか、いくらかけても繋がらない。それが何を意味しているのかを想像するのは簡単なことだった。
結局色々な情報の点と点が繋がって、一つの答えにたどり着いた…つまりそういうことだったのか…
僕はもう疑いようのない事実に力なくうなだれた。出来ればそれは事実では無いことを願っていたのだが、現実というのは思った以上に酷なようだ…
僕はこれ以上朋美さんに連絡を取る気にはなれず、自分の寮に戻り晩御飯も食べずに布団に入った。
もう連絡したくないという想いと、朋美さんからかけ直して欲しいという想いが交錯していたが、結局それすらも叶うことはなかった。
朋美さん…もう貴女には僕は必要ありませんか?やっぱりあの男と関係があったんですか?今頃あの男と男女の関係になってるんでしょうか?今まで僕と想い出を作ろうって言って…沢山色んな所に行ったのはいったい何だったんでしょうか?こんなに朋美さんのことを想っていたのに…朋美さんも僕のことを想ってくれてると想っていたのに…それは…全部僕の独りよがりだったの?ねぇ…教えてよ…朋美さんはずっとずっと演技してただけなの?あの時の夏の想い出は?紅葉見て感動した想い出は?クリスマスプレゼントの喜びは?あの日の…あの日の…僕に朋美さんの全てをくれたあの日の…
僕はあまりの悲しさに声を出して泣いていた。
もう…これで全部終わりだね…
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