31 / 32
第31話
しおりを挟む
「ちょっ…ちょっと…待って…下さい…何の…冗談…気分が悪い…」
僕は今目の前にあるものがとても現実のものとは思えなかった。どこか違う世界の出来事というか…今僕自身が本当にここに存在しているのかわからないというのか…
つまり僕の頭の中はこの現実に付いて行けていない状態だった。
副店長は僕の心情を察してか、しばらく何も言わずに待っていてくれた。
僕は段々と心と頭が追い付いて来て、目の前の現実を理解し始めた。
僕はあまりの突然の出来事に涙も流れない…
こんなに悲しいのに…
こんなに虚しいのに…
こんなに苦しいのに…
こんなに…
淋しいのに…
突然僕の前から姿を消して…
サヨナラの一言もいえなくて…
ありがとうだっていってないのに…
どうして?
どうして………
気付いたら副店長は仏壇の前の朋美さんの遺影の前で線香をあげて手を合わせていた。
そしてゆっくりと振り返り
話し出した。
「鈴木君はね…君と付き合ってしばらくした頃からずっと癌の苦しみと闘ってたんだよ…」
副店長は僕から目を離し、涙声に変わっていった。
「鈴木君は…自分がもう長くないことを知って…身体の痛み苦しみと闘いながら必死に………
君との人生最期の想い出を………」
副店長は必死に涙を堪えながら続けた。
「想い出を………
作る為に必死で頑張っていたんだ…
そして………
君の為に彼女は………
何も言わずに君の前から………
そして…
俺が今の店に戻ることを知って…身寄りのない彼女は…
俺に全てを託したのさ…
彼女が急に仕事を辞めたのは…もう身体の限界を感じていたのと、俺がこの日にこうして君に全てを打ち明けるように算段がついたからだったんだよ…
彼女は自分の弱っていく姿や、変わり果てて行く姿を君に見せたくは無かったのさ…
だから若く綺麗なままの彼女の姿を写真に収めて想い出として君に残したかった…
彼女はね…
病室でいつもいつも写真を手に、君との想い出を語っていたんだよ…
俺にはそれが…
死んでも君との想い出を忘れないように何度も何度も胸の中に納めようとしているように思えてたんだ。
君は幸せ者だね…
一人の女性からそんなにも強く想われることが出来て…
彼女が…
亡くなったのは…
つい一週間前のことさ…」
僕は愕然とした。
朋美さんがそんなにも辛い想いをして一人で闘っていたとき…
僕はいったい何をしていた?
僕はバカだ…
どうしようもないバカだった…
何故朋美さんを信じてあげることが出来なかったんだろう…
どうしてあんなに疑ってしまったんだろう…
朋美さんにフラれたと勘違いして、朋美さんに対していったい僕はどれ程の過ちを犯してしまったんだろう…
きっと朋美さんは凄く淋しい想いをしただろうに…
一人で辛い想いをしただろうに…
苦しかっただろうに…
なのに僕は?
僕はその頃何をしていた?
朋美さんに対して当て付けのようにいろんな女を抱いて?
自分勝手に楽しくもないギャンブルに走って?
あの時どんなに悪ぶっても何も満たされることなんか無かったのに…
結局いつもいつも頭の中には朋美さんしか居なかったのに…
なのに僕は朋美さんに対してどんな酷い仕打ちをした?
徐々に僕は自責の念に押し潰されていく…
「そうだったんですね…」
僕はうなだれながら副店長に質問を投げかけた。
「一つだけ…
教えてもらえますか?」
副店長は黙ってうなずいた。
「………副店長は過去に朋美さんと関係があったんですか?」
「関係?そうか…確かに鈴木君とは何度かご飯を食べに行ったことはあったよ。彼女が最愛の旦那さんと死別して…それで生きる気力を失くしてた時に、俺が相談に乗って彼女を慰めた…
その後に俺がたまたま異動になったから、そういう噂が立ったのかもな…
しかし、これだけは言っておくよ。今の職場では色々噂が立っていたようだが………
彼女は誰にでも簡単になびくような軽い女性では決して無いと。
本当に純粋で一途な素敵な女性だったと…」
僕はその言葉を聞けただけで満足していた。
本気で愛した朋美さんが、完全に僕の理想通りの女性であったことに。
~現在に戻る~
実花は僕の話を聞いてボロボロと涙を流していた。
化粧が崩れていたが必死にハンカチで涙を抑えながら黙って聞いている。
「僕は……………
君が思っているような男じゃないんだよ…
僕の身体は汚れて………
彼女を裏切って………
自分勝手で………
それに…
君には僕のような運命を辿らせたくないんでね…」
「それは…どういうことですか?私、主任に過去に何があっても…私の想いは変わりません!
だって…
覚えてますか?
まだ私が事務の要領がわかって無くて失敗して一人で残業してた時のこと…
あの時主任は、私の為に自分もやり残した仕事が溜まってるからと下手なウソを付いて一緒に居残って下さいました。
そういう優しさに…
いつか私を………
主任の側に置いて欲しいって………
想うようになったんです…
だから…」
実花がそこまで言ったのを僕は制止して
「安西君…ありがとう…
でも、もう君の気持ちを受けるには遅すぎたようだ…」
「え?」
「すまない…どうやら僕にも残された時間は少ないみたいなんだ…」
「え?それって…どういう意味ですか?」
僕は今目の前にあるものがとても現実のものとは思えなかった。どこか違う世界の出来事というか…今僕自身が本当にここに存在しているのかわからないというのか…
つまり僕の頭の中はこの現実に付いて行けていない状態だった。
副店長は僕の心情を察してか、しばらく何も言わずに待っていてくれた。
僕は段々と心と頭が追い付いて来て、目の前の現実を理解し始めた。
僕はあまりの突然の出来事に涙も流れない…
こんなに悲しいのに…
こんなに虚しいのに…
こんなに苦しいのに…
こんなに…
淋しいのに…
突然僕の前から姿を消して…
サヨナラの一言もいえなくて…
ありがとうだっていってないのに…
どうして?
どうして………
気付いたら副店長は仏壇の前の朋美さんの遺影の前で線香をあげて手を合わせていた。
そしてゆっくりと振り返り
話し出した。
「鈴木君はね…君と付き合ってしばらくした頃からずっと癌の苦しみと闘ってたんだよ…」
副店長は僕から目を離し、涙声に変わっていった。
「鈴木君は…自分がもう長くないことを知って…身体の痛み苦しみと闘いながら必死に………
君との人生最期の想い出を………」
副店長は必死に涙を堪えながら続けた。
「想い出を………
作る為に必死で頑張っていたんだ…
そして………
君の為に彼女は………
何も言わずに君の前から………
そして…
俺が今の店に戻ることを知って…身寄りのない彼女は…
俺に全てを託したのさ…
彼女が急に仕事を辞めたのは…もう身体の限界を感じていたのと、俺がこの日にこうして君に全てを打ち明けるように算段がついたからだったんだよ…
彼女は自分の弱っていく姿や、変わり果てて行く姿を君に見せたくは無かったのさ…
だから若く綺麗なままの彼女の姿を写真に収めて想い出として君に残したかった…
彼女はね…
病室でいつもいつも写真を手に、君との想い出を語っていたんだよ…
俺にはそれが…
死んでも君との想い出を忘れないように何度も何度も胸の中に納めようとしているように思えてたんだ。
君は幸せ者だね…
一人の女性からそんなにも強く想われることが出来て…
彼女が…
亡くなったのは…
つい一週間前のことさ…」
僕は愕然とした。
朋美さんがそんなにも辛い想いをして一人で闘っていたとき…
僕はいったい何をしていた?
僕はバカだ…
どうしようもないバカだった…
何故朋美さんを信じてあげることが出来なかったんだろう…
どうしてあんなに疑ってしまったんだろう…
朋美さんにフラれたと勘違いして、朋美さんに対していったい僕はどれ程の過ちを犯してしまったんだろう…
きっと朋美さんは凄く淋しい想いをしただろうに…
一人で辛い想いをしただろうに…
苦しかっただろうに…
なのに僕は?
僕はその頃何をしていた?
朋美さんに対して当て付けのようにいろんな女を抱いて?
自分勝手に楽しくもないギャンブルに走って?
あの時どんなに悪ぶっても何も満たされることなんか無かったのに…
結局いつもいつも頭の中には朋美さんしか居なかったのに…
なのに僕は朋美さんに対してどんな酷い仕打ちをした?
徐々に僕は自責の念に押し潰されていく…
「そうだったんですね…」
僕はうなだれながら副店長に質問を投げかけた。
「一つだけ…
教えてもらえますか?」
副店長は黙ってうなずいた。
「………副店長は過去に朋美さんと関係があったんですか?」
「関係?そうか…確かに鈴木君とは何度かご飯を食べに行ったことはあったよ。彼女が最愛の旦那さんと死別して…それで生きる気力を失くしてた時に、俺が相談に乗って彼女を慰めた…
その後に俺がたまたま異動になったから、そういう噂が立ったのかもな…
しかし、これだけは言っておくよ。今の職場では色々噂が立っていたようだが………
彼女は誰にでも簡単になびくような軽い女性では決して無いと。
本当に純粋で一途な素敵な女性だったと…」
僕はその言葉を聞けただけで満足していた。
本気で愛した朋美さんが、完全に僕の理想通りの女性であったことに。
~現在に戻る~
実花は僕の話を聞いてボロボロと涙を流していた。
化粧が崩れていたが必死にハンカチで涙を抑えながら黙って聞いている。
「僕は……………
君が思っているような男じゃないんだよ…
僕の身体は汚れて………
彼女を裏切って………
自分勝手で………
それに…
君には僕のような運命を辿らせたくないんでね…」
「それは…どういうことですか?私、主任に過去に何があっても…私の想いは変わりません!
だって…
覚えてますか?
まだ私が事務の要領がわかって無くて失敗して一人で残業してた時のこと…
あの時主任は、私の為に自分もやり残した仕事が溜まってるからと下手なウソを付いて一緒に居残って下さいました。
そういう優しさに…
いつか私を………
主任の側に置いて欲しいって………
想うようになったんです…
だから…」
実花がそこまで言ったのを僕は制止して
「安西君…ありがとう…
でも、もう君の気持ちを受けるには遅すぎたようだ…」
「え?」
「すまない…どうやら僕にも残された時間は少ないみたいなんだ…」
「え?それって…どういう意味ですか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ヤクザのお嬢は25人の婚約者に迫られてるけど若頭が好き!
タタミ
恋愛
関東最大の極道組織・大蛇組組長の一人娘である大蛇姫子は、18歳の誕生日に父から「今年中に必ず結婚しろ」と命じられる。
姫子の抵抗虚しく、次から次へと夫候補の婚約者(仮)が現れては姫子と見合いをしていくことに。
しかし、姫子には子どもの頃からお目付け役として世話をしてくれている組員・望月大和に淡い恋心を抱き続けていて──?
全25人の婚約者から真実の愛を見つけることはできるのか!?今、抗争より熱い戦いの幕が上がる……!!
【完結】公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】
iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる